杉本彩が注意喚起する「保護犬」「保護猫」人気に便乗する悪徳動物ビジネスの実態

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犬や猫を家族に迎えるのならペットショップからではなく「保護犬・保護猫」をと考える人が増えてきている。

「保護犬・保護猫という言葉が特別な存在ではなく、当たり前の言葉として世の中に広まり、“里親”という選択をしてくださる人が増えたことは、とてもいいことだと思っています。しかしその一方で、保護犬・保護猫を一種のブームと捉え、それに便乗するトラブルや課題も多く存在していることも事実です」と話すのは、俳優で動物愛護活動家として公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長をつとめる杉本彩さんだ。

保護犬・保護猫にまつわる問題とは一体どういうことなのだろうか。そこには、“動物保護ビジネス”なるものが存在するのだという。

「保護犬・保護猫がきちんと譲渡されるためにも、また今懸命に活動されているきちんとした保護団体さんを守るためにも、この事実を知ってほしいと思うのです」と話す杉本さんに、前後編で“動物保護ビジネスの闇”についてお話を伺った。

取材・文/牧野容子

杉本彩さん俳優、作家、ダンサー、実業家、リベラータプロデューサー、公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長。 2014年「一般財団法人動物環境・福祉協会Eva(現・公益財団法人)」を設立し、理事長として、動物愛護活動に力を注ぐ。『動物たちの悲鳴が聞こえる - 続・それでも命を買いますか?』(ワニブックスPLUS)、『動物は「物」ではありません! 杉本彩、動物愛護法“改正"にモノ申す』(法律文化社)などの著書もある。

保護犬・保護猫人気の裏で存在する“動物保護ビジネス”

テレビやネットニュース、SNSでも「保護犬・保護猫」という言葉を見ることが本当に増えた。「ペットショップではなく保護された犬や猫を家族に迎えたい」と当たり前に考える人も増えた。しかし、そういった動きがある中、新たなる問題も生まれている。それは、保護犬・保護猫を謳ってビジネスをしている一部の問題のある保護団体の存在だ。

「まず、最初にお伝えしたいのは、活動をされている本物の動物保護団体さんの多くは、厳しい状況の中で、きちんと熱心に活動されています。ですが、ここにきて事業者は“動物愛護ビジネス”、そして一部の動物愛護団体は“下請け愛護”として、保護犬・保護猫を使ったペットビジネスが多くみられるようになりました(以下、動物保護ビジネスと記載する)。

動物保護ビジネスの場合、高額な寄附金とともにペットフードやペット保険を抱き合わせ、譲渡契約をさせます。里親サイトを作り、そこに掲載しています

もちろん通常の保護犬・保護猫の譲渡でも、譲渡費用として最低限の医療費などを一律でお願いすることはあります。きちんとした団体であれば、保護の経緯や性格、既往歴の説明はもちろん、動物病院からのワクチン接種証明書や感染症の検査結果もきちんと渡してくれるはずです。ですが、動物保護ビジネスの場合は、繁殖業者から仕入れてくるので、個体管理も出来てなく病気の有無も把握出来ていない、もしくは健康に問題があったとしても里親さんになんの説明もなく譲り渡し、のちに病気が発覚するなどさまざまなトラブルが激増しています」(杉本さん、以下同)

一方、下請け愛護というのは、動物愛護団体が繁殖業者のもとで不要(年齢を重ね繁殖できなくなった、病気で販売出来ない、先天性疾患がある)になった犬や猫を引き取って、保護犬・保護猫と称して里親に押し付ける“ニセ動物保護団体”のことをいう。

「そういう劣悪な繁殖場から保護するなというわけではありません。何よりそうした環境下にいる動物は命を落とす危険があるため、一刻も早い医療処置が必要です。ですので、そういった劣悪繁殖業者の動物を助け出すなら、その先の動物の被害を食い止めるために保護と同時に業を止めさせる必要があります。保護だけしたら、空いたスペースに新しい繁殖犬を入荷させ、また何年も虐待環境下で無理な繁殖を強いられ終わりが見えないのです」

