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「X350」を試乗する筆者。並列2気筒エンジンの歯切れのいい排気音と活発な操作性が特徴。従来のハーレーダビッドソンとはまったく異なるフィーリング(写真:ハーレーダビッドソン ジャパン)

箱根の山でハーレーダビッドソンの「X350」と「X500」を走らせた。これまでのハーレーのイメージとはまったく異なるものの、どちらもとても優秀なバイクだった。

ハーレーダビッドソンは伝統ある大型バイクブランドとしてのイメージを堅持しながら、近年は新しい市場の開拓を目指して、小排気量モデルの展開に力を入れている。その取り組みの一環が昨年10月に日本市場に投入されたX350とX500からなる「Xシリーズ」だ。

従来のハーレーダビッドソンファンに加えて、若い世代や初めてハーレーに乗るライダーにもアピールすることを目的としている。

Xシリーズは、イタリアのベネリ社(中国・銭江グループ傘下)と共同で開発されており、エンジンやフレームの基本設計はベネリがベースで、生産もベネリの中国工場だ。ただし、ハーレーダビッドソンらしいデザインやフィーリングを持たせるため、外観や乗り味には独自の味付けが施されている。

ハーレーとしては手頃な価格

車両価格はX350が69万9800円、X500が83万9800円。200万円前後から500万円を超えるモデルもあるハーレーの中では手頃な設定といえる。いずれも伝統的なハーレーのV型2気筒とは異なる、水冷並列2気筒エンジンを搭載している。

一見すると2台はよく似た外観だが、エンジン排気量だけでなくサイズ、そしてライディングポジションにおいて微妙に、しかし随所で異なる特徴を備える。フレームもシートも形状が違うし、ホイールベースはX500のほうがわずかに長い。パーツレベルで共通と思われるのはメーターケース、ヘッドライト、前後のタイヤ&ホイールだけだ。

【写真】「手が届く」ハーレー「X350」「X500」と伝統的なハーレー「ロードグライド」


伝統的グランドアメリカン・ツーリング・モデル「ロードグライド」。価格は369万3800円から(写真:ハーレーダビッドソン ジャパン)

ハーレーダビッドソンというと、『イージー・ライダー』の映画に象徴されるVツイン・大排気量のアメリカン・グランドツアラーの印象が国際的に根強い。他方、日本では883ccエンジンを搭載した“パパサン”に代表されるコンパクトな「スポーツスター」とその派生モデルが人気を博したほか、アメリカ国内では1970年代にダートトラックのレースで活躍して存在感を示すなど、今とは異なる個性を発揮した時代もあった。

X500がデザインのインスピレーションを受けたのはそのうちの前者、かつてのスポーツスターだ。ステップはネイキッドバイクとして標準的な位置に設置されており、ライディングポジションはリラックスした姿勢を取ることができる。

エンジンは総排気量500ccから最大出力47馬力、最大トルク46Nmを発揮、トルクの太さを生かした走行が可能だ。X500は都市部の移動から長距離のツーリングまで幅広く対応できる多用途なバイクである。


「X500」はハンドルバーが高めでステップは低く、ライディング・ポジションにゆとりがあって取り回しは非常に楽。X350より若干乗り心地はスムーズで、エンジンの低速トルクがあって扱いやすい。リターン・ライダーにもうってつけだ(筆者撮影)

中型免許で乗れるX350

一方、X350、とりわけオレンジのカラーをまとうモデルは、1970年にデビューし、アメリカのダートトラックで成功を収めたレース専用モデル「XR750」の流れをくむデザインを採用している。XR750は、空冷45度Vツインエンジンを搭載し、非常に軽量かつ俊敏で、オフロードでの優れた操作性が特徴であった。

X350のトラッカースタイル(オーバルコースのレース車をモチーフにしたバイク)のデザインは、XR750の持つ競技志向を意識している。ステップ位置を後方に配置したアグレッシブなライディングポジションを中心とするスポーティな性格はX350に引き継がれており、ライダーは前傾姿勢を取りやすく、軽快で俊敏なハンドリングを実現するダイナミックな走行を促す。同時に195kgという軽量を生かして、取り回ししやすく、初心者でも扱いやすい。


X350の353ccの並列2気筒エンジン。X500に比べて2000rpm以上も上まで回るのが特徴(筆者撮影)

