ナットクラッカーズ(原題) / Nutcrackers』のベン・スティラー
 - Courtesy of TIFF

写真拡大

 9月5日から15日まで開催された第49回トロント映画祭のオープニングで、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、ベン・スティラー主演のコメディ映画『ナットクラッカーズ(原題) / Nutcrackers』がワールドプレミア上映された。

 主人公は、シカゴに住むワーカホリックの不動産ディヴェロッパー、マイケル(スティラー)。6年がかりで進めてきた案件をまとめるのに躍起になっている彼は、自動車事故で亡くなった姉夫妻が遺した4人の兄弟たちの面倒を見るため、オハイオ州の農場を訪れることになる。里親のもとへ行く子供たちの書類にサインをして、すぐに仕事に戻るつもりだったマイケルは、家族サービスのエージェント(リンダ・カンデリーニ)から、養子縁組の話が、なしになったと知らされる。その理由が、豚やニワトリが家の中を徘徊するワイルドな環境に住む4兄弟のやんちゃぶり。想像を絶するものだったが、バレエスタジオを経営していた姉が、子供たちにもバレエを教えていたことを知り、それを利用して里親を見つけようとする……。

 上映前にはグリーン監督とスティラーが登壇。キャリア初期は、インディードラマ『ジョージ・ワシントン(原題) / George Washington』や、コメディ映画『スモーキング・ハイ』などを監督していたグリーン監督だが、最近は『エクソシスト 信じる者』や『ハロウィン』3部作など、ホラー映画が続いていた。そのため「1年前、4作目のホラー映画を編集していた時、ちょっと違う映画をやるべき時だと思ったんです」と本作の製作に取り掛かったきっかけを語る。

「僕には、13歳の双子の息子がいるんだけど、彼らと一緒に、僕が子供の頃の映画を観ていました。『がんばれ!ベアーズ』や『ヤング・ゼネレーション』なんかです。そして、悪意もシニシズム(冷笑主義)もなく、登場人物や映画を愛する喜びのために映画を作るのは最もラディカルなことではないだろうか、と思ったんです」。

 また、同じ頃、大学時代の親友の4人の息子たちに会いに行った経験も影響した。「彼らはオハイオ州に住んでいて、そのカリスマ性と魅力、そして彼らの農場にいるすべての動物たちにとても感動させられました。それで、いろんなアイデアが頭の中に浮かんできたんです」と明かすグリーン監督は、演技経験のないこの4人の兄弟を、今作に起用。当然ながら相性は抜群で、兄弟間のやりとりがリアルだ。

 そしてグリーン監督は「この地球上でもっとも好きな俳優で監督の一人であるベン・スティラーに電話したんですが、リスクを取って、このクレイジーなジャーニーに、このサーカス・ファミリーに参加してもらえたのは、僕にとってとても大きな意味がありました」とキャスティング秘話を振り返った。

 主人公のマイケルは、亡き彼の姉が「彼は(他人を)愛することができない」と子供たちに言ったことがあるというほど、自分勝手な男として登場するが、スティラーはそんな彼を、なぜか憎めない、いつの間にか感情移入してしまうキャラクターとして演じている。

 スティラーは、「デビッドと仕事ができるなんて、とても興奮しました。長年彼のファンだったんです。この映画はデヴィッドの頭の中から湧き上がってきた、奇妙でオーガニックなもの。脚本を読んで、彼がどう作りたいのかを話してくれたとき、とてもクレイジーで奇妙なものに、そして多分必ずしも適切じゃないものに思えました(笑)。それで僕は『イエス! これをやりたい』と言ったんです。多分、これまで映画を作ってきた中で最高の経験だったと思います。みなさんが楽しんでくださることを心から願っています」と締めくくり、満場の拍手を受けていた。(吉川優子 / Yuko Yoshikawa)