中国が定年退職を段階的に引き上げへ、その背後にある四つの動向とは?

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10日に開かれた第14期全国人民代表大会常務委員会第11回会議において、国務院の法定定年退職年齢の段階的な引き上げに関する決定の審議要請を審議し、注目を集めている。新華社が伝えた。

専門家は、法定の定年退職年齢を引き上げるのは、現時点での人口の発展動向に対応し、高齢化という課題に効果的に対処するためであることが大きな原因の一つとの見方を示している。

動向その1:中国の平均寿命がすでに78.6歳まで伸びている

中国はすでに長寿の時代に突入しており、人々の人生において「老年期」が占める長さがより長くなっている。最新データによると、中国人の平均寿命はすでに78.6歳にまで伸びている。

中国人口・発展研究センターの賀丹(ホー・ダン)主任によると、「2030年までに、中国人の平均寿命は80歳を超える可能性がかなり高いと予測されている」としている。

また、中国人口学会の副会長を務める南開大学経済学院の原新(ユエン・シン)教授は、「寿命が急速に伸び、平均寿命が大幅に伸びているということは、定年退職後の人生が大幅に伸びており、今後さらに伸びる見込みであるということだ。それに対して、現時点で中国の定年退職年齢は男性が60歳、女性が55歳または50歳で、70年以上調整されていない」と指摘する。

そして、「現行法の定年退職年齢は1950年代に決められた。当時の平均寿命は50歳未満だった。定年退職年齢を引き上げることは、総合的な社会改革であって、経済や社会の発展の多方面のニーズに対応することができる。平均寿命が延びているのに対応するというのも、そのうちの重要な検討要素だ」と説明する。

動向その2:人口資質が向上、新規労働者が受けた教育の平均年数は14年以上に

中国が世界最大規模の教育体系を作り上げたことで、その人口資質も大幅に高まっている。生産年齢人口が受けた教育の平均年数は、1982年の8年程度から、2023年には11.05年にまで高まっている。特に、新規労働者が受けた教育の平均年数だけを見た場合、14年以上になっている。

中国社会科学院・世界社会保障研究センターの鄭秉文(ジョン・ビンウェン)主任は、「現在、高等教育の粗就学率は60%を超え、大学生の数が目に見えて増加している。高等教育を受けた人口は2億5000人以上となっている。20歳くらいで社会に出ていた過去と比べると、今の若者は、修士課程を修了した時点で25歳くらい、博士課程を修了した時点で30歳近くになっている」とするデータを基に、「労働市場に出て来る労働者の年齢が高まっているのに、定年退職年齢が変わらなければ、ヒューマンリソースを十分に活用することが難しい」との見方を示す。

そして、「本人が希望し、柔軟に対応することを前提に、定年退職年齢を適度に引き上げるのと同時に、雇用促進メカニズムを整備し、雇用の構造上の矛盾解決に力を入れ、ハイレベルなヒューマンリソースを効果的に配置し、より大きな役割を果たすことができるようにすれば、新たな人材ボーナスを引き出すことができるほか、意欲のある労働者は収入を増やすことができる」とする。

動向その3:高齢化が進み、高齢者人口が占める割合が3割超へ

人口の高齢化は中国式現代化を推進する上で必ず向き合わなければならない重大な課題だ。

中国民政部のデータによると、2023年末の時点で、中国の60歳以上の高齢者人口は2億9700万人となり、総人口に占める割合は21.1%に達した。また、65歳以上の高齢者人口は2億1700万人となり、総人口に占める割合は15.4%に達し、「中度の高齢化」社会に突入した。

中国人民大学・労働人事学院の趙忠(ジャオ・ジョン)院長は、「人口の高齢化が進むにつれて、高齢者ケアサービスの需要に供給が追いつかない状態が際立つようになっている。高齢化は世界各国が直面している課題だ。定年退職年齢を引き上げるだけでは、高齢化問題を完全に解決することはできないものの、労働参加率を高めて、意欲や能力があり、そうできる環境にある高齢者であれば、ある程度仕事をすることを選択することができる」との見方を示す。

原教授は「50後(1950年代生まれ)や60後(1960年代生まれ)、数年後には高齢者となり始める70後(1970年代生まれ)は、中国大学統一入学試験(通称「高考」)再開後の直接受益者で、年齢が若いほど、受けた教育の程度も高くなっている。今後、高齢の労働者が増え、資質もさらに高まるだろう。雇用を安定させ、就職先を確保する政策が整備されるにつれて、そのような人たちも経済、社会の発展において大きな役割を果たしてくれるだろう」との見方を示す。

動向その4:労働者数が減少し、生産年齢人口が約8.6億人に

人口経済学において、生産年齢人口は16〜59歳と定義されており、社会生産の主力となる。中国国家統計局のデータによると、2023年末の時点で、中国の生産年齢人口は約8億6000万人で、総人口に占める割合は61.3%だった。

鄭主任は、「労働力の要素は経済の長期にわたる動向を左右するカギとなる要素。中国のヒューマンリソースは依然として豊富であるものの、ポテンシャルとスタミナに着目すると、一定の政策を調整することで、ヒューマンリソースの強みをさらに引き出すことができる」との見方を示す。

データによると、2012年から生産年齢人口が年々減少している。趙院長は「構造を見ると、生産年齢人口のうち、青年のグループが減っているのに対して、それより年齢が高いグループは増えている。これはつまり、労働市場において、働き盛りの能力が最も高い年齢層が減少しているということだ」と指摘する。

そして、「人口の高齢化が進むにつれて、生産年齢人口が減少するというのは、客観的な発展の規律だ。定年退職年齢を段階的に引き上げることで、意欲がある高齢の労働者が将来の労働力を充実させる重要な力になるよう働きかけ、生産年齢人口減少の勢いを弱めることができる」との見方を示した。(提供/人民網日本語版・編集/KN)