“即戦力エンジニア”のはずが…バグ連発、成果物は使えず 「単なるミスや経験不足ではない」裁判所が“解雇やむなし”と判断した驚きの勤務実態とは
上司「この作業はどれくらいかかりそうですか?」
Aさん「411営業日かかります」
・・・上司はあぜんとした。
これは氷山の一角だ。他にも多くの問題行動を起こした社員Aさんが解雇された事件を巡り、裁判所は「会社がAさんを解雇したことはやむを得なかった」と判断。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯インターネットを用いた国際送金を専門的に取り扱うX社は、モバイルアプリ開発の専門的知見がある”即戦力”のシステムエンジニアを採用するために求人募集を行っていた。この求人に応募したAさんの経歴書には、「システムエンジニアとして長年の経験があり、チームワークの経験があり、組織で働くことができる」などと記載されていた。
フタを開けてみると真実ではなかったのだが、この時点で会社はAさんがトラブルメーカーであることに気づけず、社長面接を経て、入社が決定。主にスマートフォンやタブレット端末向けのアプリ開発に関する業務を行うことになった。
■ 効率の悪い作業に着手
入社したのち、Aさんは「アプリ開発チーム」に配属された。ここでとんでもない作業に着手する。システムエンジニア経験者であれば行うことのない作業に着手したのである。専門領域となるため詳しい説明は割愛するが、外注することが当然とされていた作業を、Aさんはイチから自力で開発しようとしたのである。そして、2か月間もその作業を続けた。
■ かなり仕事ができない
その後も、上司から指示されたコードを作成できなかったり、作成してもバグが含まれていたり、修正を指示されてもバグを解消できないなどの体たらくであった。
詳細は後述するが、エピソードをひとつ挙げると、ある作業について、上司がAさんに「完了までどれくらいかかりますか」と質問したところ、Aさんは「411営業日必要です」と答えた。この日数に、計算の根拠はあるのだろうか…。非常識な回答に上司は困惑した。
■ Aさんから退職の申し出
約10か月後、なんと、Aさんのほうから退職の申し出があった。会社にとっては願ってもない申し出だったはずだが、社長は優しかった。Aさんには多数の問題行動があるのにもかかわらず、退職を慰留したのだ。しかし、Aさんの決意は固く、退職を翻意することはなかった。
後日、社長はAさんに対して、具体的な退職時期を明らかにするよう求めた。しかし、Aさんは「転職活動をする時間がない」と述べ、退職時期を明らかにしなかった。
社長が「1か月後に退職してほしい、それ以上は引き延ばせない」と伝えたところ、Aさんはそれを拒むとともに「自分を解雇しても構わない」と開き直った。
こう言われてもなお、社長は優しかった。Aさんに対して「1か月間の給与を保証する。その間の就労は任意。自由に転職活動をしてください」と伝えた。しかし、Aさんは「その条件に加え、仕事が見つからなかった場合はX社に復帰する」ことを強く要望した。辞めるつもりがまったくないのである。
社長は「その求めには応じられない」と回答したものの、さらに優しさを発揮し、「他の部署に配置転換する案もある」と救いの手を差し伸べた。しかし、Aさんは「私の仕事ぶりに問題はない」「解雇すればいい」と拒否した。
■ 解雇
さすがの社長も限界だったのだろう。その後、X社は、就業規則に定める「協調性に欠き、業務の遂行に支障が生じているとき」に該当するとして、Aさんを解雇した。
そして、解雇に納得できないAさんが提訴した。
裁判所の判断X社の勝訴だ。裁判所は「会社がAさんを解雇したことはやむを得なかった」として解雇OKと判断した。
■ Aさんの問題行動
裁判所が認定したAさんの問題行動は、以下のとおりだ。
裁判所は、これらを単なるミスや経験不足とは見なさなかった。Aさんは即戦力として採用されたにもかかわらず、中心業務であるUI開発を進められず、成果物も実用に耐えないレベルで、会社の開発業務に遅延を生じさせていたからだ。そして裁判所は、結論として、「解雇は社会通念上相当である」と判断した。
最後に一般的には、能力不足を理由とする解雇は、簡単には認められない。
しかし、本件は単なる「能力不足」の事案ではない。即戦力として採用されたにもかかわらず、期待された業務を遂行できなかったことに加え、業務指示に従わない、開発が遅延する、成果物の重大な不備が発生するという事情が重なったケースである。
このように、能力不足が著しく、会社の業務に現実の支障を生じさせ、さらに改善や円満退職に向けた会社の提案にも応じないような場合には、解雇が有効と判断されることがある。
もっとも、能力不足を理由とする解雇のハードルが高いことに変わりはない。会社側の対応としては、「仕事ができない」という抽象的な評価だけでは足りない。どの業務ができなかったのか、どのような支障が生じたのか、どのような指導や改善の機会を与えたのかを、具体的に記録しておくことが重要である。参考になれば幸いだ。

