【スゲー】2024年上半期に5.5万台以上売れた「シエンタ」!! ライバル新型「フリード」に対抗するトヨタの販売戦略とは?
新車を買うとき、その売れ行きも気になるところだ。日本自動車販売協会連合会の公表する登録台数表を見れば、車名別にランキングや販売台数を知ることができる。人気のミニバン「シエンタ」は、2024年上半期(1〜6月)に5万5649台を登録した。ライバルシエンタを超える販売台数を実現したトヨタの販売戦略とはどんなものなのだろうか?
車名別のランキングは、バリエーションの多いモデルが有利
2024年上半期(1〜6月)に販売の好調な車種としては、軽自動車では、ホンダN-BOX、スズキのスペーシアやハスラーが挙げられる。小型/普通車では、カローラ、ヤリス、シエンタ、ノート、ヴェゼル、セレナ、フリードという具合だ。
これらの販売データを見る時は注意が必要だ。日本自動車販売協会連合会の公表する登録台数には、複数のボディタイプが含まれる場合があるからだ。
2024年上半期における小型/普通車の登録台数1位はカローラだが、この中にはカローラセダン、ワゴンのカローラツーリング、SUVのカローラクロス、5ナンバー車になる継続生産型のカローラアクシオなど、合計6種類のボディが含まれる。
つまりカローラシリーズとしての販売実績だ。そしてシリーズ全体の48%をカローラクロスが占めて、カローラツーリングも26%に達する。この2つのボディタイプで、カローラシリーズ全体の70%以上を占めてしまう。
小型/普通車の登録台数が2位になるヤリスも同様で、5ドアハッチバックのヤリス、SUVのヤリスクロス、スポーツモデルのGRヤリスを合計した台数になる。この内、53%をヤリスクロスが占める。
そして2024年上半期にカローラシリーズで最も多く登録されたカローラクロスの1か月平均は約6660台、ヤリスクロスは約7260台であった。
ノートもノートとノートオーラの合計台数で、別々に算出すると2024年上半期の1か月平均はノートが約4750台、ノートオーラは約4060台になる。
車名ランキングをボディタイプ別に出すと、売れ行きがわかりやすい
こうなると小型/普通車登録台数をボディタイプ別にランキングした場合、車名別とは順位に変化が生じる。1位はコンパクトミニバンのシエンタで、1か月平均は約9240台だ。2位はヴェゼルで約7360台、3位はヤリスクロスで前述の約7260台、4位はセレナで約6690台になり、5位が僅差でカローラクロスの約6660台になる。
シエンタの人気は絶大で、ヴェゼルも納期の短縮とマイナーチェンジの効果で2位に浮上した。セレナも好調だ。統計上の日産の販売1位はノートだが、ノートとノートオーラを別の車種とすれば(実際に日産の広告では「オーラ」として別に扱っている)、セレナが1位に浮上する。
以上のように販売ランキングの実態は、世間一般の認識とは異なる。2024年上半期の小型/普通車市場で、トヨタのシェアは48%だったから、販売が好調なことは事実だ。しかしボディタイプ別の販売ランキングを見ると、1位はトヨタのシエンタでも、2位はホンダのヴェゼルで、4位には日産セレナが入った。
このような販売ランキングになる理由は、トヨタが複数の車種によるチームワークで売れ行きを増やしているからだ。この販売戦略には、それぞれのクルマ造りも影響を与えており、シエンタを見ると良く分かる。
シエンタとライバル・フリードの違いとは?
シエンタのライバル車になるフリードは、現行型になって全長が4300mmを超えてクロスターはワイドな3ナンバー車になったが、シエンタは全長が4300mm未満の5ナンバーサイズにこだわる。全高も2WDは1700mmを超えず1695mに抑えた。
さらにシエンタでは、3列目シートは2列目の下側に格納され、荷室に張り出さない。その代わり格納の作業をする時は2列目を動かす必要があって少々面倒だ。つまりシエンタでは、通常は3列目を2列目の下に格納して荷室の広いコンパクトカーとして使い、稀に多人数で乗車する時だけ3列目を引き出す使い方を想定している。
これはノア&ヴォクシーとのチームワークを考えた結果だ。ノア&ヴォクシーは、3ナンバー車で全高も1800mmを上まわり、3列目はレバーを引くだけで簡単に持ち上がる。頻繁にシートアレンジを行う使い方を想定している。
シエンタはノア&ヴォクシーとの重複を避けることも視野に入れ、ボディは小さく、全高は低く、シートアレンジは2列状態を重視して、いわばコンパクトカーに近いミニバンに仕上げた。さらにアルファード&ヴェルファイアも、ノア&ヴォクシーとはまったく違う世界観で開発されている。
ちなみにホンダのフリードは、コンパクトミニバンでもミニバンらしさが濃厚だ。ユーザーにとってメリットになり得るが、ステップワゴンとの重複や競争も避けられない。チームワークはあまり考えていないが、トヨタのシエンタ/ノア&ヴォクシー/アルファード&ヴェルファイアは、身内に対する気配りが凄い。
互いに相手の領域を絶対に侵さず、さまざまなユーザーを幅広く捕らえる。そこにトヨタのチームワークの強さがある。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/ トヨタ、ホンダ