船員供給大国のインド、イラン情勢による死者10人に…高収入で人気・世界の海運業界に31万人
米国とイランの攻撃の応酬が続くなか、商船に乗り込むインド人船員の犠牲が相次いでいる。
インドは世界第2位の船員供給国であり、2月以降に戦闘の巻き添えになって死亡した船員は10人に上る。印政府は世界の海上輸送を支える船員の安全確保に神経をとがらせている。(印北部ラクナウ 青木佐知子)
「近くの船舶が被弾し、『機関室にミサイルが命中した』と伝える無線のやり取りを聞いた。無事に帰れるのか本当に不安だった」
印北部ラクナウの元機関士のロヒト・シンさん(39)は、ペルシャ湾で約50日にわたって足止めされた恐怖の日々を振り返った。
シンさんは液化天然ガス(LNG)の大型タンカーに乗船しており、戦闘が始まった2月末にカタール北東部のラスラファン港に入った。タンカーは3月初めにLNGを積んで出港したが、イランによってホルムズ海峡は事実上封鎖されており、沖合で停泊を余儀なくされた。
そのうちカタールにも攻撃が及ぶようになると、迎撃されたミサイルの破片の周辺への落下も確認された。LNGを積んだ船体が被弾すれば「動く爆弾」になるだけに、ラスラファンと首都ドーハの沖合を移動して戦火を逃れた。
米イランが停戦交渉を進めていた4月初め、勤務先から「ホルムズ海峡通過」の打診があった。シンさんは帰国を望んだが、この時は代替要員がおらず、下船は難しかった。タンカーは4月半ばにホルムズ海峡方面に向かったが、船長がイランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」の検問所に通航の許可を求めたが認められず、カタール沖に引き返した。
勤務先が代替要員を確保したことから、シンさんは4月下旬にカタールで下船し、空路でインドに戻った。「家族を養うために海に出ているのに、命を失っては意味がない」。陸上から機関士を支援する仕事に転職することにしたという。
大型船の船員は、インドでは高収入が得られる人気の職業だ。印政府によると、世界の海運業界で働くインド人船員は約31万人に上る。死者が相次ぐ事態を受け、印政府は紛争地域への船員の派遣を制限するよう海運業界に指示するなど対応に乗り出した。
印船員組合のマノジュ・ヤド事務局長は「紛争で商船が標的にされるのは深刻な事態だ。政府に独立した調査や遺族への補償を求めている」としている。

