下の世話、莫大な老人ホーム費用の請求…年収650万円の55歳公務員、同僚の“日常”に愕然。元気なうちにと開いた家族会議で27歳娘、涙ながら「私には無理」と本音【FPの解説】
長寿化によって、「いつかは自分も介護される側になるかもしれない」と漠然とした不安を感じる人は多いでしょう。しかし、実際そのための準備をしている人はどれだけいるでしょうか。本記事では、田中美咲さん(仮名)の事例とともに、FP dream代表FPの藤原洋子氏が介護への備えについて解説します。
初めて聞いた同僚の日常
田中美咲さん(仮名/55歳)は、地方都市の市役所にお勤めの公務員です。会社員である夫の浩さん(仮名/56歳)は地元の高校のテニス部で、先輩と後輩の間柄でした。美咲さんは、親に金銭的な負担をかけたくないという気持ちから、高校卒業後に地方公務員として就職しました。
浩さんも同様の理由で、高校を卒業すると地元の企業に就職します。数年後、同窓会で再会し交際がスタート。美咲さんが23歳、浩さんが24歳のときに結婚し、現在、長女(30歳、会社員)は独立、次女(27歳、公務員)との3人の生活です。
美咲さんの両親は、美咲さんが40代のころに2人とも他界しました。浩さんの父親もすでに他界、母親(86歳)だけが、現在も健在で一人暮らしをしています。田中さん一家は、月に2〜3度、かわるがわる浩さんの実家に通っていました。身体の衰えや認知能力はそれほど進んでいるようには思えませんでした。
美咲さんの職場には、親の介護をしながら仕事をしている同僚の女性がいます。職場の休憩所で、親族らしい人と電話をしているのを見かけることがありました。彼女が何度か介護のためと、休暇を取る様子を見かけたこともありました。
美咲さんがそっと様子を聞いてみると、同僚は「いまは、両親ともに見守りが必要な状況なんだ。私は3人姉妹の長女なの。母はトイレにも自分で行けなくなって……。一番下の妹が『お父さんとお母さんがかわいそうだから、施設はイヤ』と両親の入居に反対したこともあって、私とヘルパーさんとでしばらくはなんとかしていたんだけど。でも限界がきて、料金が安い施設はいっぱいだったから、介護付きの老人ホームにやむなく母を入れたの。親の年金だけでは足りないから月々の請求に怯えているわ。いまのところは姉妹で日程を調整して、行ける日に実家で父の世話をしたり、ホームに母の様子を見に行ったりしているのよ」と教えてくれました。
大きなショックを受けた美咲さんは、「そうだったの……。無理しすぎないようにね」と伝えるのが精一杯でした。
娘と真剣に自分たちの介護について話してみると…
美咲さんの職場にはその同僚のほかにも、親の介護に必要な費用を自分が一部負担している、という人もいました。「介護は本人だけの問題ではないのね」美咲さんは改めてそう思いました。
浩さんと美咲さんは、同居している次女に「お父さんやお母さんが年をとって、あなたのことが誰だかわからなくなったりしたら、どうする?」と切り出してみました。次女は、泣き出しそうになりながら「私には無理かも……」と言ったそうです。田中さん夫婦には、親の介護の経験はありませんでしたが、「そういうものかもしれないね」と納得したのでした。
子どもに負担をかけないようにするために
現在、田中さん夫婦の貯蓄は2,000万円あります。退職金は美咲さん2,000万円、浩さん1,200万円です。老齢年金は2人で月30万円ほど見込めますから、ゆとりのある老後を過ごせるように思えます。
しかし、田中さん夫婦は、孫が生まれれば、教育費の援助もしてあげたいし、子ども達にできるだけ多くの財産を遺してあげたいと考えていました。貯蓄と退職金の額からみると、いくら安心であるように思えても、将来どんなことが起こるかは誰にもわかりません。そのときに子ども達に経済的な負担をかけることがないように、自分達ができることはしておきたいというのが2人の想いです。
マイホームである戸建ての住宅ローンは、浩さんが65歳になるまで毎月11万円の支払いが続きます。契約者である浩さんが亡くなったり高度障害を負ったりした場合には、住宅ローンは、住宅購入時に加入した団体信用生命保険で残額が支払われます。しかし、それ以外の場合は、最後まで支払わなければなりません。浩さんが病気やケガをすると、治療費や生活費が上乗せでかかる可能性もあるでしょう。美咲さんの身になにか起こる可能性もあります。
