『嘘解きレトリック』©︎フジテレビ

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 10月期フジテレビ系月9枠にて放送が始まったドラマ『嘘解きレトリック』。昭和レトロの雰囲気を再現した映像の美しさだけではなく、緻密に練られたストーリーや役者同士の掛け合いが面白い。特に鈴鹿央士と松本穂香の相性が抜群にいいのだ。自分の自信を持てない松本を鈴鹿が導いていく。鈴鹿の包容力のある演技にも驚かされるばかりだが、何よりも松本の丁寧に紡いでいく言葉の数々に惹き込まれる。

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 本作は“やたら鋭い観察眼を持つ借金まみれの貧乏探偵”と“ウソを聞き分ける奇妙な能力者”の異色コンビが、さまざまな難事件を解決していくミステリー作品だ。松本が演じるのは人のウソを聞き分ける能力を持つ浦部鹿乃子。その能力のせいで故郷の村人たちから気味悪がられ、追われるように故郷の村を出た鹿乃子は、空腹で行き倒れていたところを探偵の祝左右馬(鈴鹿央士)に助けられ、「祝探偵事務所」の探偵助手を務めることになる。

 第1話では辛い過去と向き合う鹿乃子の変化が描かれた。鹿乃子を守り続けていた母親の浦部フミ(若村麻由美)に対して、母親の心労を知りながらも淡々と独り立ちを告げる。自らは他人の嘘を見破ることができるのに、鹿乃子自身は「この力があれば悪い人にも騙されないし……」と母親には強がって見せ、母親の本当の言葉に涙を浮かべる鹿乃子の内に秘めた感情の機微がセリフからも伝わってきた。能力を持っているがゆえに繊細な感性を持つ鹿乃子を松本はこれでもかと瑞々しく演じていた。冒頭の5分にも満たない母と娘の対話シーンだけで松本のハマり役だと確信できた。かと思えば、左右馬との出会いのシーンでは、猫とにらみ合いながら目刺しの取り合いっこをしている無邪気な鹿乃子を生き生きと演じていた。

 松本の演技の魅力が表れていると感じたのは、食事処「くら田」でのシーン。倉田家の息子・タロ(渋谷そらじ)がおつりをごまかそうと嘘をついていることに気づいた鹿乃子が、「人を悪者にするような、そんな嘘はついちゃダメ」と強く叱責するときの表情だ。鹿乃子は嘘を聞き分ける特殊能力のせいで村八分にされてきた。もうそんな辛い思いをしないために、能力は使わないと誓ったはずだ。それでも、良くない嘘をついたタロを許すことができなかった。周りから笑顔が消えることを承知しながらも、嘘は良くないと言い切る鹿乃子の強さ、そしてそんな自分に対する自責の念が表情から溢れ出ていた。

 作中を通じて特に印象に残ったのは、松本の丁寧に言葉を紡いでいくようなセリフ回しだ。能力のせいで自分の思いを主張しないキャラクターだからなのか、鹿乃子のモノローグがたびたび登場する。モノローグである以上、当然感情を読み取れる要素は音だけに限られてしまうのだが、声色の微細な変化をセリフに乗せることで、今何を感じ何を考えているのか、松本の丁寧なセリフによって鹿乃子の心情が浮かんでくる。

 鈴鹿は松本について「松本さんは目からすごくいろんな感情や気持ちが伝わってくるなと感じています」と語っていた(※)。確かに、その通りだと納得した。猫との対話シーンや行方不明となったタロを一心不乱に探しに行くシーン、タロを見つけて安堵するシーン……そのどれもが感情が一気に切り替わる場面だ。“静”から“動”へと一気に感情が動いていくシーンでは、松本の豊かな表情が複雑な感情を伝えてくる。

 朝ドラ『ひよっこ』(2017年前期/NHK総合)では、ヒロインの同僚でマイペースで食いしん坊なキャラクターという澄子を演じ、約3000人が受けたオーディションの中から主演に抜擢された映画『この世界の片隅に』では不安の中で前向きに日々を生き抜くすずを瑞々しいタッチで演じていた。自分を見失っていた主人公が次第に多様性を受け入れていく映画『おいしい家族』を見たときの衝撃は今でも忘れられない。ここまで良い表情を自然にできる俳優がいるのか、と。シリアスでもコケティッシュであっても、松本のスタンスは揺るがない。ただ、自然にそこで演じているだけである。それはピュアとも言い換えることができるだろう。

 今回の見どころとしては、そんな松本を包み込むように演じる鈴鹿との化学反応である。第1話ではすれ違い気味なトークを繰り広げていただけに、この先どのようなバディになっていくのか非常に楽しみだ。

参照※ https://realsound.jp/movie/2024/09/post-1788849.html(文=川崎龍也)