(写真:時事)

「政権選択選挙」と位置付けられる「10・27衆院選」の15日公示を前に、与野党各党首による「党首討論会」が12、13の両日、相次いで実施され、「政治とカネ」「経済」「外交・安全保障」などについて激しい応酬が展開された。新政権の命運を国民の審判に託す石破茂首相(自民党総裁)は、討論での野党側の集中攻撃に持ち前の“弁論能力”で対抗するなど、「がっぷり四つの論戦」を展開した。

過去の国政選挙で恒例となってきたのがこの党首討論会。今回は12日の日本記者クラブ主催と、13日のフジテレビ、NHKと3連続で実施され、有権者の支持獲得を狙う各党首は、それぞれ丁々発止のやりとりを通じて、自らの存在をアピールした。

先陣を切って、東京内幸町の日本プレスセンター記者会見場で12日午後2時から2時間余にわたって実施された討論会には、石破首相(67)、野田佳彦・立憲民主党代表(67)、馬場伸幸・日本維新の会代表(59)、石井啓一・公明党代表(66)、田村智子・共産党委員長(59)、玉木雄一郎・国民民主党代表(55)、山本太郎・れいわ新撰組代表(49)」の7党首が登壇(神谷宗幣・参政党代表(47)、福島瑞穂・社民党党首(68)はビデオ出演)。各党首の個別討論と記者クラブ代表による質疑応答で、選挙戦での多分野の政策課題について、各党首がそれぞれの主張をぶつけ合った。

「個別討論」で維新・馬場、公明・石井両氏が“批判合戦”

各党首が順次相手を指名する個別討論では、やはり石破氏に批判や注文が集中。合計13回のうち8回は「石破VS野党党首」となり、野田氏は「日本被団協のノーベル平和賞受賞を受けての核兵器禁止条約締約国会議への参加決断」などを要求。石破氏は核禁会議へのオブザーバー参加について「真剣に検討する」と表明した。また馬場氏は、「所信表明で持論の日米地位協定に言及しなかったのは期待外れ」などと追及したが、石破氏は「時間がかかるが、あきらめてはいない」などとかわした。

その一方で、馬場氏は最初の討論相手には石井氏を、そして石井氏も馬場氏を指名した。大阪などでの両党全面対決の激しさが背景にあるとみられ、「馬場→石井」では「自民非公認候補への公明党の推薦のおかしさ」、「石井→馬場」では「高齢者医療での窓口負担増加に反対」などと批判合戦を展開した。

そうした中、国民生活に直結する「経済・財政・金融政策」などについても論戦が白熱化。その中で消費税減税について石破氏は「これから先の社会保障には安定した財源が必要で消費税は景気の上がり下がりにほとんど影響されないので、(税率の)引き下げは現在のところ考えていない」と減税を否定した。

これに対し、野田氏は8%の消費税の軽減税率に代えて、中低所得者の負担を控除と給付で軽減する「給付付き税額控除」の導入を主張し、石井氏が「飲食料品の税率が8%から10%になれば国民の痛税感がさらに増す」と批判したが、野田氏は「本当に困っている方に的を絞った対策としては、給付付き税額控除のほうが(軽減税率よりも)正しい」と反論した。

また、財務官僚出身の玉木氏は「いつまでもやるつもりはない」としながらも、「実質賃金が安定的にプラスになるまで消費税を5%に引き下げる」と主張。「消費税8%」を主張する馬場氏は「消費をどんどん刺激して国民にお金を使ってもらうことで、経済を大きくする」と力説した。さらに田村氏は「消費税廃止に向け直ちに5%へ」、山本氏は「直ちに消費税廃止」を提起、ビデオ出演の福島氏は公約の「消費税3年間ゼロ」を掲げ、神谷氏は「消費税の負担増回避」を訴えた。

「裏金問題」めぐり政策活動費廃止などで激しい攻防

その一方で、今回の衆院選で国民が注目する自民巨額裏金事件に端を発した「政治とカネ」の問題については、12日の記者クラブ討論会も踏まえ、翌13日午前のNHK日曜討論で9党首が「国民の信頼回復への対応」で真剣な論議を展開。まず石破氏は「収支報告書に不記載があった問題で12人を非公認とし、多くを比例代表に重複立候補させないという厳しい対応をした。あとは主権者たる国民の判断に従う」と自らの考えを説明し、理解を求めた。

これに対し野田氏は「改革の“大玉”は企業・団体献金を禁止するかどうかで、まったく触れないのでは改革に値しない。また政策活動費については全部の野党が『廃止する』と言っており、廃止の方向で抜本的な政治資金規正法改正をすべきだ」と主張。馬場氏は「自民は『脱税裏金議員隠し』と言えるような対応をしている」、田村氏は「パーティー券購入も含めた企業・団体献金の禁止に踏み込まなければ、根本解決にはならない」と批判した。

また、野田氏からアベノミクスの功罪を問われた石破氏は「コストカット型の経済にしたのは良くなかった。(安倍政権で自民幹事長などを務めた)自分も責任を負わねばならない」と述べたうえで、実質賃金を上げるため、高付加価値型の経済を実現する考えを強調。

さらに、デフレ脱却の判断材料については「傾向として物価が下落しないことが複数月続いていくことは極めて重要で、個人消費が着実に上がっていくことが確認されないと脱却は難しい」との認識を示した。

石破、野田両氏の“仲の良さ”で対決ムード緩和も

こうして、2日間にわたった党首討論会は幕を閉じ、各党首は13日昼前からそれぞれ「重点選挙区」を中心に街頭演説などで支持を訴えるため、地方遊説に全力投球している。その一方で、記者クラブ主催の党首討論を振り返ると、控室での討論前の打ち合わせでも各党首が笑顔を絶やさず、相手の立場も気遣う場面が目立った。

相次いで控室に到着した各党首は、まず、討論会で最初に掲げる「ボード」にそれぞれ、「日本創生」(石破氏)、「政権交代」(野田氏)、「古い政治を打ち破れ」(馬場氏)、「徹底した政治改革」(石井氏)、「変える」(田村氏)、「若者をつぶすな」(玉木氏)、「失われた30年を取り戻す」(山本氏)と大書した。その際、互いの字を批評し合い、隣席の党首が書いたボードを参考にして書き直す党首もいるなど、和気あいあいの雰囲気が続いた。

その背景には、「『似た者同士』を自認し合う、石破、野田両氏の“仲の良さ”」(政治ジャーナリスト)があるとの見方が多い。確かに、控室でも対決ムードはまったくなく、討論会から退出する際に乗り合わせたエレベーターの中でも、「お互い年寄りだから、体調を崩さないようにしよう」などと労い合っていた。加えて、「他の党首達にも攻撃的な人物が少なく、しかも複数が討論会初登場組だったこともあって、これまでのようなぎすぎすした緊迫感はなかった」(記者クラブ関係者)のが実態だ。

もちろん、そうした各党首も街頭演説などでは「対決姿勢を前面に出す」(政界関係者)のは当然だ。ただ、「悪夢の民主党政権」「あんな人たちには負けられない」などと挑戦的な言辞を連発した故安倍晋三元首相とは対照的に、石破、野田両氏は「言葉の使い方が丁寧で、攻撃相手の立場にも配慮する人物」(政治ジャーナリスト)とみられている。このため「両党首の控え目な性格が自民と立憲民主の対決ムードを緩和させ、結果的に選挙戦の“痛み分け”につながる可能性もある」(選挙アナリスト)との“複眼的”な分析も出始めている。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)