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親の反応欲しさに、注目を集めるような行動をする子どもは少なくありません。幼いころに関心を向けられなかった子どもは、その後ますます問題が悪化する、と英国の心理療法士のフィリッパ・ペリー氏はいいます。よりよい親子関係を築くために必要なこととは? ペリー氏の著書『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』(日経BP 日本経済新聞出版・刊、高山真由美氏・訳)より、詳しく解説します。

なぜ子どもは親の反応が欲しいのか

あるテレビ番組の制作に関わってシュールレアリスムのことを調べていたときに、画家のサルバドール・ダリの逸話を知りました。学童だったころ、ダリは大理石の柱に頭から突撃してひどい怪我をしたことがあり、どうしてそんなことをしたのかと尋ねられると、誰も自分に関心を向けてくれないからだと答えたそうです。

人は幼いころに必要なものを得られないと(相手に目を向けてもらえなかったり、充分な反応が得られなかったりすると)1つの成長段階から抜けだせなくなり、関心を向けてもらおうとしつづけることがあります。そうなると、親もほかの人々も、その子どもを苛立たしく感じるようになるのです。

赤ちゃんが発するヒントに敏感に反応するのは、子どもを「甘やかす」ことにはなりません。最初に時間をかけておけば、子どもは親との結びつきを持ちたいというニーズが満たされることに慣れていきます。

やがてその満足感が内面に定着し、ひっきりなしに結びつきを求めなくていいのだとわかるようになります。ところが充分に関心を向けてもらえないと、周囲の人々に直接行動で(もしくは感情的に)影響を与えている瞬間にしか現実を実感できなくなってしまいます。

充分に関心を向けてもらえた子どもには安心感があり、人間関係に気を取られすぎることはなく、自信を持つために大げさなパフォーマンスをしなければならないと感じることもありません。

関心を引こうとする試みに対して反応が得られないと、子どもはその試みをより騒がしい形で(年齢が上がるとより下品な形で)実行するようになります。親からネガティブな関心を向けられるのは、まったく関心を向けられないよりましなのです。少なくともそのときは親の意識のなかに自分が存在しているとわかるからです。子どもはさらに問題を起こそうとしますが、もちろん、それによってますます疎外されます。

ひとたび子どもが悩みの種になると、うまくつきあうことができず、関心を向けるのも難しくなりますが、これは大変残念なことです。そういう子どもほど、幼いころの断絶を修復するために関心を向けてもらう必要があるからです。

では、子どもとの関係が一種の戦争状態に陥ってしまい、すべての関心がネガティブなものになって苛立ちしか感じられなくなったら、どうすればいいでしょうか。

まず、子どもからも家からも離れ、積もり積もった怒りを安全に発散できる場所を探してください。批判せずに話を聞いてくれる相手に打ち明けるのもいいですし、防音完備の部屋でクッションを殴ったり叫んだりしてもいいでしょう。

親子関係の修復に効果的な「ラブ・ボミング」

いまある親子関係や、いままで自分がしてきたことを覆すには、心理学者のオリヴァー・ジェイムズの言う「愛情の絨毯爆撃(ラブ・ボミング)」をしかけるのもいいでしょう。

ジェイムズによれば、子どもとあなた自身の感情の温度計をリセットするには、いくらかの時間をともに過ごす必要があります。一緒に出かけるような「楽しくて質の高い時間」ではなく、ラブ・ボミングをする時間(始まりと終わりをはっきり決めて、常識の範囲内で子どもの言いなりになる時間)です。どこで何をするか、子どもが決めるのです。

ラブ・ボミングをするときは一対一で過ごします。ほかの家族が出かけているときに2人で自宅に残るか、あるいは、余裕があればホテルに泊まってもいいでしょう。

24時間、または週末いっぱいと決めて、そのあいだずっと安全かつ常識の範囲内で、何をし、何を食べるかといった行動を子どもが決めます。そのあいだじゅう、あなたは子どもに対する心からの愛情と感謝の気持ちを頻繁に口に出して伝えます。

子どもに主導権を与え、愛情を伝えることによって、素行の悪さを助長してしまうのではないかと思うかもしれませんが、そんなことはありません。

想像してみてください。あなたのすべてであるような人、その人の愛情や意見や関心が自分の根本的な部分に直結しているような相手から、関心を向けてもらえず、不当な扱いをされているとあなたが感じているとして、その人に関心を向けてもらえる唯一の方法が迷惑をかけることだとしたら?

その人が愛情や思いやりを向けてくれさえすれば、関心を引くために相手を苛立たせる必要はなくなります。ラブ・ボミングの実践では、子どもに親の関心を集中的に与えます。そうやって2人のあいだにあるネガティブなパターンを断ち切り、ギブ・アンド・テイクのリズムで動けるようにリセットします。

私は心理療法士として仕事をするなかで、常に人の関心を引こうとする大人を何人も見てきました。そういう行動を取らないと、自分が存在していないように感じるのです。子どもからのヒントの大半に反応せずにいることで、いいように人を操ろうとする人間を育ててしまっている可能性があります。

あるいは、人間関係を築くことを完全にあきらめ、絆を結ぶことのできない人間を育てている可能性もあります。子どもに必要なのはあなたが関心を向けることです。これは避けることができないうえに、近道もありません。

「よくやった」とか、「すごいね」と伝えるのは必ずしも得策ではありません。子どもを判定してはだめなのです。子どもに必要なのはふつうの対話なのです。子どもが幼いうちにたっぷり対話をしておくと、後になって手をかける必要がなくなります。

こんなふうに考えてください。

親子で列車に乗っています。座りっぱなしで長時間移動することに、子どもはたいてい飽きてしまいます。親は子どもと遊んだり、絵を描いたり、一緒に本を読んだり、ゲームをしたりすることもできますし、あるいは、静かにしているように命じてただじっと座っていることもできます。

あなたが一緒に遊んだり、読み聞かせをしたりといったギブ・アンド・テイクの時間を過ごしたほうが、ただ時間が過ぎるのを待ったり、不快な騒ぎに耐えたりするよりも、親子ともども快適に過ごせます。また、一緒に始めた活動に子どもが夢中になって、その後、親が必要とされなくなれば、あなたにも本を読んだり自分のことをしたりといった、くつろげる時間ができるでしょう。

フィリッパ・ペリー

心理療法士