BL(ボーイズラブ)入門者に向けて、毎月さまざまな切り口でおすすめのBL本を紹介する「BLことはじめ」。今回は、キヅナツキさんのBLコミック『ギヴン』(新書館)のアニメシリーズ完結作「映画 ギヴン 海へ」の公開を記念して、ハイブリッド型総合書店hontoのBL専門フロア「すわんぷ」の担当にして「BLことはじめ」の執筆者でもある井上將利さんと編集担当の岩本が映画や原作についてあれこれ語ります。(※ネタバレを含みます。まだ映画を見ていない方はご覧になってから読むことをおすすめします)(構成:岩本恵美)

あらすじ

佐藤真冬、上ノ山立夏(りつか)、中山春樹、梶 秋彦のバンド「ギヴン」は、フェス出場をかけたコンテストに落ちるも、メジャーデビューへの誘いがかかる。各メンバーがデビューに前向きな姿勢を見せる中、真冬は答えを出せずにいた。一方、メジャーデビューを決めた鹿島 柊(ひいらぎ)と八木玄純(しずすみ)のバンド「syh〈シー〉」。一時的なサポートギターとして加入していた立夏は、柊から託されたある曲を完成させようとしていた。そんな中、立夏のもとに真冬から「あいたい」と連絡がくる。ただならない雰囲気を感じた立夏は真冬のもとに駆けつけるが、真冬の音楽を拒むようなその態度に気づいてしまう。立夏への想い、音楽への想い。さまざまな気持ちの前で戸惑い、立ち止まってしまう真冬。そんな彼に声をかけたのは、世界的に活躍するヴァイオリニスト・村田雨月だった。

映画館で音楽に殴られるべし!

岩本:キヅナツキさんのBLコミック『ギヴン』は、2019年にフジテレビの深夜アニメ枠“ノイタミナ”で初めてアニメ化されたBL作品ということでも話題になりましたよね。続けて映画や実写ドラマ、舞台とさまざまな形でメディア化された大人気作品です。昨年、原作が完結して、ついにアニメも今回の「映画 ギヴン 海へ」でフィナーレを迎えます。原作を読まれていた井上さんはアニメ版を見ていかがでしたか?

井上:いい意味で本当に原作に忠実な映像作品になっていて、何気ない表情の一幕とか吐息の一コマを余すことなく表現されていて素直にすごい!って思いましたね。その上で、映像ならではと感じたのは場面場面での「間」かな、と。原作のシーンを実際の時間軸に当てはめた時に見る側が体感する一連の尺が、なんというかすごく心地よかった気がします。

©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

岩本:たしかに「間」は映像作品ならではの部分ですね。私はアニメを前作の映画も含めて配信で見ていたんですけど、今回はじめてスクリーンで見て、ライブシーンに衝撃を受けました! 臨場感がスマホやタブレットで見ていたのと全然違って、作中に出てくるセリフのとおり、まさに「音楽で殴られた」感じ。やっぱり音楽が主軸にある作品だけに、音の環境でだいぶ感じ方が変わってくるなと思いました。

©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

井上:syhのライブシーンですよね! 僕もあの音楽の迫力に、文字通り殴られたような衝撃を受けました。

岩本:デビューの話を前に、音楽も恋も失うことになるかもしれないと不安だった真冬も、音楽で殴られてハッとしますもんね。

井上:立夏たちが創り上げた音楽がちゃんとメッセージになって真冬に届いて、そこに至るまでの立夏・真冬のそれぞれの葛藤が「繋がった!」っていう爽快感のような、達成感のような、満ち足りた感情になりました!

岩本:たしかに! お互いを思うがゆえにいろいろ考えすぎていたのが吹っ飛んで、見ているこちらも清々しい気持ちになりますね。

井上:それと、完結作ということもあって、もう名セリフだらけですけど、syhのライブに行くのを躊躇していた真冬を導いてくれた雨月の言葉はやっぱり重みがありました。不安と恐怖で一歩を踏み出せない真冬に対して「もう、戻れないよ」と現実を突き付けつつ、前に進むしかないということを気づかせてくれた彼の存在は大きかったですね。

©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

岩本:本当にそうですね。そして、雨月も幸せになってほしい……! あと、「考える前に行動しても案外平気だよ」と、悩む真冬に声をかけてくれた立夏のクラスメイトの女子のセリフも好きでした。いろんな人の言葉を受けて前に進めることもあるし、逆に自分の何気ないひと言にも誰かの背中を押す力が宿っているのかもしれないなーなんて思って、なんだかグッときましたよ。

がむしゃらに走り抜ける恋と音楽の行方、見届けて

岩本:映画の中で井上さん的にいちばんグッときたポイントはどこでした?

井上:柊が真冬に会いに行った場面ですかね。柊というキャラクターがまず大好きなのですが、彼の太陽のような明るさが周囲を照らしてくれたり、一方で思慮深く誰かを思いやれたりと、彼の存在が真冬をはじめ登場人物たちの成長に欠かせない存在だったと思います。そんな柊が彼らしくまっすぐに真冬に言葉をかけて、去り際に真冬から「喉、大事にね」と言われて「ありがと‼‼」って返したシーンでは「ほんと柊好きだわ……」って思っちゃいました(笑)。

©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

岩本:いやぁ、わかります。私も柊、好きです。友だちにいてほしい! 『ギヴン』は魅力的なキャラクターが多いのもいいですよね。ちなみに、私は「しずらぎ(玄純×柊)」推しなんですけど、井上さんの推しカップルは?

井上:「秋彦×春樹」ですかね〜。『ギブン』の中では年長組というポジションで真冬や立夏たちの少し先を行く存在の頼もしいお兄さんたちなんですが、2人の恋愛模様は複雑な関係性や激しい感情のぶつかり合いもあり見応え十分。そして一周回ってめちゃくちゃピュアラブ!?なところが推しです!

©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

岩本:今回の映画でも、秋彦の愛情料理「ご査収チャーハン」も登場していましたね(笑)。個人的に『ギブン』は“BLことはじめ”にもぴったりな作品だと思うのですが、井上さんとしてはどんな人におすすめしますか?

井上:どんな人におすすめか?……どんな人でも絶対に楽しめます! 彼らの表現する音楽、恋愛模様の両方から感情を激しく揺さぶられる作品です! 好きなこと(音楽)、好きな人(恋愛)にがむしゃらになりながら、迷って迷って走り抜ける最高のラブストーリーズがここにあります。そして、今回の映画はまさに彼らの、『ギヴン』という作品の集大成です。これまで登場してきた全てのキャラクターたちが真冬や立夏の背中を押してあげるような、そしてそこに読者・視聴者も加わってみんなで完成させる作品のように感じました! この感動は是非、劇場で体感してほしいです‼︎

インフォメーション「映画 ギヴン 海へ」

2024年9月20日(金)公開
<スタッフ>
原作:「ギヴン」キヅナツキ (新書館「シェリプラス」掲載) 
監督:橋本能理子 脚本:綾奈ゆにこ
アニメーション制作:Lerche 配給:アニプレックス

<キャスト>
佐藤真冬:矢野奨吾 上ノ山立夏:内田雄馬 中山春樹:中澤まさとも 梶 秋彦:江口拓也
鹿島 柊:今井文也 八木玄純:坂泰斗 村田雨月:浅沼晋太郎

公式サイト