ラグビー日本代表、56失点惨敗の検証 善戦→1週間で激変のなぜ…2m級大型化で“足りぬ存在”が浮き彫り
敵地で7-56で散る…オーストラリアの“第2戦”を振り返る
敵地クイーンズランド州タウンズヴィルで8月15日に行われた「リポビタンDツアー2026」でオーストラリア代表に17-56と完敗したラグビー日本代表。1週間前の8日に行われた同一カードでは3点差と肉迫するなど期待感が高まる中での“第2戦”だったが、今季ワースト失点の大敗に終わったのはなぜか。試合スタッツと呼ばれるデータ、そして選手個々のパフォーマンスから、この惨敗を検証する。(取材・文=吉田 宏)
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苦闘の中で強豪に立ち向かった姿から「ブレイブブロッサムズ(勇敢な桜)」と命名された町。クイーンズランド州タウンズヴィルで、桜のジャージーが屈辱にまみれた。とりわけ後半は0-35と袋叩きにあわされた80分を、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が、悔しさや怒りを通り越したような笑みを湛えて、こう振り返った。
「先ず相手にポゼッション(ボール保持率)をかなり取られてしまったためにジャパンに防御の時間が長くなってしまい、そのためコリジョンの強いところでやられてしまった。そういう相手に対してしっかりと戦うためには、ポゼッションをしっかりキープしないといけない。43%ではだめで、50%のポゼッションを持たないと勝てないでしょう」
テリトリー(地域支配率)こそ57%と上回ったが、相手よりもボールを持つ時間が長いのが特徴でもある日本が、保持率で50%を切ったことを敗因の一つに挙げた。その理由も明白だ。
「空中戦だったり、ラインアウトがあまり機能しなかった。そしてブレークダウンでも課題があった。そこでディフェンスに回ってしまうと、やはりこういう苦しい展開になってしまう」
スタッツを見ても、タックル失敗数51回(オーストラリア14回)という尋常ではない数字や、攻撃の起点として重要なラインアウトでも相手に分析されて成功率63%(オーストラリア100%)に終わったことも響いている。
1週間前のホームゲームでは32-35、昨年10月も15-19と迫った相手とのワンサイドの完敗が衝撃を増幅させたが、取り組んできたキックボールへの競り合いと、競り合いからのファンブルボールへの反応で優位に立てず、接点でも重圧を受ければ、このような展開になるという典型的な負け試合。17-21と前週に引き続き相手に喰らいついた前半から、一気に突き放された後半を、主将のLOワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)はこう振り返った。
「相手がブレークダウンにすごくプレッシャーを掛けてきて、何回もターンオーバーされ、自分たちの攻撃もスローボールにされてしまった。コンテストキックでも上回られたことで、自分たちがずっと押し下げられて、モメンタムが出せなかった。ブレークダウンに特にプレッシャーを掛けられた感じです」
「プレッシャー」という言葉を繰り返したのが印象的だったが、第1戦との見違えるような結果は、そこに要因があったのは間違いないだろう。
メモ書きしたノートに書き殴った「PK&仕留め」の言葉
試合展開をメモ書きしたノートに、こんな言葉を書き殴った。
「PK&仕留め」
後半20分過ぎの時間帯に書き込んだものだが、意味するのは、反則の多さ(PK)と攻撃からスコアに結び付ける遂行力(仕留め)の低さだ。この試合の途中で感じ取ったメモが日本の課題であり、敗因だ。
反則数自体もオーストラリアの5に対して日本は13を積み重ねたが、反則が勝負を決すると言っても過言ではないテストラグビーで、この数字は致命的でもある。反則回数も然りだが、相手との格差が苦戦を物語る。許した8トライの中で3本をPKから許し、他の3本は日本の反則によるアドバンテージの中で奪われている。オーストラリアを相手に接戦を演じた過去2試合を実力だったとしても、拮抗した力の相手に対して2.6倍の反則を犯せば勝つのは容易ではない。前週の接戦での反則数は日本10、オーストラリア9だったが、今回の反則数の格差は、勝者がゲームスタイルを変えてきたことが影響していた。
