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 岡田彰布の監督として最後の言葉を思い返している。クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでDeNAに敗れた今月13日、甲子園である。

 「野放しにしたら全然やもんな。大変やで。怒る人間がゼロやったら」

 岡田は確かによく怒った。グラウンドやベンチではもちろん、選手たちに向けての小言を連日、新聞やネット上の談話で発信し続けていた。

 最後の言葉は「ほめられるやつなんかおらん」と言った選手や新監督・藤川球児以下、新スタッフに向けた警鐘である。

 同じことを掛布雅之も語っていた。21日、毎日放送(MBS)のテレビ番組で新コーチ陣について「怒るというコーチも1人いないと。チームが緩む」と指摘していた。

 岡田や掛布は「怒る」と表現しているが「叱る」と言い換えていいだろう。「怒る」は感情的に怒りをぶつけるもの、「叱る」は相手のために注意をするものとされる。

 藤川は監督就任会見で「理想は岡田監督」と語り、怒る岡田について「昭和的って、確かにそうかもしれないけど、僕も昭和生まれだし、アメリカがいいのかって、そうも思わないし」と理解を示していた。「感情的にはならない」と怒りやイライラをコントロールするアンガー・マネジメントも備えているようだ。問題は怒り方、いや叱り方である。

 両リーグでワールドシリーズ優勝監督となるスパーキー・アンダーソンはレッズでの監督1年目、ピート・ローズからチームが揺れているとき「ぼくを大声で叱りつけるんですよ」と言われたそうだ。共著『スパーキー!』(NTT出版)にある。「残りの連中はおとなしく耳を傾けます。ぼくは平気ですから」

 同じく長嶋茂雄を全員の前で叱り飛ばしたのがV9など巨人黄金時代を築いた川上哲治だった。<人前で長嶋を叱れば、選手たちは「長嶋さんだってこうやって叱られるんだ」と納得し、ぴりっと引き締まっていく>。さらに<陰でほめ、人前で叱れ>としている。

 <叱ることができない人、叱ることが嫌いな人は他人を指導、管理する職業や地位についてはいけない>。そして<叱る――ということは「教育の原点」>とある。

 その名も『遺言』(文春文庫)に書き残している。この日は2013年に没した川上の命日だった。 =敬称略=

 (編集委員)