都内にある、塩谷舞さんの自宅でインタビューを行った。夫との二人暮らしで、賃貸の家だそう(撮影:今井 康一)

おしゃれなインテリアに囲まれた、心地よい暮らし。多くの人がかなえたいライフスタイルだが、実際は妥協したり、散らかったりと理想通りにはいかないもの。部屋づくりで大切なのは「調和の中心に自分がいること」。そう語るのは、研ぎ澄まされた審美眼と、暮らしから社会を見つめる文章で注目を集める、エッセイストの塩谷舞さん。

今回は塩谷さんの住まいを訪ね、美しく心地よい空間づくりに対する考え方やモノ選びの基準、さらには欲しいモノを見つけ出すためのコツまで、詳しく話を聞いた。

「どういう光で部屋を包むか」が重要

――昨年にこちらに引っ越したと聞きましたが、この部屋を選んだ理由やどのように空間づくりをされたかお聞かせください。


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この部屋に最初に入ったとき、光の入り方がとても印象的で。ただ、床がクッションフロアで、照明は大きな蛍光灯。そうした点は好みではなかったのですが、窓とそこから入る光が美しく惹かれて、入居を決めました。

光の入り方は季節によってまるで違うので、それに合わせてインテリアも変えるのも楽しいですね。


リビングからは緑が見える。右奥は書斎スペース(写真:本人提供)

どんな光の中で暮らすのか、というのはとても重要。入居してすぐに電気屋さんに連絡し、古くて大きな蛍光灯を取り外して、引っ掛けシーリング用のアダプタに取り替えていただきました。そしてやわらかい光のシーリングライトと、食卓をやさしく照らすペンダントライトを装着。

蛍光灯の明るすぎる光だと、集中力は高まりますが、家庭用の照明としては強すぎるし、家具や壁紙ものっぺりとして見えてしまう。 “どういう光で部屋を包むか”で部屋の印象はがらっと変わります。


塩谷 舞(しおたに・まい)エッセイスト/1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊。会社員を経て、2015年より独立。2018年に渡米し、ニューヨークでの生活を経て2021年に帰国。文芸誌をはじめ各誌に寄稿、SNSではライフスタイルから社会に対する問題提起まで、独自の視点が人気を博す。著書に『ここじゃない世界に行きたかった』『小さな声の向こうに』(文藝春秋)がある(撮影:今井 康一)

テーブルを照らしているペンダントライトは無骨な質感が気に入って購入しました。「LIGHT YEARS」という福岡のセレクトショップのオリジナル商品なのですが、火山灰の軽石をくり抜いて作られたものです。

こういう直線的ではない有機的なものがあることで、空間に“揺らぎ”が出て、いい意味でクリーンすぎず落ち着くなと感じます。


火山灰の軽石をくり抜いて作られた照明は、有機的なでこぼこが印象的。リネンのカーテンからはやわらかな光が透ける(撮影:今井 康一)

好みの質感を求めて、海外から寄り寄せ

――カーテンはどのように選んだのでしょうか。

カーテンは部屋の印象を左右しますが、この部屋は窓がたくさんあるのでなおのこと。リネンのカーテンを選びたかったのですが、予算内のものを探すとほとんどが「リネン風ポリエステル」。

そこで英語で検索したところ、海外通販サイト「Etsy」でリトアニアリネンのカーテンがサイズオーダーできるショップを見つけ、慎重にレビュー画像などを確認してから注文しました。

――インテリアのテーマはありますか。

この家の基調となっている深いブラウンの木目には、“シノワズリ”(東洋趣味)のテイストが合うのではないかと思い、少し参考にしています。

ソファの前に敷いている「赤穂緞通(あこうだんつう)」は、中国の絨毯にインスパイアされて作られたもの。ずっとほしかったアイテムで、倉敷のギャラリー「滔々(とうとう)」で購入しました。


ヴィンテージものの赤穂緞通(写真:本人提供)

観葉植物を入れているメダカ鉢はフリマアプリで購入したものですが、こちらも東洋的な雰囲気があり気に入っています。


染付のメダカ鉢。「青色が好きなんです」と塩谷さん(写真:本人提供)

家具は寸法が合っていると気持ちいい

――テーブルなどの家具は、前の家から持って来たのでしょうか。

いすはニューヨークに住んでいたときに購入したピエール・ジャンヌレのリプロダクト※ですが、テーブルは「FLYMEe」(家具通販サイト)でオーダーしました。


「この窓を初めて見たときから、ここにダイニングテーブルを置いて、友達を招いてホームパーティーをしたいなと妄想していました」(撮影:今井 康一)