小型カンガルーから取った「ワラビーズ」を愛称に持つこのチームだが、フィジカルの強さ、体の大きさは世界ランク8位とはいえ世界有数だ。ホームでの80分では、前週以上に、このパワーを前面に押し出してきた。日本陣ゴール前まで攻め込むと、迷いなく密集周辺でのダイレクトプレーを徹底。その結果、開始7分のファーストトライから後半18分までの5トライは全て巨漢、パワー自慢のフロントローが独占した。同33分の6トライ目はFLチャーリー・ケールが挙げたが、それもスクラムを押し切ってのもの。7本目はNo8ハリー・ウィルソン主将が仕留めたが、インジャリータイムの8トライ目は再び控えHOブランドン・パエンガ=アモサが締めた。
エディーは会見で「(ワラビーズPR)タニエラ・トゥポウがゴールにピザが置いてあるかの如く飛び込んできてトライをしていたが、後でピザを食べに連れていかないとね」と2トライを決めた体重135kgの巨漢の活躍で周囲を笑わせたが、ワラビーズFW勢が遮二無二前へと仕掛けてきたこの試合の真相を、ジョークに例えて指摘していた。
辛勝だった1戦目から、ワラビーズは自分たちの強み、日本の弱みを的確に分析して臨んできた戦略の勝利でもあった。スタッツでは双方とも成功率100%だったスクラムでも、勝者は2度、重圧を掛けてのアドバンテージ(日本の反則)の中でトライをマークしている。
このFWでの徹底したフィジカルファイトが、日本に重圧を掛け、相手の2.6倍の反則を犯させた大きな要因ともなった。反則数は、日本が17-21と4点差で折り返した前半は3とワラビーズと同数だったが、相手が更にFW勝負を仕掛けてきた後半は10対2と明暗を分けている。エディーも「相手にボールを支配される時間が増えたことが大きな要因だった。我々は長時間にわたって守備を強いられることになり、そこでワラビーズのコンタクトプレーにおける優位性が際立った」と、後半の相手の猛威を振り返っている。
この負け方は、1試合だけの一過性のものとは考えるべきではない。試合が行われたオーストラリアで14か月後に開幕するワールドカップ(W杯)で日本との対戦が決まっているチーム(フランス、サモア、アメリカ)は、この日のワラビーズが仕掛けてきたゲームスタイルを参考にしてくるのは間違いない。
日本代表の問題点を物語る“あるスタッツ”
そして「仕留め=遂行力」の部分だ。このエリアは、敵陣22mライン突破回数に関係するスタッツが問題点を物語っている。ここは日本代表の恒常的な課題でもあり、8日の接戦でも日本が劣っていた部分ではあるが、今回も下記のような数値になっている。
▼敵陣22mライン突破回数と得点率
日本/7回(2.4点)
豪州/12回(4.6点)
日本が敵22mラインを7回突破して1回平均2.4点を獲っていたのに対して、勝者は12回の突破で平均4.6点と倍近いスコアを稼いでいる。1週間前は両チーム10回の突破で日本が2.9点、オーストラリアは3.8点だったが、今回は22mライン突破という得点機も大きく上回られた上に、そのチャンスをスコアにする遂行力で前戦以上に差をつけられていた。
攻撃面の目安となるスタッツに、ラックから何秒でボールを展開出来たかを数値化した「ラックスピード」がある。スピードで勝負するチームでは尚更重要な数値でもあるが、この大敗でも日本は51%の球出しを3秒以内で行っている。3-6秒では45%という数字は、ワラビーズの0-3秒44%、3-6秒30%を遥かに上回っているが、それでもスコアまで辿り着けた攻撃には相当な差があったのだ。
このような遂行力、つまり自分たちの攻撃を得点に繋げるという観点からは、今回の大敗の中では1人の選手のプレーぶりが、この先へのヒントだと感じさせた。ワーナーが「何度もターンオーバーされた」と指摘したプレーの“犯人”オーストラリア代表の7番カルロ・ティッツァーノだ。
