テスラやSpaceXのCEOを務めるイーロン・マスク氏は2022年10月に、「言論の自由を守る」と訴えてTwitter(現X)を買収しました。記事作成時点では、Xへの投稿で政治的な発言を繰り返している印象が強いマスク氏ですが、日刊経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが発表したマスク氏のXへの投稿を分析したレポートでは、かつて「政治的な言及を避ける起業家」だったマスク氏が「声高なトランプ支持者」に変化していく様が見て取れます。

Elon Musk’s Hard Turn to Politics, in 300,000 of His Own Words - WSJ

https://www.wsj.com/tech/elon-musk-politics-trump-social-media-267d34c8



How the Journal Analyzed Elon Musk’s Posts on X - WSJ

https://www.wsj.com/tech/elon-musk-politics-analysis-06a5b9e4

マスク氏は2024年7月、2024年大統領選挙に立候補した共和党のドナルド・トランプ氏が狙撃される事件の後、「私はトランプ大統領を全面的に支持します」とXで表明しました。この投稿は記事作成時点で2.1億回以上も閲覧されており、「いいね」の数は237万件に達しています。



記事作成時点のマスク氏は、トランプ氏の最も影響力のある支持者の1人といえます。しかしウォール・ストリート・ジャーナルは、マスク氏は最初からSNS上で熱心に政治的主張を展開していたわけではなく、時間の経過と共に政治的主張が増えていったと指摘。実際に、マスク氏が2019年から2024年7月末までにTwitter時代も含むXに投稿した、合計で約4万2000件のメッセージやリプライを分析したレポートを公開しました。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、マスク氏は2024年1月〜7月までに約1万3000件もの投稿を行っており、これは2023年1月〜12月の全投稿とほぼ同じ数です。2019年には1日あたりの投稿数が約9件でしたが、2024年には1日あたり約61件となっており、マスク氏がXに費やす時間と労力が飛躍的に多くなっていることがうかがえます。また、マスク氏が過去5年間に行ったすべての投稿は合計で約150万語に達し、これは欽定訳聖書の約2倍もの語数に相当するとのこと。

ウォール・ストリート・ジャーナルがGoogleのAIツールを使用し、マスク氏の投稿をマッピングした図が以下。上側の赤い点が「ジョー・バイデン氏やトランプ氏に関する投稿」で、左下に固まっている青い点が「SpaceXに関する投稿」、中央付近の緑色の点が「テスラに関する投稿」です。



2019年の投稿だけをマッピングすると、投稿のほとんどがテスラやSpaceXに関するものであり、政治的な投稿はほとんどないことがわかります。



ところが、2024年の投稿は上側に偏っており、マスク氏の投稿するトピックが政治的なものにシフトしていることがうかがえます。2024年のマスク氏は2019年と比較して、政治的な用語を含む月間投稿数が約230倍に達しているとのこと。ビジネス用語を含む投稿も2倍以上になりましたが、投稿全体に占める割合は減少しているとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘しています。



2019年の時点でマスク氏は「私は穏健派を公言しています」と述べていましたが、その姿勢が変わるきっかけとしてウォール・ストリート・ジャーナルは「2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック」を挙げています。マスク氏はアメリカの各州が都市封鎖を検討していた2020年3月、「コロナウイルスのパニックはバカげている」と投稿し、100万件以上の「いいね」を獲得しました。これはマスク氏にとって、初めて100万件以上の「いいね」を獲得した投稿だったとのこと。



その後の投稿でマスク氏は政府による都市封鎖を批判し、テスラ工場の稼働再開を巡って地方当局と議論を交わしました。この頃からマスク氏は、「選挙で選ばれていない役人」への不満を漏らすようになり、次第に投稿の政治的なトーンが強まっていきました。2021年になると、マスク氏は「政府がテスラを不当に扱っている」としてジョー・バイデン大統領や他の民主党員と繰り返し衝突し、民主党への批判的な論調が目立つようになります。

ウォール・ストリート・ジャーナルは、2022年以降のマスク氏が頻繁に言及した以下の主要トピックとして「言論の自由とニュースメディア」「ウクライナ」「ジェンダーと人種」「移民」「トランプ氏とバイデン氏」の5点をピックアップし、それぞれのトピックについて以下のように分析しています。

