「優秀な若手から順に去っていく」そんな会社にしてしまっては、未来はありません(画像:kou / PIXTA)

今、多くの企業が人手不足に悩み、離職を防ぐことは喫緊の課題となっています。

そんな中、残業を嫌って辞める若手社員は多くいますが、残業できないことが原因で辞める若手社員もいます。

そこで、経営心理士として1200件超の経営改善を行い、経営心理士講座を主宰する、(一社)日本経営心理士協会代表理事の藤田耕司氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、上司として知っておくべき、成長欲求が強い若手社員の価値観についてお伝えします。

会社に抱くニーズと離職の原因を9つに分類

「最近の若手は、打たれ弱い。ちょっと叱ると、すぐに辞めていく」


よく言われることですが、実は正確な言い方ではありません。

もちろん、全体としてそういう若手が増えているのかもしれませんが、中には逆に、「厳しくされないから辞める」という人もいます。

その違いは、いったい何なのでしょうか?

人は会社に対して、さまざまなニーズを抱いています。そのニーズが満たされず、今後も満たされないだろうと思ったとき、離職を考えます。

そのニーズは、当然ですが年齢や意欲によって異なり、そこには一定の傾向があります。

そこで、私が主宰する経営心理士講座では、年代を20代の新人若手、30〜40代の中間世代、50代以上の年長世代の3つに分け、それぞれの年代を意欲の高さでさらに上位、中位、下位に分け、次の9つのカテゴリーに分類し、ネーミングしています。

若手:上位【期待のホープ】、中位【ルーキー】、下位【問題児】
中間:上位【花形社員】、中位【現場牽引者】、下位【未開化者】
年長:上位【経営幹部】、中位【中間管理職】、下位【窓際社員】

この9つのカテゴリーごとに会社に抱くニーズと離職の原因について考えていくと、個々人にあった離職防止対策が見えてきます。

中でも「若手:上位【期待のホープ】」の離職は会社にとって大きな痛手となるものであり、よく相談が来るところです。そこで今回はこのカテゴリーの方によく見られるニーズと離職の原因と対応についてお伝えします。

このカテゴリーの人は、向上心が高く、仕事に対する意欲も旺盛であり、仕事を通じて力をつけていきたいという20代の新人や若手です。

このカテゴリーの人は成長欲求が強いため、成長欲求が満たされないことによる離職が多い傾向にあります。

成長欲求とは、能力を伸ばしたい、苦手を克服したい、創造的・生産的でありたい、自分の可能性を追求したいという欲求です。

20代の人はプライベートを大事にしたいから残業したくない、業務量はほどほどにしてほしいという方が多いですが、このカテゴリーの人は、成長欲求が強く、たくさん業務をこなして早く力をつけたいという方も少なくありません。

そして、成長しないまま歳をとることに焦りを覚え、業務を通じて成長している実感が得られなかったり、仕事がマンネリ化したりすると、それが離職の原因となります。

「残業をさせてもらえないことがいちばんつらかった」

前の会社は残業させてもらえなかったのがいちばんつらかったですね。

早く力をつけたかったので、深夜まで残業するほど仕事したかったんですが、17時30分になったら強制的に全員帰る感じで、特に若手の業務量は軽めでしたね。

でも、大学の同期は毎日残業するほど多くの仕事を任せてもらってたり、業務時間後や土日は副業していたり、起業して土日もずっと働いていたり、すごいスピードで成長しているので、自分だけ取り残されている感じがしていました。

それで転職しました。いまの会社は残業しても終わらないほど仕事を任せてくれるので、かなり大変ですが、でもとてもやりがいを感じてます。

K氏(元大手メーカー、26歳)

大手メーカーに勤めていた26歳のK氏は、上記のように業務量が足りないという理由から中小企業に転職しました。そして、いまはかなり多くの業務を担当できていることに満足して働いています。

また、IT企業に勤めていた25歳のY氏はこんな話をしてくれました。

私はもともと何か1つのことに打ち込むタイプで、学生時代はバスケに打ち込み、放課後の練習と朝練、土日は試合という日々が本当に楽しかったんです。

でも社会人になって初めに就職した会社は17時になったら帰らされて、それ以降、やることがなくて、時間を持て余すのが本当につらかったです。

それで転職しました。いまの会社は副業OKなので、業務後とか土日は副業でウェブデザインの仕事をしようと思って、いまはそのためのスキルを学んでいます。

Y氏(元IT企業、25歳)

こういったニーズを把握せずに「若手はストレスに弱いから、ハードに仕事をさせてはいけない」と思い込み、仕事の負担を軽くしたら、「この会社はぬるいです。もっと厳しい環境でもまれたいです」と言って若手が辞める。そんな事例は少なくありません。

しかも、この場合、成長欲求の強い貴重な人材の流出となるため、会社にとっては大きな痛手となります。

得たいスキルが得られなかったことによる離職

また、業務量だけでなく、業務内容についてもニーズが満たされないと、それが離職の原因となります。

大手コンサルティング会社に勤めていた28歳のN氏は、経営コンサルティングのスキルが身につくと思って入社したものの、実際の仕事はデータ収集やパワーポイントの資料作成ばかりで、コンサルティングスキルが身につかない状況にうんざりしていました。

その旨を上司に相談すると、「いまは下積みの時代だから。年次が上がればコンサルティングスキルが身につく仕事もできる」と言われ、その後、数年働きました。しかし、年次が上がって任された仕事は営業でした。

自分の要望が通らない状況に嫌気がさし、N氏は小規模のコンサルティング会社に転職します。その後、私がお会いした際、N氏は嬉しそうにこう話されました。

前職と比べると今の会社はオフィスも福利厚生もインフラもしょぼいです。でも仕事の内容がまさにやりたかったことなので、転職して本当によかったです。

N氏(元大手コンサルティング会社、28歳)

年収が下がる、オフィスも福利厚生もインフラもしょぼくなる。

それでも成長欲求の強い人は、「この会社にいると成長できない」と感じると成長の機会を求めて離職します。

「最近の若手は…」と決めつけてはいけない

いま、多くの会社が人手不足に陥っています。

採用がうまくいかない会社では、社員が辞めると辞めた穴を埋めることができず、現場が逼迫していきます。特に若手はストレスに弱く、叱ったり、残業をさせたりするとそれが原因で辞める社員が多くいます。その状況を恐れ、若手社員を叱らない、残業をさせないという会社が増えています。

しかし、成長欲求が強い若手からすると、この状況に物足りなさを感じるのです。

こういったミスマッチが起きないように、「若手にハードに仕事をさせると本人が嫌がる」と一方的に決めつけるのではなく、業務量や業務内容について本人の意向を確認するコミュニケーションをとることが重要です。

そして、極力、本人の意向に沿った働き方をさせてあげることです。

いちいちそういった対応をするのは手間だと思うかもしれません。ただ、成長欲求の強い若手は将来会社を牽引する存在になる可能性が高く、こういった社員の流出を防げるかどうかは社運を左右すると言っても過言ではないでしょう。

その点を考えれば、上記の対応をとる価値は十分にあると言えます。将来有望な若手の離職を防ぐうえで、今回の記事が参考になれば幸いです。

(藤田 耕司 : 経営心理士、税理士、心理カウンセラー)