「角膜潰瘍」とは?症状・原因・治療法についても解説!【医師監修】

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監修医師:
柳 靖雄(医師)

東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

翼状片の概要

翼状片とは、白目を覆う「結膜」が目頭から黒目に向かって三角形に伸びる疾患です。

目は視覚を司る器官で、さまざまな組織によって構成されています。
結膜は白目を覆う半透明の組織で、細菌などの異物が目に入るのを防いだり、涙液を維持したりする役割があります。

翼状片では、結膜下の細胞が異常に増殖して黒目部分まで伸びます。
なお、黒目は正式には「角膜」と呼ばれ、本来透明で血管のない組織です。しかし、日本人などのアジア人は色素の影響で角膜が黒く見えることから「黒目」と呼ばれています。

角膜は、目に入る光を眼の奥に位置する「網膜」という組織に届ける機能があり、物を見る上で重要な役割があります。
翼状片を発症すると結膜が黒目にかかるため、次第に視力が低下したり、乱視が悪化したりすることがあります。さらに、適切な治療を受けず放置すると結膜がどんどん大きく伸びていくため、視力が著しく低下する恐れもあります。

翼状片の原因には遺伝的なものと環境的なものがあり、翼状片を発症しやすい体質によるもののほか、日光や風、ほこりによる刺激などによって発症するケースもあります。

翼状片の発症を認める場合には、過剰に伸びた結膜を切除するための外科的手術が考慮されます。

翼状片の原因

翼状片は、結膜下の細胞が異常に増殖することで発症します。細胞が異常に増殖するものの、悪性腫瘍ではなく、良性腫瘍の一種に分類されます。
結膜下の細胞が増殖する要因については解明されていません。しかし、以下のような遺伝的要因・環境的要因が関与しているのではないかと考えられています。

遺伝的要因

家族内に翼状片を発症した人がいる場合など、翼状片を発症しやすい体質が受け継がれる可能性があると考えられています。

環境的要因

外仕事などで太陽光を浴びる機会の多い人、風、乾燥、ほこりなどによる刺激が原因で発症することがあると考えられています。

翼状片の前兆や初期症状について

翼状片の発症初期には、角膜が充血することがあります。これは、血管の豊富な結膜が血管のない角膜まで伸びてしまうためです。

また、翼状片では、視覚的に結膜が角膜の方に伸びていることが確認できます。一般的に、目は涙液の流れによってほこりや細菌などの異物が鼻側に集中するため、翼状片では結膜が鼻側に伸びる傾向があります。

なお、翼状片によく似た疾患に「偽翼状片」があります。偽翼状片は熱傷や「化学眼外傷」「角膜潰瘍」などの炎症性の疾患が治癒する過程で生じる病態で、翼状片とは異なるため鑑別には注意が必要です。

翼状片の検査・診断

翼状片の検査では、視診や視力検査、屈折検査などが行われます。

翼状片では視覚的に結膜が伸びていることが分かるため、まずは医師が目で見て確認します。また、病状によって視力の低下や乱視の悪化をきたすため、視力低下や乱視の程度を把握するため、視力検査や屈折検査を行います。

さらに、病態を詳しく調べるため、「角膜形状解析」や「光干渉断層計(OCT)」などの検査が行われることもあります。

翼状片の治療

翼状片の治療では、一般的に手術が選択されます。

角膜の充血に対してはステロイド点眼薬などの消炎薬を用いることで、症状が軽快することもあります。しかし、翼状片では物理的に角膜が伸び、視力が低下したり乱視が悪化したりします。これは眼鏡などを使用しても矯正することが難しく、根治のためには伸びた結膜を外科的に切除する必要があります。

一般的に、伸びた結膜が角膜の半径1/4以内までの範囲であれば乱視が出現する可能性は低いため、特別な治療はせずに様子を見ることが多いです。
しかし、結膜が角膜中央まで伸びている場合には、重度の視力低下をきたす恐れがあるため、手術の適応になります。

翼状片の手術

翼状片の手術では、伸びた結膜を切除します。

翼状片は結膜下の細胞が異常に増殖することで生じるため、結膜を切除しただけでは高頻度で再発を認めます。そのため、伸びた結膜の切除に加え、結膜下で増殖した細胞を取り除き、その上に周囲の健康な結膜を被せる「有茎弁結膜移植術」という術式で手術が行われます。

このほか、再発予防のため患部に「増殖抑制剤」を塗布したり、術後に患部に放射線を照射する治療が行われたりすることもあります。

繰り返し再発を認める場合や、結膜が角膜中央まで伸びている場合には、通常の手術より結膜の切除範囲が広くなることがあります。そのような場合には、自身の結膜の代わりに「羊膜」という胎盤の成分を移植する手術が行われることもあります。さらに、角膜が大きく欠損している場合には、角膜の移植術が行われるケースもあります。

翼状片になりやすい人・予防の方法

翼状片の明確な原因は明らかになっていないものの、日光に当たる時間が長い人や、風、ほこりなどに晒されることが多い人は、翼状片になりやすいといわれています。
そのため、翼状片の予防には、目に入る紫外線や風、ほこりなどを防御することが重要だといえます。

目を保護するには、帽子やサングラス、日傘などを利用して目を保護すると良いでしょう。近年では、紫外線カット機能があるサングラス、コンタクトレンズが多く販売されているため、そのような物を選ぶことも有効です。

しかし、色の濃すぎるサングラスを使用すると暗さによって瞳孔が開くため、かえって多くの紫外線を目に取り込んでしまう恐れがあります。そのため、紫外線カット機能があっても色の濃すぎるサングラスには注意が必要です。

紫外線はサングラスと目の隙間からも入ってくるため、大きめのものや顔の形にフィットするものを選ぶと良いでしょう。帽子の場合には、つばが広く、目の下まで影になるものを使用することが有効です。


関連する病気

偽翼状片

化学眼外傷

角膜潰瘍

参考文献

公益財団法人日本眼科学会「翼状片」

公益財団法人日本眼科学会「翼状片の発生機序について」

公益財団法人日本眼科学会「眼の構造」

公益財団法人日本眼科学会「白目がぶよぶよになる(結膜腫瘍)原因と考えられている病気一覧」

東北大学医学部眼科学教室「眼の病気Q&A 角膜・ドライアイ」

公益社団法人日本眼科医会「角膜の病気」

日本医事新報社「翼状片(私の治療)」