【中村 清志】「かつや」はなぜ後輩「松のや」に敗北したのか…お株だった”ワンコイン”のイメージすら奪われて

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【前編記事】『「かつやに客が全然来ない」店から姿を消した紙の100円割引券が引き金に…?アプリ移行で“無限ループ”文化が喪失』よりつづく。

急成長「松のや」店舗数で「かつや」破る

現在、とんかつ市場は主に、「ロースかつ定食」や「ヒレかつ定食」といった定食メニューを主力商品とする平均客単価1500円前後のレストラン業態と、「カツ丼」を中心とした客単価900円前後のファストフード業態とでほぼ構成されていると言っていい。市場規模は現在約2000億円と推計されており、うち約6割がレストラン業態だ。

前者の代表的なチェーンは「新宿さぼてん」や「とんかつ和幸」などが挙げられる。少し値段は張るが高品質なとんかつを堪能できる店として成長を遂げており、昨今では海外市場、とりわけ中国などで“日本のとんかつ”として人気を博している。

一方、後者の低価格帯のファストフード業態で知られる代表的なチェーンといえば、今のところ「かつや」と「松のや」が双璧をなすといっても過言ではないだろう。これまでは、この領域では「かつや」の一人勝ち、という状況が続いていた。何せ、圧倒的な安さを武器に、全国513店舗(2026年7月時点)まで拡大し、長らく業界1位の店舗数を誇っていたわけだ。

ところが、盤石と思われていた状況が一変しつつある。ライバル「松のや」の急成長だ。

“牛丼御三家”の一角を占める松屋フーズが手がける同チェーン。「かつや」の1号店が1998年オープンに対し、「松のや」の1号店は2005年(当時の店名は「松乃家」)と、少し遅れての参入だったわけだが、じわじわと猛追し、2025年に店舗数が500店舗に到達(「松屋」や「マイカリー食堂」との併設店含める)。そして現在640店舗を数え、「かつや」を抜いて業界1位の店舗数に至っている。

話題性か堅実性か…両者を分かつもの

では、いかにして後発の「松のや」は、とんかつ市場におけるファストフード業態の絶対王者だったはずの「かつや」を抜くことができたのだろうか。そこで両者の違いを見ていきたい。

まずは商品戦略について。いくら安いとはいえ「かつや」は、チルド管理の下、熟成により旨みが増した豚肉や「焙焼式」と呼ばれる方法でサクサクの食感に仕上げられたパン粉など、とんかつ専門店としてのこだわりがある。またボリューム感と組み合わせの意外性を強調したメニューを定期的に期間限定で販売することで、話題性を集めてきた実績がある。

一方、「松のや」は話題性というより、消費者に寄り添う堅実性を重視してきたように思える。たとえば以前「松のやのご飯が不味い」という声をよく聞いたが、今では100%国産米に代わって、その問題を解決。また、お得な朝食メニューを午前11時まで提供し、朝食はもちろん、早めのランチとして利用したい顧客のニーズをつかむなどしている。

くわえて、メニュー構成にしても「かつや」の場合は期間限定メニューを除けば、シンプルなラインナップであるが、「松のや」は低価格を強調しつつも、品目数を増やすことで複数の価格帯を用意し、顧客に選択肢を与えるスタイルと言える。いわば価格のグラデーション戦略を展開しているというわけだ。

ひとえに同じ低価格の業態といっても、商品戦略を見る限りは、幅広い層の顧客の受け皿になりえているという点で、「松のや」に軍配が上がるだろう。

ワンコインの代名詞は「松のや」に移った

販促戦略の観点でも結論から言えば、「かつや」の優位性が失われ、「松のや」の強さが際立っているように感じる。

かつや」の販促戦略を支えてきたものは、間違いなく紙の100円割引券、そして移行が進んでいるアプリクーポン券だ。また定期的に売れ筋商品を150円引きで提供する「感謝祭」というイベントも開催しているが、いずれにせよ同チェーンの値上げが続く中で、この金額の値引きではかつてあった“お値打ち感”が薄れていることは間違いない。

その一方で、業界の価格破壊を先導しているのが「松のや」だ。今夏には「夏休み企画」として、税込690円の「ロースかつ定食」を500円に割引するクーポンを発行して話題を集めた。かつて“ワンコインで食べられる”といえば「かつや」だったのだが、そのお株を奪った形になる。

それ以外にも常に何かしらの販促を実施しており、「松のや」では定価で食べることがない、と言われるほど。さらにアプリ会員には利用金額に応じてポイント付加とランク分けを行うなど、来店のインセンティブを高めている。言ってしまえば、「かつや」の上位互換的な販促戦略を「松のや」が実施しているというわけだ。

厳しい言い方になるかもしれないが、「かつや」が業界2位に転落した背景には、物価高騰を背景に値上げしても許容されるはず、という読みの甘さや、長らく店舗数1位だったことの優位性に甘んじて、追随者の動きを見誤った節すらある。驕れるもの久しからず――後塵を拝す「かつや」には今こそ思い切った改革で、再復活してほしいものだが。

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