X350の最大の特徴は、中型2輪免許で乗れる353ccのエンジンを搭載している点だろう。最高出力36馬力、最大トルクは31Nmで、特に高回転域でのパワー感を重視してチューニングされており、街中でもスポーティネスを楽しむ走行に適している。

ワインディングロードでは多少ペースを上げてみたが、パワーに見合うしっかりしたフレームに整然と動くサスペンション、パワーに見合うしっかりしたフレームに整然と動くサスペンション、素直な特性のエンジンのコンビネーションで、とても扱いやすいバイクであると感じた。

ここからは日本の中型2輪免許でも乗れて価格もより手頃で、ターゲットが広いと思われるX350を基準に、他のメーカーとの対比やマーケットにおける存在意義を考えてみよう。

ハーレーダビッドソンの試乗会に赴き、ほかのハーレー各車に囲まれる中で「これはハーレーなのか?」という目線でX350に乗ると、疑問符ばかりが頭に浮かぶことを否定しない。ただ、色眼鏡を外してよくよく観察してみると、中排気量のバイク市場ではなかなか魅力的な存在であることがわかる。

X350の2気筒エンジンは同クラスの競合モデルに多い単気筒に比べ振動が少なく、1万1400rpmという高回転まで回せる。9300rpmほどまでしか回らないX500の500ccユニットに比べても、個人的には好みだ。

昔の話で恐縮だが、私が昔、走らせていたカワサキ「GPX250R」に近いフィーリングだなと思った。ホンダ「GB350」やBMW「G 310 R」といった単気筒モデルだと、高速道路で振動で手がしびれてしまったり、高回転域の伸びに不満を覚えたりすることが少なくないのだ。

フレームや各部コンポーネンツの出来栄えも、プレミアムブランドにふさわしい。フロントエンドだけ見ても、ブレーキにはこのクラスでは珍しいデュアルディスクを採用していて、制動力の点だけでなく美観のバランスにも貢献している。フロントフォークには剛性の高い倒立式を奢られた。

中国生産の気になる品質は?

生産国が中国であるという点について、気にする消費者も少なくないかもしれないが、IT関連で中国製といえば今や高品質の証しとなっており、実際製品に接してみれば、全体から安定感と信頼性を感じる。特に目に見える部分のクオリティは非常に高く、使用される部品や組み立ての精度も高いレベルに達している。


X500のエンジン。目に見える部分のクオリティは非常に高い(筆者撮影)

ハーレーがこのような中排気量モデルに注力する背景には、アメリカ市場での需要の伸び悩みがある。母国での大幅な成長が期待できない中、同社は2027年までに海外市場からの売り上げを全体の50%以上に引き上げるという目標を掲げ、とりわけ成長市場であるアジア諸国への進出を加速させている。

例えば、インドや東南アジアでは、現地生産によってコストを抑え、価格競争力を高めることでシェアを拡大しようとしている。

400cc前後のミドルクラスのモーターサイクルは、参入が容易で競争が激しいため、販売価格も低めに設定され、1台あたりの収益性は大型バイクに比べて低い。しかしながら技術的にはシンプルで、プレミアム機能も少ないため、製造コストも抑えられるのが利点だ。

このセグメントは主に大衆向けで実用性にフォーカスしている。また、多くのメーカーがこのクラスのバイクを通じて新規ライダーの忠誠心を獲得し、将来的に上級モデルへのステップアップを促している。

海外から、400ccクラスが面白くなってきた

400ccクラスのモーターサイクルは、かつて日本の中型免許に特化した、日本メーカーのモデルが多種多様に登場し、レーサーレプリカからネイキッド、タウンユース向けのレトロデザインやアメリカン、オフローダーまでより取り見取りだった。

国内市場の衰退や排ガス規制の強化によって一時はすっかりさみしくなってしまったが、アジアを中心とした海外による活況を経て、スポーツ、ネイキッド、クラシックなど選択肢が再び拡大しつつある。


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そんなマーケットにおいて、ハーレーX350/X500は、実はブランドではなく実力で勝負しようという意欲作である。従来の「ハーレーらしさ」を期待するライダーには異なるフィーリングかもしれないが、若い世代や新規の顧客層にとっては魅力的な選択肢となるだろう。

評価するポイントの中には、購入後の整備に対する安心も含まれるべきだ。規模が小さいほかのブランドとは異なり、日本に充実したサービス・ネットワークを持つハーレーダビッドソンゆえの安心感も考慮に入れておきたい。

(田中 誠司 : PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、PARCFERME編集長)