株式や投資信託への投資は、長期で付き合える相手を見つけ保有し続けるのが、精神的にも良い方法です(写真:ELUTAS/PIXTA)

世界的に不安定な値動きをしている株式市場だが、シンガポールなどで実績を上げ世界的ファンドマネジャーとして活躍する河北博光氏は、個人投資家にとって不安定な相場での行動こそが「将来のリターンで差を生む」という。

世界的投資家として知られるジム・ロジャーズ氏が推薦する『世界標準の資産の増やし方』を上梓した同氏が、長期投資で成功する人に共通する投資行動について解説する。

日本株は大きく下落した後、反発していますが、まだまだ不安定な状況が続きそうです。投資家の方々は日々保有しているポジションの損益が気になると思いますが、実はこういうときほど、長期投資の対象となり得る企業や長く保有することのできるファンドを見極めるチャンスとなります。

不安定なときほど行動で差がつく

皆さんは、株式相場の急落とその後の反発過程でどのような投資行動をとったでしょうか? 相場の異変を感じ取り、うまく売り抜け、多くの人がパニックに陥っている中、買い戻した人。少しでも利益を確保しようとしてポジションをフルに張っていたために、急落局面でポジションの解消に追われた人。特に何もせず、淡々と積み立て投資を続けた人。特に大きなポジション調整は行わず、余裕資金で株を買い増した人。


いろいろな人がいたと思います。その局面だけで見れば、うまくいった人もいるでしょうが、その人が常にうまくいくわけではありません。また、大きな損を出した人も悲観する必要はありません。投資には自分自身の判断以外の外部要因も加わり常に偶然の要素があります。熱くならずできるだけ冷静に対応することが大切です。

相場が落ち着いている局面と異なり、混乱している局面では極端な行動が採られやすく、その行動を見ることで、その投資家の特徴を見ることが可能です。

また、このように短期間の変動では、さすがに企業行動を変化させるところにまではいきませんが、経済が混乱したときには企業行動に差がつきやすく、ビジネスモデルの強さや経営者の能力が表れます。

客観的に見ていると、このような局面は投資家の特徴や企業の特徴を見極めるうえでまたとないチャンスと言えます。

まず企業のほうから見てみましょう。市場が安定して伸びているときは、それほどシェアの変動はありません。もちろん、社員の頑張りや優秀なマネジメント、画期的な商品などによって変化はあるのですが、劇的な変動は起こらないのが一般的です。

ところが、市場が落ち込むたびに、次の回復期には大きくシェアを上げてくる会社があります。過去20年30年と会社の歴史を振り返りながら業績の推移を見ていくと、逆張りで投資を行い、成果を上げている会社はいつも苦しいタイミングで投資を行っていることがわかります。

売らなくて良い株に投資せよ

投資の中身は、設備投資を積極化する場合もありますし、弱った会社をM&Aで吸収してシェアを上げる会社もあります。いずれにしてもそのような会社は、自分のビジネスにアップダウンがあることをよく理解していて、それを活かしながら成長しているわけです。一方、常にギリギリでビジネスをしている会社は、苦しい局面で投資を抑制したり、場合によってはビジネスの一部を切り売りしたりしています。それではなかなか成長できません。

もちろん、マージンが高く、財務に余裕のある会社は厳しい局面でも投資をしやすいのですが、サイクルを利用して投資するというメンタリティーがないと余裕があっても投資をしない場合もあります。逆に、それほど余裕がなくても、投資できる分くらいの余裕は残していて、しっかり投資を行う会社など、企業の行動はさまざまです。このような視点で企業を見ていくと、長期で付き合える会社が見えてきます。

逆境でしっかり投資ができる会社は、多くの人が悲観しているときほど買い時です。このような会社は、業績の良いときは他社よりもより成長し、厳しいときにはシェアを上げる、つまり売る必要がない会社なのです。株式投資の王道は「売らなくても良い株を買い長期投資する」ことです。市場が落ち込んだときはまさにそのような会社を探す千載一遇のチャンスなのです。

次に投資信託などのファンドです。ファンドはファンドマネジャーの投資行動はもちろん重要ですが、どのような資金特性の顧客がファンドを保有しているかも重要です。苦しいときにでも顧客が解約することなくむしろ資金が追加されるファンドと、損失が出るとすぐに大量の資金流出が起こるファンドがあります。

こういったときは、パフォーマンスにだけ注目するのではなく、ファンドの資金フローに注目することが大切です。自分が長く付き合おうと思っていても、投資している他の顧客に長期投資のメンタリティーがないと、自分も被害を浴びてしまいます。

バフェットのファンドが典型的ですが、相場が下落した局面でもお金が入り続けます。良いファンドというのはファンドマネジャーだけでなく、そこに投資をしている良い顧客に支えられて成立しているものなのです。

今回のような、相場の混乱は長期投資にとってはチャンスだと述べました。チャンスというのは、この混乱に乗じて儲けることができるという意味ではありません。

まずは、自分の資産管理のチェックができます。どうしても一本調子の相場が続くと、ポジションを取り過ぎるものです。そうすると今回のような相場で意思に反した行動を取らざるを得なくなるという経験をした方もいるでしょう。

できればうまく立ち回ることに憧れるよりも、淡々と自分のやり方を続けることができるのが長期投資では良いやり方です。自分が安心して保有できる株式や外貨建て資産の額を再確認してみるとよいでしょう。

そして、長期で付き合える企業やファンドを見極めることができるということ。今回は短すぎて企業行動の確認までは難しかったのですが、ファンドに関しては一部影響を受けたものもあったかもしれません。

相場の混乱を楽しむ余裕を

株式や投資信託への投資は、それがダメだと思えば入れ替えることも可能ですが、できれば長期で付き合える相手を見つけ保有し続けるのが、精神的にも良い方法です。

人生の中で究極の選択を迫られ、そのときにパートナーの本性を知るというようなことがあれば大変ですが、投資であれば、所詮、損益の世界であり、たとえ損が出たとしても、自分が長期で付き合える投資対象を見つけることができればラッキーです。そのように考えれば、相場の混乱も楽しむことができます。

そして、そのような姿勢で相場の混乱に対応することによる追加的なメリットもあります。それは、市場を落ち着いて客観的に見つめることができるということです。

自分自身も混乱に巻き込まれ必死に対応していると、嵐に巻き込まれている木の葉のようになってしまいます。しかし、吹き飛ばされている木の葉やその他のものを外から観測しながら、そのものの本質を見極めようとしていると、嵐の風の流れ自体も見えてきます。風の流れを必死に読むのではなく、一歩離れて見ることで、見ようとしなくても見えてくるものがあるわけです。

もちろん、風の流れがいつも見えるわけではありません。それでも何回に1回でも風の流れが見えれば、それで十分! そのときは思い切ってポジションをとってみるのもよいでしょう。また、仮に風自体は読めるようにならなくても、嵐に巻き込まれる木の葉になるよりはましなのです。

プロの投資家は、日々相場と対峙することが求められます。しかし、個人投資家はそのような仕事ではないわけですから、できるだけ余裕をもって日々取るポジションは一定の範囲内に抑え、相場の混乱があったときは、本質を見極める絶好のチャンスと思い、企業やファンド、他の投資家の行動を観察してみるとよいのではないでしょうか。

(河北 博光 : ファンドマネジャー)