六代目山口組の司忍組長

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「そろそろ構えておいた方がいいかもしれませんね」―。あるマルボウ幹部が8月、こんな言葉を発した。

 2015年に始まった指定暴力団山口組分裂抗争が、大きな節目を迎えようとしている。警察当局内では、六代目山口組と神戸山口組、絆會、池田組に関し、「特定抗争指定暴力団」の指定を解除する機運が高まっており、近く各都道府県公安委員会が重要な判断を下す可能性が出てきた。

「これまでのように延長されるのが当たり前という状況ではない」。暴力団捜査に携わる複数の警察関係者の間で、こんな見方が広がっているのだ。

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分裂から11年、抗争は沈静化

 山口組は2015年8月、上納システムや人事など、執行部運営への反発から神戸山口組が離脱して分裂。その後、神戸山口組から絆會(旧任侠団体山口組)や池田組も脱退し、四つどもえの対立構造へと発展した。19年以降は、団体間での銃撃や襲撃事件が相次ぎ、20年には兵庫、大阪、愛知などの公安委員会が、六代目山口組と神戸山口組を特定抗争指定暴力団に指定。全国で2番目の例となった。その後、池田組と絆會にも同様の措置が講じられ、効力を持つ3カ月おきに延長されてきた。

六代目山口組の司忍組長

 以後、4団体は、各公安委員会が定めた警戒区域内で組事務所に立ち入ったり新たに事務所を構えたりすることや、5人以上で集合することなどを禁じられたため、「篠原」と呼ばれる神戸市灘区篠原本町の山口組本部も無人になるなど、活動は大きく制約された。

 警察庁によると、六代目山口組と敵対3団体との抗争に起因するとみられる事件は10年間で117件発生した。しかし件数は減少傾向にあり、23年は6件、24年は3件。25年1月に1件発生して以降は目立った抗争事件は確認されていない。

「実際に抗争事件はなかった。抗争の恐れは薄まっている」(兵庫県警捜査関係者)との見方が広がっている。

「終結宣言」が転機に

 流れが変わったのは25年4月だった。

 六代目山口組は兵庫県警に対し、「今後は一切のもめ事を起こさない」とした宣誓書を提出。神戸山口組などとの抗争終結を一方的に宣言した。

 もっとも当時、警察内部では懐疑的な見方が強かった。

 捜査員の間には「指定解除を狙ったアピール」と受け止める声が多く、対立団体がいずれも反応していない以上、終結宣言だけでは不十分との認識が支配的だった。特定抗争指定が初適用された福岡県の道仁会と九州誠道会(現・浪川会)との抗争でも、双方が終結を表明してから解除まで1年かかっている。

 実際、六代目山口組による宣誓書提出から1年経た後の今年6月にも、関係する9府県公安委員会が指定期限を3カ月延長し、「対立抗争が終結したとは認められない」と判断している。

 しかし、その後も抗争事件は発生せず、警察側の見方にも変化が生じている。

 ある警察関係者は「ヤクザの言うことは信用しない。ただ、現実に何も起きていない以上、一定の信ぴょう性が出てきたのは事実だ」と語る。

近く初判断へ、足並み統一

 現在の「特定抗争指定」は、六代目山口組と、池田組、絆會、神戸山口組との抗争の順でそれぞれ更新時期を迎える。

 今月20日にも、まずは六代目山口組と池田組との抗争指定が初めて解除され、絆會も同様の措置が取られる見通しだ。

 全国紙社会部記者は、「ある警察庁幹部に聞くと、『一斉解除という単純な話ではない』としつつ、解除判断が近いことは否定しません」と言う。

 また、この幹部は「一般論として、各公安委員会の判断になる」と説明し、国家公安委員会ではなく、各都道府県の公安委員会が個別に評価する形になるとの認識を示したという。制度上、指定の延長や解除は各都道府県公安委員会の権限だからだ。

 ただ、兵庫県警や大阪府警関係者は「実際には警察庁が調整するでしょう」と口をそろえる。

 20年の指定やその後の延長でも、警察庁が全国の関係公安委員会と連携しながら足並みをそろえてきた経緯がある。実務的には同時期に解除の結論が出される可能性が高い。

「勝負あった」からこその終結局面

 背景には各団体の勢力差拡大がある。

 六代目山口組の構成員・準構成員は24年末時点で約6900人。対する神戸山口組は約320人、絆會と池田組はそれぞれ約140人にまで減少した。神戸山口組は下部組織の脱退や解散が相次ぎ、離脱当初約2800人いた勢力が大幅に縮小した。

 警察当局は長年、「一方的な終結はあり得ない」「神戸側が解散しない限り終わらない」とみていた。だが、組織勢力の差が決定的となり、対立団体側も反撃能力が乏しくなったことで、抗争再燃の現実的な危険性は大きく低下したとの見方が広がっている。

残る慎重論

 もっとも、警察当局は、抗争の行方を決して楽観視しているわけではない。

 25年1月には神戸山口組の井上邦雄組長宅が、六代目山口組系組織の元幹部によって放火された事件が抗争事案として認定された。末端組員や元組員まで含めた統制が本当に効くのかは未知数との指摘もある。

 六代目山口組では解除を見据えた「重大な人事」(大阪府警関係者)が発令されるとの観測も浮上している。そのため、六代目山口組と神戸山口組との間だけは指定を解除せず、状況を見極める可能性がある。

 警察にとって、特定抗争指定が分裂抗争を封じ込めるための最大の武器だったことは間違いない。それだけに、解除後、“不測の事態”が起きることだけは絶対に許されない。

目黒龍(めぐろ・りゅう) ジャーナリスト

デイリー新潮編集部