次の注文を待つ配達員=7日、中国・重慶/Cheng Xin/Getty Images

北京/香港(CNN)テイクアウトの配達員が突然、道の真ん中で我を失い、携帯電話を歩道に叩(たた)きつけた。顧客から悪い評価を受けた後だった。

別の配達員は、信号無視で停車させられ、警官にひざまずいて謝罪した後、飛び起きてバイクにむりやりまたがり、行き交う車も気にせず全速力で走り去った。

別の事案では、怒った配達員らがアパートの外に集まり、警備員にいじめられたとされる同僚配達員のために正義を求めた。

これらは中国全土で配達員が関わる激しい対立を捉えた多くの出来事の一部だ。中国のSNSで広まっており、人々が限界に達している様子を示している。

売上高と注文量で世界最大を誇る2000億ドル規模のこの業界は、コロナによる3年間のロックダウン(都市封鎖)中に倍以上に成長。かつては臨時労働者に安定した収入をもたらしていたが、今は違う。

中国経済が長引く不動産危機から消費の低迷といった一連の逆境に見舞われる中、配達員は打撃を受けている。

香港理工大学のジェニー・チャン准教授(社会学)は「配達員は長時間働いており、本当に切迫している」と述べた。デリバリーサービス企業はコストを低く抑える必要があるため、配達員は今後もプレッシャーにさらされるとの見方を示す。

景気低迷により、人々はより安価な食事を注文する。ほとんどの配達員が歩合制で働いているため、収入を維持するためには長時間労働を余儀なくされるという。

労働権監視団体によると、二つの大手フードデリバリープラットフォームが優位に立ち、契約条件を決定できるため、配達員が労働条件の悪化に抵抗する余地はほとんどない。

大規模な配達ネットワーク

中国の広大なフードデリバリーネットワークは、約1200万人の配達員が支えている。このネットワークは、現在同国のネット通販大手アリババが所有するアプリ「Ele.me」の2009年のサービス開始以降、勢いを増し始めた。

厳しいロックダウン規則により住民が外出を禁じられたコロナ禍において、配達員は地域社会の存続に重要な役割を果たした。現在も配達員は中国の食文化に欠かせない存在となっている。

中国の調査会社の推計によると、市場規模は23年に2140億ドルに達し、20年の2.3倍に成長。30年には2800億ドルに達するとみられている。モーニングスターによると、中国は世界最大のテイクアウトデリバリー市場だ。

昨今、配達員は厳しい納期に間に合わせるため常に多大なプレッシャーにさらされており、ときにはスピード違反や信号無視など、自分自身と他人を危険にさらすこともある。

携帯電話を壊した先の配達員は、中国国営メディアのインタビューで、自分に対する苦情は根拠がないと主張した。しかし、依然として仕事の削減という罰を受けており、収入が減り、同様の苦情が繰り返されていると漏らした。

昨年、業界の2大プレーヤーである美団とEle.meの利益は急増した。美団の収益は100億ドルで、22年に比べて26%増加した。

アリババは3月末までの会計年度で、主にEle.meがけん引するローカルサービス部門の収益が83億ドル、前年比19%増だったと報告している。

給与の減少

こうした背景にもかかわらず、配達員の給与は減少している。中国新雇用研究センターによると、18年に1000ドル以上だった平均月収は、23年には950ドルを下回る。

問題は収入の減少に反して、多くの人の労働時間が長くなっていることだ。20歳の配達員は1日10時間の勤務で30件の配達をしていると話す。収入は1勤務あたり約30〜40ドル。950ドルの平均給与を稼ぐためにはほぼ毎日働かなければならない。

フランスの投資銀行ナティクシスのエコノミストは、食品は必需品であるにもかかわらず、景気が低迷すると利用者はデリバリー注文に費やす金額を減らし、飲食店は客を引き付けるために値下げせざるを得なくなるとの見方を示す。

配達員の収入は通常、注文金額に基づく手数料に結びついているため、配達員の収入も減る。利用者に金銭的余裕がなければ、チップをもらえる可能性も低くなる。

一方、景気低迷により求人は減少し、競争が激化している。中国の若者の失業率は8月、18.8%に急上昇し、昨年当局が学生を算出対象から除外する手法に変更して以降、最高となった。

複占

香港に拠点を置くNGO「中国労工通信」の調査によると、デリバリーアプリは当初、拡大に向け多くの配達員を確保するため、より高い賃金を提示していた。

しかし、こうした企業が市場を独占し、アルゴリズムの開発が労働工程をコントロールするなど状況が変化するにつれて、配達員は労働保護がほとんどなく、一定の自由を失ったという。

企業は競合他社を追い出すべく価格を引き下げるため、多額の投資を行った。しかし支配的立場を実現した今、ボーナスや給与を削減することでコスト負担を配達員に転嫁し始めている。

国営オンラインメディアは、飲食店が時間通りに料理を準備できなかったため受け取らないと伝えていたにもかかわらず、調理済みの料理を受け取らなかったとして12ドルの罰金を科された配達員について報じた。

香港理工大学のチャン氏は、配達員が月給ではなく、配達ごとに報酬をもらうフリーランサーとして扱われていることも問題だと指摘する。このことが危険な道路状況を無視してできるだけ多くの配達をこなす動機になっているという。

この結果は致命的だ。国営メディア環球時報によると、北京では19年に強風で倒れた木にぶつかり、配達員が死亡した。

今月9日には、中国南部・湖南省の交差点で信号を無視した配達員のスクーターが車に突っ込む映像が報じられた。