基本的に家具は、その家に合うもの、とくに寸法が合うことを重視しています。テーブルは窓の幅より少し狭くて、いすが横に2脚並んでも窮屈に感じないサイズにしました。

レコードプレーヤーを置いているチェストは中古家具なのですが、壁の幅を測ってぴったり合うものを執念で探したものです。


チェストは、壁の幅にぴったりのものをフリマアプリで発見(写真:本人提供)

※ピエール・ジャンヌレはスイス生まれ、20世紀に活躍した建築家。さまざまな家具のデザインを手がけた。リプロダクトとは、デザインに対する版権の期限が切れた製品を、オリジナルをベースに復刻したもの

――オンライン上でお目当てのモノを見つけるコツはあるのでしょうか。

私の探し方はかなり粘着質なようで、引っ越すとなれば隙間時間はずっと家具を探しているので、夫に心配されるほど(笑)。Instagramで職人さんをフォローしてオーダーすることもあるし、英語で検索して海外サイトから探すこともあります。

でも一番よく利用しているのは日本のフリマアプリ。とにかくたくさん検索をして、寸法がぴたりと合う中古家具を見つけられたときはとても嬉しいですね。

作業環境を変えて、気分転換する

――自宅でお仕事もされていると思いますが、書斎スペースのこだわりと、家でのオンとオフの切り替えについても教えてください。

パソコンでの執筆は窓辺のデスクでします。窓から見える緑や、散歩する犬や子どもたちなど外の景色にも癒やされますし、何よりも室内が散らかっていても気にならないのが最大の利点ですね。

デスクライトは電球の色が変えられるのですが、集中したいときはアイボリー寄りの光に切り替えています。


窓辺の書斎スペースには、友人が贈ってくれたお気に入りの絵を飾って(撮影:今井 康一)

デスク横に飾ってあるのは、ニューヨーク時代に仲良くなったアーティストのAesther Changがプレゼントしてくれた絵。絵画を直射日光が当たる場所に置くのはダメだと思っていたのですが、Aesther本人が「経年変化していく先も楽しみ」と言っていたので、この場所に飾ってます。西日がキラキラと入る瞬間、絵と重なってとてもきれいなんですよ。

一方、ゲラのチェックはダイニングテーブルですることが多いのですが、そうやって作業環境を変えることで気分が変わり、原稿の修正点も発見しやすくなるんです。

そうやって考えていくと、とくにオンとオフは意識していないのかもしれません。エッセイストという仕事柄、暮らしの中での気づきが文章になることも多いので。

ただ、在宅ワークの難点を1つだけ挙げるとすれば掃除でしょうか。掃除って、一度初めてしまうと細かいところまで気になってしまって、気がつくと3〜4時間してしまうこともある。そうしてばかりだと執筆の仕事が進まないので、基本的には朝20分間のプレイリストを流して、その間だけ掃除をするようにしています。

インテリアは「手になじむもの」を選ぶといい

――塩谷さんのお部屋を拝見していると、アイテム選びのセンスだけでなく“余白”の作り方もこだわっている気がします。

以前にもそう言ってくださる方がいたのですが、余白がある空間を好むのは、私の顔も余白が多いからかもしれないな……と。

例えば、私がもっと彫りの深い顔だったら、にぎやかなインテリアを心地よく感じるかもしれない。顔だけじゃなくて、自分が生まれ持った色素や骨格、雰囲気なども、アイテム選びのときの重要な指標です。

そのことに気づくまでは、例えば店頭で見て一目惚れした北欧のパステルカラーのアイテムを連れて帰って「……アレ?思っていたのと違う」ということもありました。それは「自分不在」で憧れのものを選んでいて、自分と調和できていなかったからだなと。


「インテリアはご自身の手になじむものを選ぶとしっくり来ると思います」(撮影:今井 康一)

今は、家具以外の小物も“自分の手を添えたときに、手がみすぼらしく見えない”ことを基準に選んでいます。そうやって自分を中心に据えて物を選んでいると、自然と空間全体が調和してくれる。自分が心地よい空間をつくるためには、まず自分を知ることが大事なのかもしれません。

(橘川 麻実 : ライター・エディター)