「若手社員」を怒鳴りつける先輩社員…意外と多い「八つ当たり屋」の精神構造

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根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

ある中小企業では30代の女性社員が突然20代の女性社員を怒鳴りつけるという。「この前、頼んでいた仕事はどうなったの。まだできてないの。なんでそんなに遅いの」「あなたが作った書類はミスが多くて、後で修正するのが大変なのよ。もっとちゃんとやってよ」などと目をつり上げて激怒する。そのため、若い女性社員は常にびくびくしており、退職者も続出しているため、慢性的な人手不足に陥っている。

「置き換え」による鬱憤晴らし

このように若い女性社員に当たり散らすのは、たいてい社長から叱責された日か、その翌日らしい。社長は中小企業のトップにありがちな超ワンマンで、すべての仕事を自分の思い通りに進めないと気がすまないのか、細かいことにまでいちいち口を出すという。

小さな会社で、事務関係を取り仕切っているのがこの女性なので、書類をすべて社長室に持ってこさせてチェックし、少しでも不備があると、「一体何をやっているんだ。バカ野郎」「なんでそんなに時間がかかって、しかもミスが多いんだ。ふざけるな。今日中にやり直せ」などと怒鳴り散らすのだ。

こういう暴言を吐くと、昨今ではパワハラで告発されかねない。だが、この社長は70代で、パワハラという言葉自体になじみがないのか、「バカ」とか「アホ」とかいう言葉を平気で使う。そのせいで嫌気が差して退職する社員が跡を絶たなくても、どこ吹く風で「バカには辞めてもらって結構。バカが会社にいたら大迷惑」と言い放つ。

それでも、補助金のおかげで会社の経営は一応安定しており、周囲の誰も社長に注意できない。いや、より正確には、聞く耳を持たない社長に注意しても無駄だとみな思っているというべきかもしれない。当然、社長が自分の暴言を反省する様子は微塵(み じん)も見られない。

社長から日々怒鳴られて、この女性は怒りや欲求不満を抱えている可能性が高い。それをうまく発散できないと、ストレスが溜まる一方であり、どこかで吐き出さなければ精神のバランスを保てない。

一番いいのは、ストレスの原因を作った社長に怒鳴り返すことだろう。「こっちだって一生懸命やっているのに、なんでそんなに言われないといけないんですか」「社長の指示が二転三転するから、こっちだって困るんです」「そんなにいい給料を払っているわけでもないのに、そこまで言うことないでしょう」などと日頃の鬱憤を社長にぶちまければ、ストレスを発散できるはずだ。

だが、そんなことは怖くてできない。そのため、怒りも欲求不満も溜まる一方で、どこかにはけ口を求めることになる。はけ口になるのは、たいてい自分よりも弱い相手だ。この女性にとって社内で自分よりも立場が弱い相手といえば、若い女性社員くらいしかいない。だからこそ、20代の女性社員に当たり散らして鬱憤を晴らそうとするのだろう。

このように怒りや欲求不満の原因になった当の相手が怖くて、言い返すことも反撃することもできない場合、その矛先を転換して別の対象に向け変えることを精神分析では「置き換え」と呼ぶ。これは、怒りや欲求不満を溜め込みすぎると心身に不調をきたしかねないので、そういう事態を防ぐための防衛メカニズムであり、誰でも知らず知らずのうちにやっている。

もっとも、傍目には、無関係な第三者に怒りをぶつけることによる鬱憤晴らし、つまり八つ当たりにしか見えない。

八つ当たりの対象にされたほうは大迷惑だ。だいたい弱い立場の人がターゲットにされるが、それ以外の要因がからまっていることもある。この女性は、婚活アプリに登録して結婚相手を探しているらしいが、30代後半という年齢がネックになってなかなかいい相手にめぐり合えないようだ。「なんで男の人は20代の女の子ばかり求めるのかしら」と愚痴をこぼしているのを隣席の既婚の女性社員が聞いたことがあるそうだ。婚活で苦戦しているせいで覚えた焦りや怒りを、直接関係あるとは到底思えない20代の女性社員にぶつけて鬱憤を晴らしているのかもしれない。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体