開放骨折

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監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

開放骨折の概要

開放骨折とは、骨折によって折れた骨が軟部組織(皮膚や脂肪など)を突き破って外部に露出する骨折のことです。開放骨折の多くは交通事故やスポーツでの激しい接触、高所からの転落が原因のため、高齢者だけでなく、若年者にも発症しやすい骨折といえます。

開放骨折では骨折部や皮下組織が空気に触れるため、感染の危険が高くなります。感染すると化膿性骨髄炎・感染性偽関節を発症する恐れがあり、通常の抗生剤治療での根治が困難です。そのため、手術によって感染・壊死した組織を切除しないといけません。

開放骨折では骨折部位が軟部組織を突き破る際に、動脈が損傷する可能性があります。動脈が損傷して出血が激しい場合、外傷性ショックにより死亡リスクも伴います。
開放骨折は以下の表のようにTypeⅠ~TypeⅢまで分類されます(Gustilio分類)。この分類を元に骨折部位の処置を決定することが多く、特に感染リスクが高くなるTypeⅢ-B・TypeⅢ-Cでは創部の洗浄といった初期治療がとても重要です。

TypeⅠ横や斜めに折れる単純な骨折が多く、開放創も1cm未満。開放創が清潔なため骨折処置で体内固定が選択されやすい。

TypeⅡ開放創が1cm以上ではあるが開放創は単純で清潔が保たれやすい。多くは体内固定が選択される。

TypeⅢ-A開放創の大きさに関係なく、強度の外力により開放創が複雑になっている。しかし、軟部組織で骨折部を覆うことができるため比較的清潔で体内固定が選択されやすい。

TypeⅢ-B骨膜の剥離を伴う広い範囲の軟部組織損傷がある。また、開放創や骨折部が激しく汚れているため感染のリスクが高くなり、創外固定になりやすい。

TypeⅢ-C開放創の大きさに関わらず修復が必要な動脈損傷を伴う開放骨折。感染のリスクや外傷性ショックのリスクが高くなり、救命措置が必要になる。

開放骨折の原因

開放骨折の原因は交通事故や転落などに伴う大きな外力です。そのため骨粗鬆症を発症した高齢者だけでなく、サッカーやラグビーなど激しい接触を伴うスポーツ選手や車・自転車によく乗る若年層にも起こりえます。

開放骨折は骨折した骨の断片が皮膚を突き破る骨折であるため、骨を覆っている軟部組織が少ない部位で発症しやすい特徴があります。特に多い部位は下腿(脛骨骨幹部骨折)や上腕(上腕骨骨幹部骨折)です。

開放骨折の前兆や初期症状について

開放骨折は大きな外力に伴い発症することがほとんどであるため、前兆症状はありません。開放骨折では、以下に挙げるような初期症状が見られます。

痛み

発熱

出血

腫れ

これらは皮下骨折(骨折部位が皮膚を突き破っていない骨折)でも見られる症状です。開放骨折の程度によっては上記の症状に加え、外傷性ショックの症状も伴うことがあります。外傷性ショックの症状は以下のとおりです。

皮膚の蒼白

冷汗

脈拍が弱く速くなる

意識障害

呼吸不全

これらの症状は命に関わるものであり、早期の対応が必要です。

開放骨折の検査・診断

開放骨折ではまず視診によって、創部の大きさを確認します。その後レントゲン画像やCTによって、骨の状態を確認することが一般的です。

また、開放骨折を生じるような大きな衝撃では、骨折部位以外にも損傷が及んでいる可能性があります。そのため、全身のレントゲン検査やMRI、CT、超音波で骨折部位以外の損傷も確認しなければいけません。

これらの検査に加えて、開放骨折では外傷性ショックや感染に対する評価も必要です。出血量の確認や意識状態、呼吸状態、血圧・心拍数などのバイタルチェックを行い、救命措置がどの程度必要かを確かめます。感染に対する評価では創部の軟部組織を一部切除し、培養検査を行います。培養検査の結果によって、効果が期待できる抗生剤を使用します。

開放骨折の治療

開放骨折の主な治療は、以下の3つが挙げられます。

救命治療

感染予防

骨折部の処置

救命治療

開放骨折の治療では、第一に救命措置を行います。外傷性ショックを伴う開放骨折では、輸血や人工呼吸管理を行い、命の安全を確保しなければいけません。

感染予防

外傷性ショックの有無に関わらず、感染症の予防も重要です。骨折部が皮膚を突き破る開放骨折では体内組織が空気に触れてしまうため、感染のリスクが高まります。そのため、速やかに創部の洗浄・汚染された組織の切除が必要です。このような感染予防の処置は時間との勝負であり、ゴールデンタイムと呼ばれる6時間以内に処置することが望ましいとされています。

また感染を予防するために、抗生剤も使用します。万が一感染した場合は手術の方法が難しくなるだけでなく、複数回手術が必要になったり、命に危険が及ぶ場合には四肢の切断も検討しなければいけなくなることもあります。

骨折部の処置

救命・感染予防に続いて、骨折部への処置が必要です。開放骨折では骨折部が空気に触れるため、骨髄への感染予防を考えた処置をしなければいけません。
感染の可能性が低い場合(Gustilio分類Ⅰ・Ⅱ・ⅢA)は髄内釘やプレートなどの体内固定術、感染の可能性が高い場合(Ⅲ-B・Ⅲ-C)は骨折部に直接触れることなく骨を固定できる創外固定を選択することが一般的です。感染がなく創部が安定したら、創外固定を外し髄内釘やプレートで再度骨折部を固定します。

さらに開放骨折の治癒過程では骨折部の機能維持・向上のためのリハビリテーションが必要です。リハビリテーションでは関節可動域訓練や筋力強化運動、筋肉の緊張緩和や痛みの軽減を目的とした物理療法を行います。

開放骨折になりやすい人・予防の方法

開放骨折は強い外力が加わりやすい人がなりやすいといえます。具体的には、サッカーやラグビーなど激しいコンタクトの多いスポーツ選手や車・自転車によく乗る人、高所で作業をする人などが挙げられます。

開放骨折を予防する方法としては激しい外力が体に加わらないようにすることです。つまり、コンタクトスポーツでは無駄に相手と接触しないようにすること、車や自転車ではスピードを出さず安全運転すること、高所の作業では命綱をつけ転落を防止することなどが考えられます。


関連する病気

皮下骨折

骨粗鬆症

外傷性ショック

化膿性骨髄炎

感染性偽関節

脛骨骨幹部骨折

上腕骨骨幹部骨折

参考文献

井樋栄二, 津村弘 et al 標準整形外科学第15版 医学書院 2023

骨折日本赤十字社

骨折日本整形外科学会

下腿の骨幹部骨折一般社団法人日本骨折治療学会

相良光利 et al 2006 下腿 開放骨折 の治療 に関する検討 昭和医会 第66巻 第5号

池口良輔 et al 2021 下肢開放骨折後の化膿性骨髄炎に対する遊離血管柄付骨移植術の治療成績 日外傷会誌 35巻 3 号

松本尚也 et al 2014 出血性ショックを伴う再建不能な下腿開放骨折に対する Damage Control Surgery(DCS) 日外傷会誌 28巻 3 号