感染症による「バナナのアポカリプス」を防ぐ手がかりを科学者が発見
バナナは世界中で愛されている果物のひとつですが、近年主流となっている品種はバナナパナマ病(フザリウムバナナ萎凋(いちょう)病)という壊滅的な感染症の脅威にさらされています。新たにマサチューセッツ大学アマースト校などの研究チームが、バナナパナマ病を引き起こす真菌病原体・Fusarium oxysporumの遺伝子を分析し、感染を抑制する手がかりを発見したと報告しました。
https://www.nature.com/articles/s41564-024-01779-7
The Banana Apocalypse is Near, but UMass Amherst Biologists Might Have Found a Key to Their Survival : UMass Amherst
https://www.umass.edu/news/article/banana-apocalypse-near-umass-amherst-biologists-might-have-found-key-their-survival
Banana apocalypse, part 2 - a genomicist explains the tricky genetics of the fungus devastating bananas worldwide
https://theconversation.com/banana-apocalypse-part-2-a-genomicist-explains-the-tricky-genetics-of-the-fungus-devastating-bananas-worldwide-236770
'Banana apocalypse' could be averted thanks to genetic breakthrough | Live Science
https://www.livescience.com/health/food-diet/banana-apocalypse-could-be-averted-thanks-to-genetic-breakthrough
記事作成時点で食べられているバナナのほとんどは、数世代前の人々が食べていたものとは異なる品種です。1950年代まで主に栽培されていたグロス・ミチェルという品種は、Fusarium oxysporumが引き起こすバナナパナマ病によって壊滅的な打撃を受けたため、一部の地域を除いてほとんど栽培されなくなってしまったとのこと。
Fusarium oxysporumは植物内で液体の運搬を担う維管束に異変を生じさせて水や栄養分の輸送を遮断する萎凋病を引き起こす病原菌であり、120種以上の植物に感染するほか、特定の株は人間に感染することもわかっています。Fusarium oxysporumの萎凋病は作物に現れる病変に応じて名称が付けられており、バナナで発生するものがバナナパナマ病と呼ばれています。
農家らは1950年代に発生したバナナパナマ病の流行に対処するため、Fusarium oxysporumに耐性を持つキャベンディッシュという別の品種を広めることを決定しました。これにより、1960年代以降はキャベンディッシュがバナナ栽培の主流となりました。
ところが、1990年代に入るとグロス・ミチェルを壊滅させた株とは異なるFusarium oxysporumの株が流行し、キャベンディッシュへの感染も広まっており、再び世界のバナナ産業は脅威にさらされています。
マサチューセッツ大学アマースト校の生化学・分子生物学の教授であるリー・ジュン・マー氏は、「私たちは過去10年以上にわたり、バナナパナマ病の新たなアウトブレイクを研究してきました」と述べています。
2010年の研究では、Fusarium oxysporumのゲノムはすべての系統で共有されており基本的な機能をコードする「コアゲノム」と、特定の植物宿主に感染する特殊な機能をコードする「アクセサリーゲノム」の2つの部分に分けられることが判明しました。Fusarium oxysporumはアクセサリーゲノムを適応させることにより、さまざまな植物への感染能力を獲得しているというわけです。
新たに発表された研究では、キャベンディッシュに感染する能力を持つFusarium oxysporumの株「tropical race 4(TR4)」は、グロス・ミチェルを壊滅させた株と進化の起源やアクセサリーゲノムが異なることがわかりました。
TR4のアクセサリーゲノムを調査すると、遺伝子の一部がキャベンディッシュにとって有毒なガスである一酸化窒素を放出することが判明。これによってキャベンディッシュへの感染を成功させると共に、TR4自身は一酸化窒素を解毒する化学物質の産生を増やして自らを保護しているとのことです。
今回の研究結果により、一酸化窒素の毒性を軽減する方法を設計するというアプローチが、キャベンディッシュを守るために有効かもしれないことが示唆されました。また、さまざまな品種のバナナを栽培することでより持続可能なバナナ産業を作ったり、TR4に耐性のあるバナナの品種を特定・開発したりすることも有効です。
マー氏は、消費者も普段とは異なるバナナの品種を購入してみたり、他の果物や農産物を購入したりすることで、バナナや作物の多様性を維持する手助けができると主張。「世界中の科学者・農家・産業界・消費者が協力することで、将来のバナナやその他の作物の不足を回避することができます」と述べました。