◆言論の自由とニュースメディア

2022年のマスク氏による投稿のうち、250件以上が「言論の自由」「偽情報」「メディア」といったフレーズに言及したものでした。マスク氏は当時のTwitterが「強い左翼バイアス」を持っていると非難し、言論の自由を掲げてTwitterの買収を表明。10月に買収を完了し、当時のTwitterの状況に不満を持っていたユーザーから称賛の声が上がりました。「Twitter」の名前を含む投稿は2022年だけで約900件に達し、これは同時期にあった「テスラ(Tesla)」を含む投稿の約2倍です。特に買収直後の11月は、投稿の約36%がTwitterに言及したものだったそうです。

なお、マスク氏は2022年5月の投稿で、「過去の私は民主党へ投票しました。なぜなら、民主党は(主に)優しさの党だったからです。しかし、彼らは分裂と憎悪の政党になってしまったので、私はもはや彼らを支持することはできないので、これからは共和党に投票するつもりです。さあ、私に対する彼らの汚い手口のキャンペーンが展開されるのを見てください」と述べ、民主党との意見の相違を明確にしました。



◆ウクライナ

マスク氏は2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻など、国際情勢についてもより多くの意見を表明するようになりました。マスク氏は早い段階でウクライナへの支持を表明し、衛星インターネットのStarlinkをウクライナで使用可能にするといった支援を行いました。しかし、戦争が長期化した10月には、選挙結果に応じてクリミアをロシアに割譲するという提案を含むアンケートを実施してウクライナからの激怒を買っています。

イーロン・マスクがロシア・ウクライナ戦争についてTwitterでアンケートを実施しウクライナ大使が激怒 - GIGAZINE



by Steve Jurvetson

2023年には、インドのナレンドラ・モディ首相やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相といった外国の指導者に対し、少なくとも18回のリプライ・リポスト・引用リポストを行ったとのこと。マスク氏は一般ユーザーのアカウントよりも政治評論に焦点を当てたアカウントとやり取りすることが多く、中でもリベラルに批判的な「@EndWokeness」というアカウントとは470回以上もやり取りしたそうです。

また、マスク氏はリベラル批判としての「Woke」という言葉を400回以上使っており、2024年3月の投稿では「これは反文明的な『Wokeマインドウイルス』との死闘です。私の立場は中道的です。『国境の安全確保』『安全で清潔な都市』『支出でアメリカを破産させない』『いかなる人種差別も間違っている』『同意年齢未満の不妊手術は禁止』といった主張は右翼になるのですか?」と述べました。



◆ジェンダーと人種

マスク氏はジェンダーや多様性についても積極的に言及していますが、その理由のひとつにマスク氏の子どもの1人がトランスジェンダーであり、2022年に女性への性転換を申請したことがあると指摘されています。マスク氏は2024年7月に配信されたインタビューで、医療関係者から思春期抑制剤を子どもに投与する同意を求められた際、「何が起こっているか理解する前に、本質的にだまされて書類に署名しました。あの時はとても混乱していました。署名しないと子どもが自殺するかもしれないと言われたのです」と語っています。

また、マスク氏は「多様性・公平性・包括性(DEI)」について批判的な投稿も行っており、2023年12月には「DEIは死ななくてはなりません。重要なのは差別を終わらせることであり、別の差別に置き換えることではありません」と投稿しています。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、2023年以降の投稿のうち1400件以上に「DEI」「人種差別主義者」「トランス」「ジェンダー」あるいは人種・ジェンダー・セクシュアリティに関する同様の言葉が含まれていたとのことです。



◆移民

マスク氏は移民に対しても否定的な見解を示しており、2024年2月には「バイデン氏の戦略は非常にシンプルです。『1:国内にできるだけ多くの不法滞在者を確保する』『2:彼らに法的権利を与えて、恒久的な多数派を形成し、一党独裁国家を創設する』というものです。だからこそ、民主党は多くの不法移民を奨励しているのです。シンプルながら効果的です」と投稿しました。



◆トランプ氏とバイデン氏

2024年になると、2024年アメリカ大統領選挙に関連したトランプ氏とバイデン氏への言及が増え、トランプ氏が狙撃された後は明確にトランプ氏を支持する姿勢を打ち出しました。ウォール・ストリート・ジャーナルは「マスク氏がトランプ氏の支援団体に月4500万ドル(約65億円)の献金をする予定」と報じ、マスク氏はこれを否定しつつも献金自体は認めています。

イーロン・マスク氏が「トランプ氏の支援団体に月4500万ドルの献金をする予定」という報道を否定するも献金自体は認める - GIGAZINE