進化するスポーツ エージェンシー の役割:アスリートとブランドを結びつける新たなマーケティングモデル
記事のポイント
スポーツエージェンシーは、選手のマネジメントからブランド契約、コンテンツ制作までを行うビジネスモデルを展開し、アスリートと広告主の両方に対応する役割を担っている。
ブランド契約はインスタグラムやTikTokといったSNSでの影響力に依存し、スポンサーシップ契約は短期的なキャンペーンが主流となっている。
WNBAや女子サッカーなど、女子スポーツへの関心が高まりつつあり、エージェンシーはこの分野に特化したビジネスを展開。
スポーツエージェンシーは、選手のマネジメントからブランド契約、コンテンツ制作までを行うビジネスモデルを展開し、アスリートと広告主の両方に対応する役割を担っている。
ブランド契約はインスタグラムやTikTokといったSNSでの影響力に依存し、スポンサーシップ契約は短期的なキャンペーンが主流となっている。
WNBAや女子サッカーなど、女子スポーツへの関心が高まりつつあり、エージェンシーはこの分野に特化したビジネスを展開。
近年では、スポーツの人材管理、インフルエンサー形式のマッチメイキング、そして場合によってはコンテンツ制作までを組み合わせて、新しい種類のエージェンシービジネスが形成されてきた。
「当社はフィールドとコートにおいてすべての物事を処理する」と、スポーツ管理エージェンシーのクラッチスポーツグループ(Klutch Sports Group)のマーケティング責任者を務めるエリック・エウェイズ氏は述べる。
同社はフィラデルフィア・セブンティシクサーズ(Philadelphia 76ers)のポイントガードのタイリース・マクシー氏や、USCトロージャンズ(USC Trojans)の学生プレイヤーのジュジュ・ワトキンス氏など、60人を超えるNBA(ナショナルバスケットボールアソシエーション)やWNBA(ウィメンズナショナルバスケットボールアソシエーション)の選手と協力している。
従来型のスポーツエージェントサービスに加えて、このエージェンシーはブランドの取引を管理し、6人のコンテンツ制作チームを抱えている。このモデルは、アスリートと広告主のあらゆるニーズに対応できると、エウェイズ氏は述べている。
クラッチと同様に、ステータスクリエイティブ(Status Creative)、テントーズ(Ten Toes)、ビーエンゲージド(B-Engaged)などのショップもまた、タレント事務所、インフルエンサーエージェンシー、そしてコンテンツスタジオのビジネスモデルの要素を組み合わせている。
進化するスポーツエージェンシーの新たな役割
これらのショップは、スポーツマーケティング内で生じた段階的な変化により、スポーツ選手とブランドのパトロンとのあいだの関係が、インフルエンサーと広告主との関係と次第に似てきたのと並行して出現したものだ。スポンサーシップの契約は次第に短くなり、無期限のアンバサダーシップと想定されるものから、一時的なキャンペーンに近くなってきた。
また、テレビや広告のタレントとしてよりも、インスタグラムやTikTokでのアスリートのけん引力に焦点があてられるようになってきた。エージェンシーで毎年扱う「数百の」ブランド契約のうち、主要なソーシャルコンポーネントを含まないキャンペーンは「数十程度」だと、エウェイズ氏は推定している。
広告代理店のハバスプレイ・ユーケイ(Havas Play UK)でタレントインフルエンサーの責任者を務めるソフィー・バーマン氏によると、これらの企業は広告主の要求を満たすとともに、特定のアスリートに関連付けられたソーシャルコンテンツの品質が「極めて本物らしく感じられ」、十分に高い標準に従っていることを保証するような「新しいタイプのエージェンシー」だという。
たとえば、エージェンシーのビーエンゲージドはアーセナル(Arsenal)のカイ・ハフェルツ氏、マンチェスターユナイテッド(Manchester United)のメイソン・マウント氏など21人のボクサー、フットボール選手およびサッカー選手を名簿に載せている。創設者のエーセン・シャー氏によると、同社はアスリートとブランドとのあいだでタレントの代理人業務と関係の調整を行っているという。
広告主やそのクリエイティブエージェンシーは主に、目的のキャンペーンにアスリートを含めると決定してからアプローチを行う。たとえば、ビーエンゲージドは英国のエージェンシーのレッドコンサルタンシー(Red Consultancy)およびオグルビー(Ogilvy)と協力してきたとシャー氏は述べている一方で、ハバスプレイ(Havas Play)は過去にステータス(Status)と協力していたとバーマン氏は述べている。
クラッチのようなエージェンシーは、第1に自社のプレイヤークライアントの代理人だが、チームアップは広告主とアスリートの両方に向いている必要があると、エウェイズ氏は語る。クライアントのジュジュ・ワトキンス氏の場合、「学生アスリートとしての姿が第1」で、有名人としての姿が第2という方針から、エージェンシーはコートにおける同氏の優先順位に留意する必要がある。
しかし、それでもブランドの優先順位と同氏の公的なキャラクターを「結びつける」リレーションシップを促進できている。たとえば、スポーツ用品大手のナイキ(Nike)のスポンサーシップは最近になって衣類の寄贈や、同氏の家族によってロサンゼルスで運営されている女性向けシェルターにも拡大された。
