竹前美結容疑者

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【全2回(前編/後編)の前編】

 16歳の少年4人が実行犯として逮捕され、世間を震撼(しんかん)させた栃木の強盗殺人事件から3週間がたつ。5月22日には警察庁がトクリュウ事件と判断し全容解明に向けて本格的な捜査が始まった。警察はいかにして凶悪な犯罪集団と対峙するのか……。

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 ここ最近、全国で匿名・流動型犯罪グループ、通称「トクリュウ」が絡む物騒な事件が頻発しているのは偶然ではない。一つ一つの事件は一本の線でつながっている可能性が高い。そう判断した警察は、全容解明に向けた捜査に本腰を入れ始めたのである。

竹前美結容疑者

 5月25日、警察庁の楠芳伸長官は、各都道府県警察の刑事部門トップを集めた会議の場で、トクリュウ撲滅の訓示を行った。

 その3日前の22日、警察は14日に栃木県上三川(かみのかわ)町で起きた強盗殺人事件を、トクリュウによる犯行の可能性があると判断。警察法に基づき、栃木県警が主導する捜査情報を警視庁に集約するよう、楠長官が指示を出している。

 社会部デスクの解説。

「オウム真理教による地下鉄サリン事件の教訓から警察法が改正されて、重大事件は長官指示で都道府県の枠を越えた広域捜査が可能になりました。とはいえ、今回の栃木のような強盗殺人事件に適用されるのは異例です」

 さる捜査関係者が言う。

「目下、警視庁管内ではトクリュウによる質屋などを狙った強盗致傷、強盗未遂、強盗予備、窃盗事件が十数件起きています。逮捕された実行犯は、それぞれ20代から30代までの男とバラバラですが、これらの事件に共通点があることが分かった。それが栃木の強盗殺人事件の捜査でも明らかになったのです」

複数の人物が押し入り3人が殺傷される事件が起きた栃木県上三川町の住宅

事件の予兆

 その子細に触れる前に、警察が総動員体制を敷くきっかけとなった栃木の事件を簡単に振り返っておこう。

 まず世間を驚かせたのは、実行犯として逮捕された4人が全員16歳の高校生だったことだろう。

 しかも犯行時刻は人目につきやすい午前9時20分ごろ。豪邸の1階の窓を荒っぽく破って侵入した少年らは、室内にいた69歳の女性をめった刺しにして死に至らしめた。遺体には胸などを中心に、殴られたり刺されたりした傷が20カ所以上も確認され、一部の傷は臓器にまで達していたという。

 駆け付けてきた被害女性の長男と次男もバールのようなもので殴って傷を負わせ、敷地内にいた愛犬まであやめる残忍な犯行だった。その実行犯4人と同じく強盗殺人容疑で逮捕されたのは、神奈川県横浜市に住む無職の竹前海斗容疑者(28)と、妻の美結容疑者(25)である。

 実は事件には予兆があった。犯行現場付近では、不審な車や人物の目撃通報が相次いでいたというのだ。

「4月上旬、現場近くに住む次男宅で窃盗事件が起こり、そこで今回の事件現場となった実家に関する資産情報が外に漏れた可能性があります。その後、現場周辺では不審車両が頻繁に目撃されるようになった。4月20日には原付に乗った不審な男が、被害者宅前に2〜3時間も居座り、被害女性の夫が“何をしているのか”と尋ねたところ、“友人を待っている”と答え、その後に横浜ナンバーの車と合流した。被害者親族が警察に通報して、県警もパトロールを強化していたのです」(前出のデスク)

不審者警察車両とカーチェイス

 近隣住民が明かすには、

「事件発生の1カ月ほど前の回覧板に、“不審な車があるので気を付けるように”という内容が書かれ、近所の公園に駐車されていた横浜ナンバーの車と小さいバイクの写真が掲載されていました。確かにその当時、平日の昼間に全身黒ずくめの格好をした20代から30代くらいの男性が、スマホを見ながら歩いているのを見ました。この辺りの若い子は、車で移動するので路上を歩くことはありません。公園に止まった車を根城に下調べをしていたのかもしれません」

 事件発生の約1週間前にあたる5月6日には、別の不審車が警察とカーチェイスまで起こしていたという。

「被害者宅の農機具小屋に見かけない男数人が現れたため、通報を受けたパトカーが追跡を始めたところ、彼らは軽ワゴン車で逃走。最後は被害女性の次男が車で体当たりをして行く手を阻んだ。運転手は逃走しましたが、この車に付けられたナンバープレートが盗まれたものだったため、車内に取り残された茨城県在住の40代男性を盗品等保管容疑で7日に逮捕しました。車内からは目出し帽が見つかり、警察は被害者宅に忍び込もうとした可能性も視野に入れて取り調べをしています」