180cm、104kg。サイズでは日本でも「小兵」の部類だ。2024年に代表デビューして、まだ15キャップとキャリアは浅いが、このチームの伝統でもあるコンパクトなオープンサイドFLとして存在感を高めている。オープンサイドFLの役割は、スクラムでSOおよび攻撃ラインが敷かれる「オープンサイド」側でスクラムを組み、真っ先に相手ボール、味方ボールに辿り着くことだ。以前なら「ボールを舐めるように走る」と表現していたが、ボールが動き出せば常にその軌道を追うように走りながら、接点に仕掛けるのが主だった仕事になる。
ワラビーズの「7番」は、過去にはジョージ・スミス(元サントリー)、マイケル・フーパー(同トヨタヴェルブリッツ)など日本でも活躍した選手も少なくないが、多くが身長180cm程度と大型選手ではないものの、密集の中で相手からボールを奪い取るジャッカル、執拗なタックルと、ゲームの流れを寸断するようなプレーで存在感を見せてきた。そもそもジャッカルという呼び方自体が、スミスのプレーぶりからつけられたニックネームが、そのまま引用されたものだった。
そんなジャッカルのエキスパートは、この同一カード2連戦で初先発すると、唯一人、3度のブレークダウン・ターンオーバーを成功させている。他の両軍メンバーでターンオーバーを記録している選手が全て1回だった中での数字だ。前半22分にオーストラリア陣22mラインまで攻め込んできたHO江良颯(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)を完璧にロックするようにボールに絡んでPKを得ると、後半14分にも左展開で22mラインへオープン攻撃を仕掛けてきたFB松永拓朗(BL東京)に対して1人でタックルからボールへ絡む完璧なジャッカルで反則を奪い、23分には、同じく自陣22mラインを挟んだ攻防で仕掛けてきたFLリーチマイケル(同)を捕らえて反則を犯させた。日本が犯した合計13個の反則の内3個は、この7番のジャッカルで、しかも自陣22mラインという地域での窮地を未然に防いだ値千金のプレーだった。
進む2m級の大型化、足りない「リンクプレーヤー」の存在
こんな地味な仕事が、日本の攻撃チャンスを摘み取り、遂行力を低下させていたのが、このワンサイドゲームの肝のプレーでもあった。途中出場したフレイザー・マクライトも同じタイプのFLとして日本のチャンスを寸断するジャッカルを披露していたが、では日本代表のティッツァーノは誰か。過去には姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)がジャッカルで名を馳せたが、この試合で7番を背負ったのはティアナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ)であり、今季を見ると下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)が務めるケースが多いポジションだ。確かにワークレート、積極的なタックルと、オープンサイドの資質は持ち合わせている選手たちだが、ボールに執拗に絡みつき、黙々とタックルをし続けるエキスパートというキャラクターとは微妙に異なる。ティッツァーノのプレーを観て日本代表でピッチに立つ15人に足りないと感じるのは、アタックでボールを繋ぎ、防御では相手に繋がせないプレーをする「リンクプレーヤー」の存在だ。
このような“仕事人タイプ”の選手は、日本代表の中では常にボーダーラインに立たされ、その大方は一時期代表チームに呼ばれても、W杯への終盤のポジション争いでは脱落してきた。歴代監督、HCも常にこのような仕事人の存在を気にしながら、最終的には「サイズ」への魅力が優先された印象だ。世界最高峰の舞台で結果を出すには、リスクのある小兵選手よりも計算出来るサイズのある選手を選んできたのは間違いない。
現在の代表も「超速」という標語を抱えながら、やはり大型化しているのは明らかだ。この試合も含めて、すでにLOでは相手を上回る身長2m台を3枚揃え、今回の遠征メンバー中の第3列要員も7人中4人が190cm台、残る3人も187cm以上だ。この大型化が、日本代表をフィジカル面で世界のトップ10クラスにも挑めるレベルに押し上げた大きな理由でもある。だが、同時に大型化を推進することで、そのサイズに恵まれ、ボールキャリーに強みを持つような「ランナー」に、テンポのある所謂“生きたボール”を供給する役割の選手、つまりそれこそがリンクプレーヤーだが、その存在が希薄に思えてならない。
