パリ五輪で日本のキャプテンを務めた藤田。今後のさらなる成長が楽しみなボランチだ。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部/現地特派)

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 現地10月10日に、北中米ワールドカップ・アジア最終予選第3戦でサウジアラビア代表と敵地で対戦し、2−0で勝利した日本代表。チャーター機で迅速に帰国し、12日からは15日の次戦オーストラリア戦に向け国内でトレーニングをスタートさせた。

 三笘薫(ブライトン)と上田綺世(フェイエノールト)が室内調整となり、残る25人がピッチに登場。サウジ戦の先発組と後半の早い時間帯からピッチに立った伊東純也(S・ランス)と前田大然(セルティック)を除くメンバーが強度の高いメニューを消化。3日後のゲームを見据えてコンディションを引き上げた模様だ。

 その中には、9月シリーズから招集されている望月ヘンリー海輝(町田)、約2年ぶりの代表復帰となった藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)、追加で初選出の関根大輝(柏)も含まれていた。彼ら2001年生まれ以降のパリ世代を森保一監督は「成長枠」と位置づけ、最終予選を積極的に経験させようとしている。

 しかしながら、サウジ戦では残念ながら3人揃ってベンチ外。9月からの3試合を通してみても、試合に出たのは中国戦の高井幸大(川崎)1人だけだ。パリ世代の台頭の遅れは前々からの課題と位置付けられていたが、最終予選突入後はその傾向がより強まっていると言っていい。
 
「(大岩)剛さんも言ってましたけど、『五輪前にA代表を経由して五輪へ行く』というところで言えば、自分はそれができませんでしたし、チームの話でも、早く5大リーグでプレーしたいという気持ちがあるのに、まだ叶ってない。まだまだ自分の思い描いてる通りにいってないと思います」

 12日の練習後、藤田は偽らざる思いを吐露したというが、今の代表におけるボランチの基準は極めて高い。遠藤航(リバプール)と守田英正(スポルティング)の強度や攻守両面での存在感、試合を決定づける力は最終予選からより一層、上がっている印象もある。

 2人の鉄板ぶりが光っているため、今夏リーズに移籍したばかりの田中碧、複数ポジションをこなせる旗手怜央(セルティック)でさえ、出番を勝ち取れていない。となれば、藤田がごぼう抜きで序列を上げるのは至難の技。本人もそれを強く認識したうえで、生存競争を勝ち抜く覚悟を固めているはずだ。

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 クラブで右サイドバックを主戦場とする望月、関根にしても厳しい環境に直面しているのは一緒。現代表の3−4−2−1の場合、2人が目ざすポジションは板倉滉(ボルシアMG)が入っている3バック右、もしくは堂安律(フライブルク)と伊東が君臨する右ウイングバックのいずれかだろう。

 その2ポジションのユーティリティ枠は目下、菅原由勢(サウサンプトン)が参入を図っているところで、望月や関根が出番を得るイメージはなかなか湧きづらいところがある。

 それでも、森保監督があえて彼らを呼んでいるのは、「最終予選期間中に今、試合に出ている面々に肩を並べ、2026年ワールドカップの戦力になってほしい」という期待があるからだろう。

 日本サッカー協会の宮本恒靖会長も、若手の台頭が遅れた2006年ドイツW杯の苦い経験を踏まえ、「若い選手は予選期間中に代表に入って実績を積み上げていかないといけない。本番直前に加わるのは少し遅い」と語っていたが、指揮官も同じような感覚を抱いているはずだ。
 
 次の相手オーストラリアは、サウジ同様の強敵。となれば、どうしても経験不足のメンバーをベンチ入りさせる余裕はなくなってしまいがち。怪我人や体調不良者が出ない限り、次のベンチ外もサウジ戦と同じ顔触れになるのではないか。

 ただ、今回はノーチャンスでも、11月以降も予選は続く。3年前の2022年カタールW杯最終予選を振り返っても、三笘が鮮烈なA代表デビューを果たしたのは、日本が崖っぷちに立たされていた11月のオマーン戦だった。前田は2022年1月の中国戦、上田も同年3月のオーストラリア戦と、最終予選の後半から徐々に戦力となっていったのだ。

 前回のケースを踏まえると、藤田らパリ世代がこの段階で悲観する必要はない。もちろん前回最終予選に比べると、日本代表の主力メンバーの国際経験値が大きく上がり、チームも快進撃を見せているため、森保監督も大きくメンバーを変える必要のない状況が続いている。そう考えると、若手参入のチャンスはそう多くないかもしれない。

 そういったなかで、前回の三笘のような突き抜けた人材が出てきてくれれば理想的。それが藤田なのか、望月か関根か。それとも鈴木唯人(ブレンビー)など別の選手なのか。

 そういう期待を抱きつつ、パリ世代の猛アピールをぜひ見たいところ。「俺が、俺が」というエゴをどんどん出すくらいの選手が1人でも多く出てきてほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)