クラッチやビーエンゲージドなどのエージェンシーは依然として、アスリートクライアントからのリテーナーフィーと、新しい契約から得られる手数料の支払いを受けているが、ブランドとアスリートとのギャップを埋めつつある。プレイヤーには一般に、ブランドの契約に必要なレベルでTikTokやインスタグラムにプレゼンスを維持し、管理する時間がなく、タレントエージェンシーにその作業を任せれば、個人のマーケティングチームのニーズを切り捨ててしまう恐れがある。
「アスリートはコンテンツマシンだが、ほとんどのアスリートはその作業を自分自身で行ってはいない」と、調査助言会社ガートナー(Gartner)のガートナーフォーマーケターズ(Gartner for Marketers)部門のバイスプレジデントとアナリストを務めるクリス・ロス氏は語る。同時に、エージェンシーがクライアントのキャリアについてプレイヤー側の仲介者として関与することで、アスリートとチームとのあいだの摩擦を軽減できる。
スポーツエージェントは従来から、アスリートの代理人としてチームやスポンサーとの交渉を行ってきたが、ほとんどはブランドのソーシャルメディア契約は扱っていない。
「サッカーのエージェント、特に移籍や給与の一定割合から多くの報酬を得るものは、インバウンドのスポンサーシップ要求を管理するが、積極的なアウトリーチのため労力を注ぎ込むことには、得られる相対的な見返りを考慮すると、価値を見いだしていない」と、スポーツマーケティングエージェンシーのストライプスポンサーシップ(Strive Sponsorship)のマネージングディレクターを務めるマルフ・ミンズ氏はメールで語った。
NIL判決と女子スポーツへの投資拡大
今日のプレイヤーは、興味を持ったブランドとかかわらないことで得られなくなる収入のことを以前より気にかけていると、シャー氏は述べる。「プレイヤーたちは、過去の世代が行っていたのとは異なることを要求している。過去の世代は、サッカーの試合に出てお金が得られるなら、ほかのことについては与えられた条件に喜んで従っていた」と、同氏は述べている。
このような理由から、クラッチやビーエンゲージドのようなハイブリッドのエージェンシーが誕生した。一部の従来型エージェントがこのようなビジネスに参入したがらないことから、新しいエージェンシーが展開できるような空白が存在していると、シャー氏は述べる。あるサッカーエージェントが「ソーシャルメディアは消えてゆき、プレイヤーがフットボールだけをしていればいいという時代は終わるだろう」と述べたことがあると、同氏は回想する。
視聴者のWSL(ウィメンズスーパーリーグ)とWNBAへの関心が高まりつつあることから(WNBAの試合は今シーズンに平均130万人がTVで視聴し、これは昨年の3倍に相当する)、女性スポーツに広告主の資金が集まりつつある。
「爆発的な人気だ」と、エウェイズ氏は述べる。クラッチは近年この分野に投資して、女子バスケットボールの責任者としてエージェントのジェイド・リー・イングリッシュ氏を雇用し、さらに多くのWNBAプレイヤーをクライアントとして呼び込んだと、同氏は述べている。
「正しいことだと考えたから関与するというだけではない。ビジネスとしても優れている」と、同氏は述べている。
一部のエージェンシーはこの分野に特化して利益を得ている。たとえば、エーアンドブイスポーツ(A&V Sports)は女子サッカープレイヤーのみに特化している。「当社はおそらく、女性のみに特化し、専門の商業部門がある唯一のエージェンシーだろう」と、同エージェンシーのスポンサーシップ責任を務めるアンドリュー・アービング氏は語る。
エーアンドブイは、名簿に記載されているアスリートについて可能性があるブランドの契約を追い求めるとともに、アスリートとクラブやチームとの関係を管理している。クラッチのようなエージェンシーよりは規模が小さいビジネスなので、まだコンテンツの制作は扱っていない。
しかし、これは今後変化するかもしれない。同社は現在コンテンツ制作作業の多くを制作エージェンシーに外注しているが、将来的には自社独自の制作能力に投資することを検討すると、アービング氏は述べている。
米国では、最高裁が2021年に下したNIL(名前、画像、肖像)の権利に関する判決により「この分野の構図の大幅な変化が引き起こされた」と、ガートナーのロス氏は語る。これにより、ソーシャルに明るい何千人もの学生アスリートがブランドとの契約によって収入を増やす道が拓かれた。
「何万人ものアスリートが突然、自分自身の代理人としてスポンサーとやり取りできるようになった」と、ロス氏は説明している。
ことしのオリンピックで、各ブランドは自社のクリエイター名簿に新しい大勢の選手を加えることになるかもしれない。たとえばエーアンドブイのクライアントのうち12人は、オリンピックの終わりまでに競技に出場する。
米国外で、女子アスリートに投資される金額は依然として、男子プレイヤーよりも少ない。エーアンドブイの100人の名簿にはノルウェーのバロンドール(Ballon d’Or、サッカーのノーベル賞とも目される賞)受賞者であるアーダ・ヘーゲルベルグ氏や、過去の同賞の受賞者も含まれているが、もっとも求められている同エージェンシー所属のプレイヤーは毎年5つか6つのブランド契約を獲得しているのではないかと、アービング氏は推定している。
しかし、女子スポーツが成長するにつれ、契約の規模と数量は増大するとアービング氏は予測する。「今後は増加の一途となる」と、同氏は述べている。
[原文:As athletes embrace influencer work, ‘a new breed of agency’ emerges]
Sam Bradley(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:坂本凪沙)