「学生時代の友だちの遺伝子」が将来の健康を左右するとの研究結果
子どものころに受けたいじめの弊害が大人になっても続くとの研究など、幼少期の環境がその後の人生に与える影響がいかに大きいかを示す研究は数多く存在します。さらに、親や自分の遺伝子どころか、学校時代の同級生の遺伝子までもが精神疾患などの健康問題リスクと関係しているとする論文が、アメリカ精神医学会が発行する査読付き医学雑誌・American Journal of Psychiatryで発表されました。
https://psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.20230358
Your Old School Friends' Genes Could Be Impacting Your Health, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/your-old-school-friends-genes-could-be-impacting-your-health-study-finds
アメリカ・ラトガース大学の精神科医であるジェシカ・E・サルバトーレ氏らの研究チームは、友だちの遺伝子型が健康に与える影響、つまり「友人の社会的遺伝的影響」について調べるため、17歳〜30歳の個人の医療記録約65万件を収録したスウェーデンの調査データを分析しました。
分析では、まず各個人の薬物乱用や精神障害のリスクがマッピングされ、そこから依存症や気分障害が遺伝的特徴に根ざしている可能性を示す「家族の遺伝的リスクスコア」が算出されました。
研究チームはさらに、データを地域や出身校の情報と照合し、遺伝的リスクスコアと、学校の同級生や地域社会の構成員が同様の結果を経験する傾向との間の関係を探りました。
その結果、さまざまな健康問題に関する遺伝子的リスクが高い人と付き合っていた人は、たとえ自分の遺伝子に同様のリスクがなかったとしても、同じ問題を発症する可能性が高くなることが判明しました。
サルバトーレ氏は「精神疾患や薬物使用障害に対する同年代の遺伝的素因は、個人が成人期の若い時期に同じ疾患を発症するリスクと関連していました。このデータは、社会的遺伝的影響が広範にわたることを例証しています」と話しました。
ソシオゲノミクス(社会ゲノミクス)と呼ばれるこの新しい研究分野では、ある人の遺伝子型が他人のどのような傾向として表面化するかが研究されており、今回の研究のような形で影響を及ぼすという証拠もいくつか出ているものの、なぜそうなるのかは解明されていません。
サルバトーレ氏の研究チームは今回、薬物使用障害、アルコール使用障害、重度のうつ病、不安障害などの問題に焦点を当てました。これらの健康問題が過去の仲間からの影響である可能性はまちまちですが、特に物質使用障害への影響は顕著で、同じ高校に通った友人のグループの間ではリスクが最大59%も増加したとのことです。
影響は学校のみにとどまらず、同じ地域の住民間でも、小さいながらも無視できない影響が観察されており、その程度は16〜19歳の時期で最も顕著でした。ただし、大人になってから健康問題を発症する可能性があることも報告されています。
興味深いことに、友人の遺伝子の影響は、友人が特定の健康問題を抱えていなくても存在していました。例えば、遺伝的にアルコール問題を発症するリスクが高い同級生と同じ学校に通っていた人は、その同級生がアルコール問題を抱えていなかったとしても、後の人生でアルコール問題に悩まされる可能性が高かったとのことです。
これについて、サルバトーレ氏は「私たちの分析では、仲間が影響を受けているかを統計的に制御した後でも、仲間の遺伝的素因が対象者の障害のリスクと関連していることが判明しています」と説明しました。
学校の友だちの行動に影響されること自体は自然なことですが、遺伝的な関連に切り込んだ今回の研究では、より深い生物学的なレベルでのメカニズムが働いていることが示唆されています。
研究チームは今後、この知見を精神疾患などの健康問題の診断や治療の改善に役立てるべく、さらなる調査に取り組む予定です。