「ナスカの地上絵」には何が描かれていたのか…AI、人工衛星、ドローンを駆使した最新研究結果を山形大学坂井正人教授が伝えます

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山形大学がAIを使った最新研究によって新たに303点の地上絵を確認したことが発表されました。

ナスカの地上絵には何が描かれていたのか。

AI、人工衛星、ドローンを駆使した最新研究結果を、このプロジェクトを長年リードしてきた山形大学教授の坂井正人氏が紹介します。

【※本記事は、青山和夫編『古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』から抜粋・編集したものです。】

地上絵の分布状況を現地調査

ナスカの地上絵の制作目的については、さまざまな先行研究がある。そのなかでも地上絵は歩くための道であるという説は、古くから主張されている。また地上絵は天体運行と密接な関係があるという仮説がライヘたちによって提示された。

直線の地上絵の中心点に多数の土器が分布しているところから、地上絵では儀礼的な土器破壊が行われていたと多くの研究者によって考えられている。さらに、台形の地上絵の内側にある石造建築物が発掘され、トウモロコシやスポンディルス貝が出土したことから、水や豊穣に関する儀礼が地上絵で行われた可能性がドイツ隊によって指摘された。

私は、地上絵に関する基礎的なデータを長期にわたって収集して、地上絵が何のために制作されたのかを解明することをめざしてきた。そのために地上絵の分布状況を把握することから、研究を始めた。

ナスカ台地は約400平方キロメートルに及ぶ範囲に広がっているので、そこに分布している地上絵の全体像を正確に把握した先行研究はない。そこで人工衛星・飛行機・ドローンから撮影された高精度な画像を分析するとともに、地上絵の分布調査を実施した。

現地調査を長期にわたって実施することによって、どのような地上絵がどこにいくつ分布し、そこでどのような人間活動があったのかについて研究してきた。こうしたデータを環境地理学・認知心理学・情報科学・人類学・動物学・人工知能などの専門家を交えて、学際的な視点から分析することによって、ナスカの地上絵の実態解明をめざしてきた。

リモートセンシング技術

ナスカの地上絵を考古学的に研究するために、地上絵の分布図は不可欠である。しかし、ナスカ台地があまりにも広大なため、正確な分布図を作成することは困難だ。

ナスカの地上絵研究を始めるにあたって、高解像度の人工衛星画像(最小分解能約60センチメートル)の存在は重要であった。

まず人工衛星画像に写っている地上絵を抜き出して、地上絵の分布図を作成した。その後、この分布図を検証するために現地調査を実施した。

その際に特に注目したのが、地上絵付近に分布していた土器だ。これらの土器を分析することによって、それぞれの地上絵が利用された時期が把握できるからである。

また現地調査によって、人工衛星画像には写っていない動物や植物などの具象的な地上絵が、ナスカ台地で多数確認できた。

そこで高解像度の航空写真(最小分解能約10センチメートル)を新たに撮影するとともに、ドローンを導入したところ、350点以上の具象的な地上絵をナスカ台地で発見した(図3−4)。【※本書に掲載された8点の図のうち2点を掲載。外部配信記事をお読みの方は現代新書サイトでご覧ください。】

我々が調査を開始する以前、ナスカ台地に具象的な地上絵は50点程度しか把握されていなかったので、人工衛星画像などのリモートセンシング技術が地上絵の分布調査に役に立ったことは明らかだ。現在、リモートセンシング技術を人工知能と組み合わせることによって、さらに詳細な地上絵の分布図を作成中である。

地上絵を理解するためには、それらを制作した人びとの社会を理解する必要がある。そのため、ナスカ台地の周辺に分布する当時の居住地・神殿・墓などの分布調査を行った。そのうえで、ナスカ台地に隣接するベンティーヤ神殿、居住地・エストゥディアンテス遺跡などで発掘調査を実施した。

こうした遺跡の発掘調査の成果を、地上絵のデータと統合することによって、地上絵を描いたナスカ社会について総合的に理解することをめざしている。

AIが未知の「ナスカの地上絵」を発見…山形大学の最新研究はこうして行われている!