再びワーナーの言葉を借りれば「自分たちの攻撃もスローボールにされてしまった」「モメンタムを出せなかった」というコメントを聞いても、そこに体は小さくても、いやむしろ小さく機動力があるからこそ、接点により早く辿り着き、低さを生かしてボールに絡みつき、相手の防御、攻撃に楔を打つような選手がいてもいいと感じさせられた。
繰り返しにはなるが、当然、世界規格のサイズがない選手を使うリスクはあるだろう。ティッツァーノもゴール前防御での1対1の状況から日本のCTBディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)に突破されてトライを許している。そのリスクを踏まえた上で、リンクプレーのエキスパートのような選手をメンバーに選ぶのかは、様々な状況を加味した上でHCが担う特権事項でもある。
それでも、2020年代の日本のラグビーは、誰もが口を揃えるように海外トップクラスの逸材が集まり、その選手と毎週戦うことで日本生まれの選手も進化が促されている時代だ。世界クラスのパワーにも抗える選手は着実に増えてきているのもポジティブな現実だ。オープンサイドの選手をみても、末永健雄(S東京ベイ)、佐々木剛(BL東京)、若手ながら森山海宇(みう)オスティン(浦安DR)ら、ブレークダウンでのボール争奪、タックルで日本のティッツァーノとしての資質を秘めた才能は間違いなくいる。
代表強化で検討するべき宿題と思わせたタウンズヴィルでの80分
大型化と書いたが、第2期エディー体制3季目を迎え、一歩一歩世界と戦える時間が伸びてきている一方で、フィジカルやパワーで世界トップの国々を圧倒出来ないのは、今回の大敗を見ても明らかだ。だからこそ、エディーは「超速」に拘り、今季は選手の多くが憑りつかれたように「ゴールドエフォート(最上級の労力)」というキーワードを言い続けている。だからこそ、強豪国とも異なる日本特有のスピードと運動量を生かしたスタイルで自分たちより上位の相手を苦しめるためには、このスピードを殺さず、生かし続けるための“繋ぎ役”のようなエキスパートを加える価値はあるのではないだろうか。
来年10月開幕のW杯へ、エディーはこの8月までで、メンバーの8割を固めたいと語ってきた。実際、その数字に近い顔ぶれはほぼ固まりつつあるようにも感じられる。他国以上の精緻な戦術、約束事で優位に立とうとする日本にとっては、戦術理解やチームの高度な組織化に時間をかけることは避けられない。ここから、新たな戦力を加えてどこまで順応、組織としての完成度を高めることが出来るのかという時間の問題もある。それでも、現状の、自分たちのスピードでトライまで攻撃を継続出来ない遂行力を高め、接点での重圧への抵抗力を伸ばすためには、リンクプレーヤーというエッセンスが必要だと、この試合を振り返っても、思えてならない。
敗戦後、この大敗の中でパスワークでなんとか日本の攻撃を加速させようと奮闘したSH齋藤直人(東京SG)は、こうゲームを振り返っている。
「1試合目は誰が見てもサポートが遅くジャッカルされたシーンが多かったが、2戦目はキャリアの周りに人がいる状態でジャッカルされたシーンが多かった。そこを突き詰めていかないといけない。アタックしたいチームがブレークダウンで球を出せないと、なかなか勢いに乗ることが出来ない。今日は本当にいいレッスンになった」
まさにティッツァーノのプレーを象徴するようなコメントだが、もちろん組織的に相手のボール兼メンハンターにどう対抗していくかも重要だ。そして、同時に日本のティッツァーノをどう起用し、育てていくかも代表強化には検討するべき宿題だと思わせたタウンズヴィルでの80分。ジャパンがその独自のアンサンブルを奏でるには、そんな仕事人がいてもいいのではないだろうか。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

