世界中を熱狂の渦に巻き込んだパリオリンピックが閉幕。日本は海外開催の大会では史上最多のメダル数を獲得し、多くの感動が生まれることとなった。

【映像】「ほぼほぼ誹謗中傷だった」トリノ五輪後に届いた段ボールに敷き詰められた手紙を明かす安藤美姫

 ネットにも、日の丸を背負った選手たちにたくさんのねぎらいの言葉が並んだ。しかし、選手に投げかけられたのは、あたたかい言葉だけではなかった。18日、国際オリンピック委員会のアスリート委員会が、今回、選手や関係者に対する誹謗中傷が8500件にも昇ったと発表。「あらゆる形の攻撃や嫌がらせを最も強い言葉で非難する」との声明を出した。

 また、3度のオリンピックを経験した元陸上選手で「Deportare Partners」代表の為末大氏が案じたのは大会後のメディア出演について。

 「(五輪後、数カ月の間に)『消費される側』になるか『メディアを活用する側』になるかが分かれます。盛り上げられ、おだてられ、飽きられる。これが消費される典型のパターンです」(為末氏のXから) 

 国を代表するオリンピアンに向けられた“誹謗中傷”と、アスリートの“その後の人生”について『ABEMA Prime』で考えた。

■誹謗中傷と批判「寄り添いながらの言葉だったら、ネガティブでも受け止められる」

 6月、SNS上の法律やガイドライン違反の投稿をリアルタイムでAIが検知し、自動的に削除する仕組みを構築したが、誹謗中傷は止まらなかった。アティーレ法律事務所の長井健一弁護士によると、「誹謗中傷」は根拠のない悪口、人格を非難・侮辱、「批判」は、根拠のある指摘、異なる考え方だという。

 為末氏は「傷つくかどうかと誹謗中傷のラインはセットではない気がする」といい、「やっぱり量の問題だ。“私はあの人嫌い”は、誹謗中傷には多分ならないと思う。2件ならいいけど、500件来たらやっぱりくる。誹謗中傷というラインで引けるのかは、ちょっと疑問がある。プラットホーム側の責任もあるだろうし、色々やらないといけない。それでも限界はあるから、スポーツ界は本気でここの対策をしないと選手がかわいそうだ」と問題視した。

 応援しているからこそミスへの厳しい批判をしたくなったり、勝負事なので結果に文句や不満が出るのは普通、などの声が上がっている。プロスケーター・元フィギュア世界女王の安藤美姫氏は「例えば、いいところも書いてくれるとか。“こういう思いでやっていたのだと思うけれども、僕は私はこれだけ応援してきたからこそ、一緒に悔しい思いが込み上げてくる”とか。寄り添いながらの言葉だったら、ネガティブに言われても受け止められる」と提案。

 さらに「選手もミスしたくて、ミスしていない。ロボットではないところは、分かってほしい。同じ人間だけど、ベストを尽くすのは当たり前でやってきて、何が起こるか分からないところで感動を生んだりとか、思わぬ失敗に繋がってしまう。そこを同じ一人の人間として受け止めてくれると、心ない言葉だけで終わらないのかなと思う」と付け加えた。

■パリ五輪での誹謗中傷

 パリ五輪での誹謗中傷には、柔道で負けて泣いた選手に対して「自己中心的で、注目されてりゃ機嫌いい。厄介な人」、競歩を辞退した選手に対して「贅沢。身勝手でしょ」「辞退してこの結果とは笑える。帰ってくるな。」、バスケ男子の審判を務めた女性に対して「誤審で日本が敗北。性能が劣るやつは審判するな」などが見られた。

 誹謗中傷の問題について、アスリートにはどのようなケアを行っているのか。スポーツ心理学博士の布施努氏は「ケアという面では、レジリエンスという考え方がある。たった一人でも自分のことを応援してくれる人がいるのが分かるといい。そうするとコーチの方や監督の方たちとのリレーションシップが非常に大事になってくる」と説明。

 一人の応援の声だけに耳を傾けるのは難しいのではないか。布施氏は、競歩の選手を引き合いに「個人の判断ではなく、コーチ、協会、連盟などの判断で最後は棄権することになった。つまり自分でコントロールできないところで言われてしまうと、相当厳しい状況になってしまうとは思う」と答えた。

 為末氏は「競歩は、辞退して補欠の人がかわいそうじゃないかと言うけど、その時は彼女しか権利を持っていなかった。事前の情報は分からないけど、おそらくこうなんじゃないかというものが9割以上。それは違うから説明したいと思っても、(批判の)量が呼び水になるので、分かってもらえないんだなと距離をとる。だんだんみんな押し黙っていくのが現状だ」との見方を示した。

 そもそも、選手にはSNSを見ないことを推奨しているのか。布施氏は「見たらこういうことが起きるということを、オリンピックに行く前から考えるトレーニングや、リスクマネジメントはやっている」と述べた。

■アスリートのメディアへの向き合い方

 為末氏は「(パリオリンピックが終わった)今がアスリートの人生に影響を与える期間」との考えで、アスリートがメディアに出演する場合、メディアに消費される側、メディアを活用する側があるという。「テレビはパワーがすごい。空気もすごいから、よく分からないまま行って、なんとなく面白いことを期待されていると思うと、素直な選手ほど『面白くしなきゃ』みたいになる。それが、だんだん巻き込まれて漂い始めちゃうとまずい。初めて人気になった競技の選手は翻弄されることがあるから、何とかしてあげたい」と訴える。

 メディアに消費されることによって、何のリスクが大きいのか。為末氏は「選手は応援している人たちに恩返しして生きていくが、数百万人に受ける振舞いと、数千人に受ける振舞いは全然違う。数千人と向き合っていたのに、急に数百万人の前で振舞ったら、『えっ、なんかそんな感じ?』みたいになる。マスメディアにはその魔力がある。今までとは全然違う世界で、それがうまくはまって人気になる人もいるけど、自分がどこから来て、どこに帰っていく人かが分からなくなっていくのが一番だろう」と答えた。

 アスリートとメディアとの関係については「上手にやっていったらいいと思う。ゆっくり来てくれたらいいが、ドーンと一気に来た時、足元からさらわれていっちゃうかもしれない。それも含めて練習してきなさい、ということかもしれない」とした。

(『ABEMA Prime』より)