大波乱後の日経平均は9月以降最高値をとれるか
退陣を表明した岸田首相。外国人投資家は今後、日本株を買ってくるだろうか(写真:ブルームバーグ)
直近の相場から振り返ってみよう。8月16日の日経平均株価は、今年2番目である1336円の上げ幅を記録した。結局、5連騰となって3万8062円で引けた。
5日間合計の上げ幅は3231円で、強い上値抵抗線のように機能すると思われた200日移動平均線も一気に超えてきた。確かに同線とマイナス乖離をしていたのは9日間だけだったこともあるが、抵抗が意外に少なかったのは、長期投資家が1日としては1987年のブラックマンデー翌日を上回った今回の激しい下げを「意に介さず」で対処したことを表している。
「余裕筋に安いところを拾われた」今回の大波乱相場
東京証券取引所の発表によると、8月5日から9日までの5日間で東京と名古屋の証券取引所で売買された株式は、金額ベースで約79兆6450億円となった。これは従来の記録(日経平均が初めて4万円を超えた今年3月4日の週)を12兆円あまり上回り、比較可能な1996年以降で最も多くなった。やはり5営業日の売買高も158億3270万株と最高で、おそらく当分破られない記録だろう。短期投資家にとっては「史上最大の激しい攻防戦」だったことを物語っている。
確かに8月5日の日経平均4451円安は、約5兆円の信用買い残を持つ個人投資家を追い詰めることになった。だが、日経平均のEPS(予想1株当たり利益)は過去最高を維持しており、一時は1ドル=141円台まで進んだドル円相場も、日本銀行の2回の利上げとアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の2回の利下げをほぼ織り込んだ。
しかし、このときの主体別売買動向を見ると、対内証券売買契約(財務省ベース、外国人)は5219億円の買い越し、東証ベースで見ても4953億円の買い越しとなったように、外国人投資家は先物で1兆2725億円を売り越した反面、現物ではしっかり買っている。また、事業法人も5060億円の買い越しと、2015年12月以来の高水準だった。株価が急落した局面で、多くの企業が自己株買いを実施したとみられる。
結局、「余裕筋に安いところを拾われた」というのが今回の大波乱相場だったことになる。
再び円キャリートレードが活発になる?
冒頭でも記したとおり、しばらく底値固めかと思われた日経平均はV字回復となって、7月11日の史上最高値4万2224円から8月5日の3万1458円までの下げ幅の61.34%を取り戻した。「半値戻しは全値戻し」の格言にあるように、今後の展開には明るさも見えてきた。しかし、このまま上昇し、再び史上最高値をとるのか、波乱があるのか、投資家の悩みは尽きない。
ここで問題になるのが、いわゆる円キャリートレードの存在だ。昨年10月からの日経平均1万円高と、その後の1万円安に大きな役割を果たしたのが、円キャリートレードの積み上がりとその巻き戻しであることは周知の事実になっているが、いまだに悩ましい状態は変わっていない。
8月16日現在、日本の10年債利回り0.87%、アメリカの10年債利回り3.9%、さらに東証プライム市場の平均配当利回りは2.38%だ。これらを考えると、日本株に先高観が見えると再び円キャリートレードが積み上がることになりそうだ。
折しも、8月15日に発表された日本の4〜6月期GDP速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比+0.8%、年率換算で+3.1%と、エコノミスト予想の年率+2.3%を大きく上回り2四半期ぶりのプラス成長となった。
名目GDPも前期比+1.8%、年率換算で+7.4%と2四半期ぶりのプラスで、年換算では607兆円と、初めて600兆円に乗せた。また、GDPの半分以上を占める個人消費も実質で前期比+1.0%、名目で+1.5%と5四半期ぶりのプラス。消費に次ぐ民需の柱である設備投資も実質で前期比+0.9%、名目で+1.9%と2四半期ぶりにプラスだった。
さらに7〜9月期も、賃上げの広がりや6月に開始された定額減税による効果で消費の拡大が見込まれ、エコノミスト予想ではプラス成長が続くとの見方が多くなっている。
もちろん、こうした直近の統計は、目先で大きく落ち込んでいた反動にすぎないと見ることもできる。だが、外国人投資家は意外に単純に評価するため、日本株に先高観が復活する可能性もある。
前回の記事「日本株の『長期上昇インフレ相場』は終わらない」(8月5日配信)では、大波乱の中、「2023年大発会から始まったデフレ脱却相場は、少なくとも2024年と2025年の3年間にわたる上昇相場という私の基本観はまったく変わっていない」とした。しかもそれは2025年までの3年で終わるという意味ではなく、「インフレ相場が始まれば2026年も、場合によっては2027年も続くと考えている」と言明したが、この考えは微動だにしない。
日銀は「連続利上げ」はできない
8月14日に岸田文雄首相が退陣表明をしてから混沌としている自民党総裁選挙は、いよいよ今週から本格化する。早ければ19日にも先頭を切って、20人の支援者を集めたという小林鷹之氏(前経済安全保障担当大臣)の出馬宣言があるようだ。
私は「政府に忖度する植田日銀」は、景気指標を見ながら慎重に利上げをしていくと思っている。アメリカの金融当局が9月以降連続で利下げをするのは確定的ながら、一方の日本は政局とぶつかるこのタイミングで9月の利上げは難しいだろう。実際、16日の時点ではドル円相場も1ドル=147円台に戻っている。
アメリカ(共和党・民主党)や英国(保守党・労働党)など海外の政局と違い、日本の政権交代は、何度か例外はあるが、今回もいわば自民党内部の事象にすぎない。岸田首相はデフレ脱却宣言を出す前に退陣となりそうだが、新政権は初動の段階で、国会解散とともにデフレ脱却宣言を出す可能性もある。誰に決まっても新政権へのご祝儀相場の可能性も出てきた日本株を、外国人投資家はスルーできないと思っている。
もちろん、1990年や1996年など、過去重要な局面で何度か犯して来た政府・日銀の「大失策」が今回起きないとは断言できない。値動きの激しい現在、投資家は常に余裕を持って行動すべきだ。かつ、前向きに。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)