 この軽ワゴン車の存在こそが、前述した警察庁の広域捜査の引き金となった“共通点”なのである。

普通の強盗団との違い

 前出の捜査関係者いわく、

「件の軽ワゴン車と全く同じ車種で同じ色の車が、3月11日に東京・新宿区にある酒類買取店で起きた窃盗未遂事件でも目撃されていたのです。この店では4月にも別の犯行グループが強盗未遂で逮捕された。栃木や都内で複数起きたトクリュウ事件では、標的となった現場や使用された車などが重複するケースが多々あったことが分かっています。実行犯は違っても、同じ黒幕が指示した可能性があるのです」

 こうしたトクリュウが絡む事件には、金品のありそうな個人宅や店舗の情報を伝える「リスト屋」、犯行に用いる偽造ナンバーや盗難車を提供する「道具屋」が存在しているとされる。そうした「手配師」とは別に、今回逮捕された少年らのような「実行役」や夫妻が担当した「現場監督」を募るリクルーターがいるわけだが、普通の強盗団と何が違うのか。

「トクリュウとは、秘匿性の高い『シグナル』や『テレグラム』などのアプリで連絡を取り合い、見ず知らずの者同士で犯罪行為を行う集団を指します」

 とは、『闇バイト歴史 「名前のない犯罪」の系譜』の著者で、トクリュウ型の犯罪に詳しいライターの藤原良氏である。

「これまで組織犯罪といえば、暴力団や半グレなどに属する人間が捜査の対象でしたが、トクリュウはいわば“第三勢力”です。ネットで自由につながり、組織に属さず犯罪を行うフリーランスのような存在。その場限りで互いに関係性のない個々人が集まるので、警察が実行犯を捕まえて仲間の名前を吐かせようとしても、なかなか指示役までたどり着かず一網打尽にできません」(同)

 連絡手段はもとより、強盗などで得た金品も指示役へ暗号資産化して上納されてしまうため、裏付け捜査が困難なのだ。

捜査班「T3」は何をしている?

 だが、警察も手をこまねいているばかりではない。昨年10月、警視庁は「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」を発足、専従捜査班「T3(Tokuryu-target Torishimari Team)」を立ち上げたのである。

 実行犯や指示役、手配師などトクリュウに関係する人物は全国でつながっている。そこで「T3」には北海道から沖縄まで全国の道府県警察本部から、総勢200人前後の捜査員が集められたのだ。

 具体的に何をしているのか。さる捜査幹部が言う。

「T3は現場での聞き込みよりも、上がって来た情報を解析することに力点を置いています。AIのようなシステムに情報を入れて分析するイメージですかね。SNS上の闇バイト募集や、捕まった容疑者、協力者などから得た情報を基に、誰と誰がつながっているなどのチャート図を作成して組織の実態を明らかにしていく。その中に少年がいれば少年事件課、外国人絡みなら国際犯罪対策課など、各部署に情報を落とし、協力して捜査を行っています」

 栃木のケース同様、10代の少年が実行役として関わっていたトクリュウ型事件といえば、22年から23年にかけ全国で頻発した「ルフィ広域強盗事件」、23年に東京・銀座で発生した「高級時計店強盗事件」が記憶に新しい。

4割近くが10代の少年

 昨年だけで、トクリュウ絡みの事件で逮捕された者は約1万2000人にも及ぶ。そのうち4割近くを10代の少年が占めるのだ。

 背景には、ウェブ上で広く闇バイトを募集して、大勢の実行犯を集めるのが難しくなっていることがあるという。

「昨年1月に導入された『仮装身分捜査』という手法がトクリュウの中で浸透して、警戒されているのかもしれません」

 とは、この手法の制度設計に携わった元警察庁サイバー捜査課長の棚瀬誠氏だ。

「捜査員が架空の人物の身分証を使用して、闇バイトに応募することで実行犯の中に紛れ込みます。コンビニ前など指定された集合場所に出向き、実行部隊に身分を明かして犯行を未然に防ぐ。また実際にホームセンターなどで凶器やガムテープ、縄などを実行犯が購入すれば『強盗予備罪』で逮捕することもあります」

「担い手不足」

 トクリュウ側からすると、SNSなどで募集をかければ、捜査員が応募してくるリスクが生じているのだ。

警察を警戒して、SNSでは短期間しか募集をかけられないので大人数は集まらない。そうなれば、人づてに仲間を集めるしかない。そのため実行犯を一人確保したら、何人か連れてくれば報酬を上げてやるとインセンティブをちらつかせて、ネズミ講のような人集めにシフトしつつあるのではないでしょうか」(棚瀬氏)

 前出の藤原氏によれば、

「トクリュウと呼ばれる犯罪形態が生まれて10年近くになり、多くの実行犯が検挙されたり、ある程度まで稼いで足を洗う者が増えて担い手不足に陥っているのだと思います。今回の栃木の事件では、竹前容疑者が知人の少年にメンバー集めを依頼。従来のトクリュウと異なり、皆が顔見知りでどこかでつながっていたため、芋づる式に夫妻まで逮捕されたのでしょう」

 後編では、栃木の強盗殺人の実行犯、指示役の量刑がどのようになる可能性が高いのか、専門家に聞く。

「週刊新潮」2026年6月4日号 掲載