国スポの決勝で「最後の1点」を決め、栄絵里香と抱き合うSAGA久光スプリングスの平山詩嫣

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 バレーボールの新リーグ「大同生命SVリーグ」女子で初代女王を目指すSAGA久光スプリングスが13日、久留米アリーナ(福岡県久留米市)でKUROBEアクアフェアリーズとの初戦に臨む。9日に決勝が行われた地元佐賀での国民スポーツ大会(国スポ)で優勝を決める「最後の1点」を挙げたのは11月に24歳の誕生日を迎える背番号「8」のミドルブロッカーだった。

 今から半年前の4月だった。鹿児島県薩摩川内市内の体育館。どこか自問自答を繰り返すような、複雑な表情を覚えている。平山詩嫣である。パリ五輪出場を目指す女子日本代表の登録メンバーが招集された合宿期間中に、個別インタビューをする機会があった。

 取材の直前に行われた紅白戦では、身長2メートル級の「仮想海外勢」に見立てた男子の長身選手を向こうに回して、苦しんでいた。「正直、迷っています。圧倒的な『高さ』と『パワー』がある相手に対して、何を優先していけばいいのか…そこはずっと悩んでいます」。いつもの歯切れのいいコメントは聞かれなかった。

 中心選手となっているSAGA久光では感じることが少なくなっていた「圧」を、代表活動では受けていたことが、その話しぶりから想像できた。合宿は五輪の出場権を取るためのチーム強化という大きな目的とは別に、選手にとってサバイバルの場でもある。「だからといって、それ(圧)が私にとってマイナスに転じるとか、全てがプレッシャーに負けてしまうわけではありません」。自らに言い聞かせるようにしてうなずいた平山ながら、結果的に選からは漏れた。

 悔しくないはずがない。その気持ちに折り合いをつけられたのは、代表チームから離れた後、父竜也さん(60)から送られた以下の助言が胸にストンと落ちたからだった。「コントールできないことを、いつまでも考えてもプラスにはならない。選ばれなかったことに対して周囲から『やっぱりね』じゃなく『何でだろう』と思われるように、自分を磨いていこう」

 高さやパワーには限りがあっても、磨いていけるもの―。それは平山の武器でもある「センス」だ。「技術は身に付けていくものですが、センスは磨くものだと、昔父から言われました。感性もそうですし、コート内での瞬時の判断力や、起こりうることへの対応力、リスクマネジメントは考え方や取り組み方で強みにできると思ってます」。挫折を経て、平山が注力したテーマの一つが「最後の1点」を取り切る力だった。

 「それをチームの誰が取りにいくのか、セッターだったら誰で1点を取り切りたいのかが重要です。スパイカー3枚で『最後の1点』を競い合えるチームになれたら、私たちはもっともっと強くなれる。だからこそ、私自身もそこは絶対に引かないでいたいんです」

 以前、平山から聞いた言葉だ。先日の国スポで優勝を決めた「最後の1点」を目前で見ながら、ふと思い出した。第3セットの24―16。マッチポイントを握ってから、平山はセッターの栄絵里香(33)との2枚ブロックで確実にワンタッチを取り、つないで切り返した攻撃で、今度は栄のバックトスをライト側から鮮やかに打ち抜いた。SAGA久光バレーが目指す、サーブを「入り口」にした「トータルディフェンス」でつかみ取った栄冠。ミドルブロッカーの「二枚看板」で、強固なブロックと高精度のアタックで君臨した平山と荒木彩花(23)の存在感が際立った大会でもあった。

 「プロの世界でやらせていただいている以上、他チームの選手や男子バレーもそうです。見て、学んで、感じて、センスを磨いていく。それはずっと…いつかバレーボールをやめても持っておきたいものなんです」。SVリーグは来年5月までの長丁場だ。チーム、そして自らにとって、山も谷もあるだろう。それでも逃げることなく立ち向かい、乗り越えていくはずだ。初代女王の座に就くための大きな推進力になる平山の「センス」を、私は目に焼き付ける。(西口憲一)