解散日も人事もすべて言いなり…!”仲間がいない”石破が頼った、意外な「長老議員」の名前

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総裁選では「解散は予算委員会を開いてから」と主張していたにもかかわらず、突如として「10月27日に総選挙を行いたい」と宣言し、世間を驚かせた石破総理。さらに裏金議員を「原則公認」とする報道が出る。

ところが、直後に裏金議員の一部を公認せず、公認する場合も比例代表との重複立候補を認めない方針を打ち出した。いったい何が起きているのか?

共同通信社特別編集委員の久江雅彦氏と元NHK政治部記者の岩田明子氏が官邸の裏側を語り尽くす!

「進次郎日程」で決められていた総選挙

石破茂総理は10月9日に解散して、衆院選は27日投開票となりました。いずれも総理就任から戦後最短となる日程です。

久江:この総選挙の日程は小泉進次郎さんが総裁になる前提ですでにつくられていました。幹事長に就いた森山裕さんと自民党事務総長の元宿仁さんが、絶対にこの日しかないと決めていたんです。

総裁選翌日に石破さんと森山さんが赤坂の議員宿舎で協議した際、森山さんが10月27日投開票の「進次郎日程」を強く迫ったそうです。

岩田:石破さんは総裁選では予算委員会を開催すると言っていたのに、党首討論だけで解散に踏み切りました。早速、「言行不一致」です。とはいえ仲間の少ない石破さんは、経験値の高い森山さんに頼るしかないのでしょう。

久江:実は遡ること9月24日、国連総会が開かれたニューヨークから帰国した岸田さんが、石破さんと電話で話しています。外交・経済政策の継承や国会の日程について話し合い、石破さんが岸田さんの要望を受け入れることと引き換えの形で、総裁選の支援を取り付けたのです。その際、岸田さんは、森山さんを幹事長にしてくれという趣旨のことを言っています。その後、石破さんは森山さんに党人事を委ねました。

「お友達じゃない内閣」の誕生

−石破内閣の布陣を見て、どう思いますか?

岩田:石破さんは筋金入りの財政規律派だと指摘する声をよく耳にしますが、内閣の布陣を見るとそうでもない。

経済再生担当大臣の赤沢亮正さんは緊縮財政に反対の立場だし、財務大臣の加藤勝信さんも厚生労働大臣時代に財務省の意向をあまり汲まなかったので、財務省からは歓迎されていない。

ただ石破さんにとってはこれが精一杯の人事で、あとは義理がある人など戦力とは思えない人をたくさん入れてしまった。

久江:石破内閣は、総裁選の決選投票で石破さんに入れた人たちで構成されています。石破さんの推薦人や旧岸田派、進次郎さん・菅さんを中心とした3つのグループと、参議院平成研を中心とする旧茂木派の一角、河野太郎さんの推薦人だった麻生派の一部、武田良太さんに付いていた旧二階派の一部です。

ちなみに村上誠一郎さんには最初は別のポストを考えていたけれど、最終段階になって総務大臣を打診しています。石破さんは初めから村上さんを入閣させるつもりだったようですが、過去の安倍さんへの「国賊」発言に対する党内の反発への遠慮から、すんなりと決まらず、最後に決める形となりました。

岩田:そういう決め方だから何をやりたいのか、メッセージが伝わらない内閣になってしまった。

さらに高市早苗さんに総務会長を、小林鷹之さんに広報本部長を打診しましたが、断られて火種を残してしまった、

久江:今回の人事について、一部で「お友達内閣」などと言われているけれど、実は「お友達じゃない内閣」なんです。本当に仲がいいのは、防衛大臣の中谷元さんくらい。防衛大臣経験者の岩屋毅外務大臣や小野寺五典政調会長は国防部会や安全保障調査会で一緒だったけれど、実はそこまで石破さんと親密ではありませんでした。

岩田:友達がいないから岸田さんや森山さんがコントロールしやすい。

久江:おっしゃるとおりで、詰め合わせの幕の内弁当のような感じになって、逆にバランスがいい政権ができあがったと思います(笑)。石破さんはずっと「党内野党」でやってきて、人付き合いも得意ではない。だから官僚も含めて仲間が必ずしも多くないんです。

筆頭の首相秘書官に防衛省出身者がついたワケ

−官僚だと、筆頭の政務秘書官に元防衛審議官の槌道明宏さんが充てられました。防衛省出身者が政務秘書官を務めることはどう見ていますか。

岩田:さっそく霞が関では、「防衛省出身者だと、省庁横断的な指示を出すのは難しいのでは」との声が上がっています。

久江:槌道さんは'85年に旧防衛庁に入った。安倍さんが懇意にしていた元防衛事務次官の島田和久さんと同期です。石破さんが防衛庁長官だった時と、防衛大臣の時に2回秘書官を務めています。

一方で、事務方トップの官房副長官には元総務次官の佐藤文俊さんを充てています。総務省内の役人に聞くと誰からも悪評が出ない。菅さんも一目を置いている人物です。事務の官房副長官はかつて「影の総理」と言われたポスト。佐藤さんの影響力や発言力がどこまで強まるかが焦点です。

岩田:警察出身者じゃないと、内閣改造の際、『身体検査』などができないのでは?

安倍政権や菅政権では杉田和博さん、岸田政権では栗生俊一さんでしたし。

久江:省庁間の調整を担う官房副長官は戦前の旧内務省の流れを組む総務省、厚生労働省、警察庁などから起用する不文律があるので、佐藤さんの起用はまったく不自然ではありません。

槌道さんは防衛が専門だったので、政策調整で実際に官邸を回していくのは佐藤さんでしょう。そこには各省からの総理秘書官らも絡んできます。佐藤さんが「官邸のヘソ」になれるかが今後のポイントだと思います。

後編記事『石破政権は来年の夏までもたない…そして「意外な男」がまさかの再登板へ!』へ続く。

ひさえ・まさひこ/千葉県生まれ。早稲田大学を卒業後、毎日新聞社を経て、'92年に共同通信社に入社。ワシントン特派員、政治部担当部長などを経て、'24年より現職。近著に『証言 小選挙区は日本をどう変えたか』

いわた・あきこ/千葉県生まれ。東大法学部を卒業後、'96年にNHKに入局。岡山放送局を経て、'00年に報道局政治部へ移り、安倍晋三元総理らを取材する。同局解説委員、解説主幹を務めた後、'22年からフリー

「週刊現代」2024年10月19日号より

石破政権は来年の夏までもたない…そして「意外な男」がまさかの再登板へ!