[24衆院選 現場から]おわび行脚「みそぎ」狙う…野党、自民批判票に照準

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 旧安倍派出身で、かつて元首相の安倍晋三の下で文部科学相を務めたベテラン議員も苦境にあえいでいる。

 「裏金や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と関係のあった立候補者は、当選すれば『みそぎ』が済んだといえる?」

 衆院選公示前の13日、東京11区の板橋区で開かれた候補者討論会。主催者の質問に対し、赤字の「○」のボードを両手で掲げた候補が1人だけいた。政治資金の不記載問題で自民党本部から1年間の党員資格停止処分を受けた下村博文(70)だった。

 聴衆の一部からは「えー」という声や失笑が漏れ、立憲民主党の阿久津幸彦(68)ら他の立候補予定者は全て「×」のボードを示した。下村は神妙な面持ちで「信頼回復のために努力していきたい」と繰り返した。

 衆院議員9期の28年間、自民の看板を掲げてきた下村にとって、今回は初めて無所属で戦う選挙だ。4月に処分を受けて以来、いつ衆院解散があっても公認なしで戦えるように「おわび行脚」を続けてきた。

 公示日の15日には、板橋区役所近くでの出陣式で「まずおわびと説明責任、信頼回復に向けた話をしたい」と切り出した。長く使ってきた水色のたすきからは「自民党公認」の文字がはぎ取られ、古いポスターの「自民党」の文字もテープで隠されていた。

 「3月ガソリン代 13万3977円」――。不記載問題を受け、下村はホームページで調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途や1円以上の政治資金の支出を独自に公開するなど、透明性をアピールしている。

 街頭演説やミニ集会では、自らの問題への反省とともに、「開かずの踏切」が多い東武東上線の立体化など、地元有権者の関心が高そうな問題の解決に力を入れる。

 下村の元秘書で、同区を地盤とする都議の河野雄紀(54)は15日、同線成増駅前でマイクを握り、「これだけ説明責任を一生懸命果たそうとする人はいない」と理解を求めた。

 河野は7月の都議補欠選挙で9万票以上を得て、都議に返り咲いた。補選では自民が8選挙区で「2勝6敗」と大敗しており、河野の逆風下での1勝を巡り、与野党内では「下村票の健在ぶりを示した」との評価が出た。

 これに対し、阿久津を擁立した立民は政治とカネの問題に重点を置き、下村の支持基盤を切り崩そうと躍起だ。政治資金の問題があった他の選挙区と同様に、幹部を続々と投入している。

 「私たち以上に、自民を真面目に応援してきた人ほど強く怒っている」

 最高顧問の枝野幸男(60)は14日、区内での集会でこう呼びかけた。

 阿久津は東京都知事も務めた石原慎太郎の秘書として働いた経験も生かし、政治資金の問題に敏感な保守系の無党派層に浸透する戦略をとる。15日夜には、「この選挙、何が問題なのかと言えばやっぱり裏金の問題だ。決着をつけるのは有権者、国民の力しかない。裏金議員にはお引き取りいただく」と訴えかけた。

 日本維新の会の大豆生田実(58)も、保守系の批判票に照準を合わせている。15日に応援に駆けつけた維新代表の馬場伸幸(59)は「選挙が終わればすべて水に流れる。自民の裏金議員はそう思っているが、本当にそれでいいのか」と声を張り上げた。

 共産党の伊波政昇(72)を含め、野党は「下村包囲網」を敷いている格好だ。もっとも、野党候補の乱立で批判票の受け皿は分散気味となっている。阿久津と下村の競り合いは激しさを増し、勝負の行方は予断を許さないのが実情だ。(敬称略)

(土居宏之、阿部雄太)