風邪を引いた際に熱が出ることの具体的な利点とは?薬で熱を下げるのは良いことなのか?
風邪を引いたときなどに発熱した場合、全身熱くなって苦しい思いをするため、冷やしたり薬を飲んだりして熱を冷まそうとしますが、一方で熱を出すことで風邪に対抗しているため熱を無理に下げるのは避けるべきという意見もあります。具体的に発熱はどのように作用しているかについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtがアニメーションで解説しています。
Fever Feels Horrible, but is Actually Awesome! - YouTube
人間は気温や水温など周囲の温度に左右されずに体温をある程度一定に保つことができる恒温動物であり、セ氏約37度を保つために多量のエネルギーを消費しています。
一方、外部温度により体温が変化する変温動物は、体温を保つためのエネルギー消費はありませんが、低温度を好む細菌の影響を受けます。先行研究によると、エネルギー消費と菌の増殖抑制をてんびんにかけて最もバランスの取れた体温は36.7度だとのこと。動物の体温は1度上がるごとに病原体になる菌の数が減り、変温動物が感染する菌の種類は数万に上りますが、恒温動物だと数百種に激減します。
温かいのには理由がある、「最も経済的な体温」は36.7度と判明 - GIGAZINE
変温動物が病気にかかると、魚は暖かい海で泳いだり、トカゲは太陽の光を浴びたりと、暖かい環境に行くことで体温を上げようとします。
一方、恒温動物には、細菌やウイルスが体内に入り込むと体温を上げて進行速度を低下させるという仕組みが、少なくとも6億年前から備わっていることがわかっています。人間の場合、大腸菌などののグラム陰性菌から生成される内毒素(エンドトキシン)などに代表される、発熱物質(パイロジェン)が機能します。
発熱物質は脳に届けられ、体内の体温調節機能を作動させます。発熱した際に震えが生じるのは体温調節機能の一環で、骨格筋が非常に急速に収縮して、体幹に大量の熱を発生させる反応です。
同時に、多くの場合は体の表面近くの血管が収縮して、皮膚から熱が逃げるのを防ぎます。「熱が出たのに寒さを感じる」というケースもありますが、これは皮膚から熱が逃げないようにしたことで、内側は熱くなる一方、肌の表面は冷えてしまうためです。
恒温動物は体温を保つために多くのエネルギーを消費させていますが、ウイルスや細菌に対抗して発熱をする場合には、さらに約10%多くのカロリーを消費するとされています。熱を出すと体全体がだるくなるのはそのためで、Kurzgesagtは「発熱は、免疫システムが戦う時間を確保するために、エネルギーを節約して横になって休むようにという強い命令でもあります」と述べています。
熱は自分自身の細胞にもストレスを与えるため、頭痛や関節痛といった症状が出ますが、細菌のDNAを損傷させたり、タンパク質の生産を減少させたりする効果があります。また、体内の免疫システムは熱の影響を受けることがないため、細菌が求める栄養を先に吸収することで、細胞の寿命を縮めるとのこと。
また、異なる種類の免疫反応でも、熱が重要な意味を持っています。例えば風邪の代表的な原因として知られるライノウイルスは、人体の中で温度が低い気道にのみ感染します。細胞に感染した後、ウイルスを生成するために熱心に活動することで細胞にストレスを与えた結果、細胞は熱ショックタンパク質を生成します。
健康な細胞でも熱ショックタンパク質は生成しますが、ウイルスに感染しているとその量が異常になるため、ナチュラルキラー細胞とキラーT細胞が感染した細胞を特定し、細胞ごとウイルスを破壊します。発熱によってウイルスから細胞を守ろうとする免疫反応とは異なり、発熱によって細胞を破壊してもらおうというわけです。
発熱はウイルスや細菌に対して強い効果を発揮しますが、何億年も同じ機能が働いているにもかかわらず、ウイルスや細菌はそれに適応していません。Kurzgesagtはその理由として、「人間の体温変化が敵の進化を上回っている可能性があります」と推測を述べています。発熱に適応して進化する場合、セ氏38度〜40度に適したウイルスや細菌に進化します。しかし、それにより発熱した人の体でも生きられるようになっても、次の感染者を目指した場合に、セ氏35度〜37度という健康的な体温が、進化したウイルスや細菌には寒すぎる環境となります。
一方で、発熱による免疫反応を回避するウイルスもあります。はしかを引き起こす麻しんウイルスは、「ひき逃げ戦術」を使用します。これは、ウイルスの複製速度を上げることで、本格的な発熱の前に最も感染力が高い状況を引き起こし、熱によってウイルスが全滅したころにはすでに攻撃を終えているという戦術です。
発熱時に解熱剤を飲んだり氷枕で頭を冷やしたりして熱を下げようとする人は多いはずですが、前述の通り、発熱は体がウイルスに対抗するために行っているものであり、40度未満の発熱は危険ではないとのこと。日本の感染症法では、37.5℃以上を「発熱」、38.0℃以上を「高熱」と定義しているため、38度を超えると解熱剤の使用を推奨しているケースが多くあります。また、インフルエンザなど一部の病気では、解熱剤が治癒を早めないと証拠を示している研究もあります。ただし、妊婦や高齢者、体の弱い人は発熱や熱によるストレスに弱い可能性があるため、状況や体質に合わせて対応することが重要です。
しかし、高熱の患者に対して解熱剤を投与すべきなのか、それとも薬品による治療を避けるべきなのかは、倫理的問題もあって、深い研究ができていない部分があるそうです。たとえば、解熱剤を投与すると死亡率が増加するというデータがあるほか、熱を下げることが健康状態の改善につながるという臨床的な証拠は見つかっていないことから、熱を無理に下げることは好ましくないと考えることができます。一方で、高熱には脳卒中や神経損傷といった重大なリスクもあり、解熱治療が必要かどうかを見分ける方法などについて、さらなる研究が必要だとのことです。