ペットの法規制を抜けて出てきた新しいお金儲け

そもそも、保護犬・保護猫とは、迷子や飼い主の飼育放棄で保護された犬猫、飼い主のいない外で暮らす犬猫や、その犬猫が産んだ仔犬や仔猫、そして繁殖事業者の経営破綻や廃業によりレスキューされた犬や猫のことをいう。保護されたあとの行先は、動物愛護センターなどの行政機関や民間の動物保護団体や個人の活動家である。

それなのに、そもそもレスキューされた経緯もない犬猫を保護犬・保護猫と称し、それを保護活動というので非常にわかりづらい。

それではなぜ保護犬・保護猫を使った“動物保護ビジネス”が生まれたのか。それは前々回の法改正で、それまでペットショップや繁殖業者からの犬の引取りを、保健所やセンターは拒否できるようになったこと、そして前回の法改正で犬猫のペット事業者に、飼養施設や従業員、飼育環境、繁殖などについて具体的な規制がかかったからだ。

員数規定いわゆる一人当たりの頭数規定には、施行から3年(第二種は4年)の段階的な経過措置が設けられたが、目先の利益を優先し無計画に変わらぬ繁殖を続けていたことで、それを守るとなると、急に「犬や猫が行き場を失う、どうしてくれるんだ」とまるで悪法が今決まったかのように騒ぎだした。だがそれと平行し、動物保護ビジネスが台頭してきたため、不要犬・不要猫は保護犬・保護猫として次なるビジネスの商材となったのだ。

動物保護ビジネスの罪深さは、譲渡される側の金額的負担だけではない。せっかく法改正でペット流通に対して規制を作っても意味を持たなくなってしまう。動物愛護法を無視して、劣悪な環境でペットを繁殖させ続けても、「動物保護ビジネスに流出すればいい」となれば、どんな子であっても“販売すること”が可能になってしまうからだ。販売では、ハンディがある個体は難しくても、保護犬・保護猫と名前が付くことでハンディがある子も実質上“販売”しやすいというメリットもある。まさに、人の善意につけ込む悪行ビジネスと言えるのだ。

「ペットをどこから迎えるか」は慎重に

もちろん、動物保護団体には、日々、一匹でも多くの動物たちが幸せになるように、身を粉にして活動している“本物の”団体もたくさんある。でも、そうではない悪徳な団体があることも、事実なのだ。

このような現状を受けて、公益財団法人動物環境・福祉協会Evaでは、動物愛護週間に向けて毎年、制作しているオリジナル啓発ポスターの今年のテーマに『ペットをどこから迎えますか?』という問いかけを掲げている。それは、せっかく保護犬・保護猫を家族に迎えたいという里親希望者の純粋な気持ちを悪用されないために、里親を希望する人たちには、それが本当に保護動物なのか、信頼できる団体なのか、ということを少しでもチェックする目を持ってほしい、という杉本さんたちの気持ちを込めたものだ。

「動物保護ビジネスは、里親を希望される方の善意を踏みにじる行為です。さらに、懸命に活動されている動物保護団体の存在を脅かす許しがたい行為です。だからこそ、この動物保護ビジネスを許してはいけないと思うのです。そのためには、こういったビジネスが存在することをまず知っていただき、保護犬・保護猫を迎え入れる側にも見極める目を養ってほしいと思うのです」

◇後編『「その保護犬・保護猫は一体どこから?」杉本彩が伝える悪徳動物ビジネスに騙されない方法』では、どうしたら、動物保護ビジネスを見極めることができるのか、杉本彩さんに引き続きお話を伺う。

「その保護犬・保護猫は一体どこから?」杉本彩が伝える悪徳動物ビジネスに騙されない方法