美咲さんは、民間の介護保障について、どのような種類があるのか、どのような内容になっているのかを確認し加入を検討しようと、FPに相談してみることにしました。
介護が必要な人の割合
公的介護保険を受給している方はどれくらいいるのでしょうか。厚生労働省による調査によると、高齢になるにしたがって受給者数の割合は高くなっています。75〜79歳以降は、女性のほうが男性を上回っていることがわかります。
[図表]65歳以上における性・年齢階級別にみた受給者及び人口に占める受給者数の割合 出典:厚生労働省 介護給付費等実態統計
もしも、介護が必要な状況や認知症になったら、田中さん夫婦の場合は施設などを利用することになりそうです。介護を受ける本人や家族がどのようにしたいか、話しておくと将来の暮らし方について、選択しやすいということがあります。
認知症の方の人数は、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人の割合に増加するといわれていますが、認知症になることを遅らせたり進行を緩やかにさせたりするために、さまざまな研究が進められています。どのような病気にもいえることですが、気になることがあったら医療機関を受診し、早期に発見することが重要です。
介護が必要になったときの選択肢の一つ、保障の種類と概要
介護が必要になったときの保障として挙げられるのは、介護保険と認知症保険です。それぞれの特徴を紹介します。
介護保険
公的介護保険とは別に、介護が必要になったときの経済的な負担に備えることができる保険です。保険商品ごとに定められている所定の要介護状態になった場合に、一時金や年金が支払われます。年金タイプの保険商品には、一定の介護状態に該当すると保険料の払い込みを免除する特約を付加できるものがあります。大きなメリットとしては、65歳未満で公的介護保険の対象にならないケースでも保険金を受け取ることができる点でしょう。
認知症保険
病気のなかでも、特に認知症になったときのために備えられる保険です。認知症保険は、告知事項が少ないものがほとんどで、持病があるなどの方でも加入しやすくなっています。軽度認知障害と診断確定されたとき、器質性認知症と診断確定され、かつ公的介護保険制度の要介護1以上と認定されたときなどに給付金が支払われ、給付金を予防のために活用できる仕組みになっている保険商品もあります。保障の申込日から一定期間は保障の対象とならない免責期間が設けられているなどの保険商品が多いです。
介護保険、認知症保険、どちらの保険にも、保障期間や保険期間を10年などの有期とするか終身とするか選べる保険商品がありますので、保険料の払込期間や保障が必要な時期を決めて準備することも可能です。
ひとくくりに介護保険、認知症保険といっても、保険商品の保障内容は異なります。加入を検討する際には、どのようなときに保険金が支払われるのか、いつまで保障が続くのかなど、しっかり確認して納得のいく保険選びをしていただきたいと思います。
<参考>
厚生労働省 介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査):結果の概要 令和4年度 介護給付費等実態統計の概況(令和4年5月審査分〜令和5年4月審査分)結果の概要 受給者の状況P5
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/22/dl/02.pdf
明治安田生命
https://www.meijiyasuda.co.jp/find/list/sasae/index.html?tab-2
ライフネット生命 認知症保険be
https://www.lifenet-seimei.co.jp/product/dementia/
明治安田生命 認知症保険
https://www.meijiyasuda.co.jp/find/ld/imakarani.html
太陽生命ダイレクト スマ保険
https://www.taiyo-seimei.co.jp/tyosma/BizhubLogicServlet
藤原 洋子
FP dream
代表FP