日本中から集まったJR-PLUS・J-Creation・FSNの7人。プレゼンに先立ち発売前の新製品「メロンアイス」で緊張を和らげる。販売商品としてだけでなく、個人的にもアイスクリームは好きですかと尋ねると7名一致で「大好きです!」(写真:村上悠太)

購入時のあまりの硬さから、「シンカンセンスゴイカタイアイス」という愛称で親しまれている新幹線車内販売のアイスクリーム。最近では、駅ナカ店舗やホーム上売店の拡充により、車内販売の形態も変化し、東海道新幹線では「のぞみ」「ひかり」で行われていたワゴンによる車内販売が、2023年11月よりグリーン車のみの「東海道新幹線モバイルオーダーサービス」に変更された。

東海道新幹線では駅に自販機を設置

しかし圧倒的に多い普通車利用者へのアイスクリーム提供をやめるわけにはいかず、JR東海グループのJR東海リテイリング・プラス(以下JR-PLUS)では、東海道新幹線の一部ホーム上にアイスの自動販売機を新設した。

新幹線車内には冷凍庫がなくドライアイスを用いて保冷することからあの独特の硬さが生まれていた。しかし冷凍自販機ではそこまで冷凍する必要はない。一部の情熱的なファンが「(自販機では)スゴイカタイアイスではなくなってしまった」とSNS上で言及し話題になった。

一方、東海道新幹線に直通する山陽新幹線でも現在、16両編成で運行する一部の「のぞみ」「ひかり」の8〜10号車グリーン車の利用者向けにワゴン販売を継続中。その中には当然、アイスクリームもラインナップされている。


新幹線車内販売の人気商品のアイスクリーム。品質保持の観点から低温で硬く凍っていることから、「シンカンセンスゴイカタイアイス」という愛称とともに、親しまれている(写真:村上悠太)

そして、JR東日本管内の新幹線では一部列車・区間を除く、各新幹線で普通車を含めワゴンによる車内販売を継続している。2019年にはアイスクリームと並んで人気商品の代表格であるホットコーヒーとともに販売をいったん休止したものの、やはり利用者からのリクエストは多く、2022年8月には両商品とも販売を再開した。各社業態は異なるが、アイスクリームは車内販売の最重要商品には変わりない。

もはや文化ともいえる「新幹線とアイスクリーム」の関係だが、この関係が今、各運営会社の壁すら超えている。

2024年6月某日。東京駅からほど近い、JR-PLUS東京本社の会議室には、3社3様の制服姿で車内販売に従事する7人が集結した。東海道新幹線と山陽新幹線のパーサーは新大阪駅で互いの姿を見ることはあるが、JR東日本系列のアテンダントと東海道・山陽新幹線のパーサーが同じ場所に会するのはまれな光景である。そして、この日の議題こそ、アイスクリームなのである。

3社のパーサー・アテンダントがプレゼン

2022年、JR-PLUSとJR東日本グループで車内販売事業を行うJR東日本サービスクリエーション(以下、J-Creation)の両社は、車販における交流会を実施。それをきっかけに2023年7月には東日本エリアをモチーフにしたコラボフレーバー「ずんだ」、2024年3月には東海エリアをモチーフにした「京都宇治抹茶」を発売した。いずれも好評を博し、第3弾としては西日本エリアをモチーフとしたアイスクリームを企画したいと、新たにJR西日本のジェイアール西日本フードサービスネット(以下、FSN)へアプローチ。参画が決定し本開催となった。

今回の会議は第3弾アイスのフレーバーの選定を行うもので、3社のパーサー・アテンダント自身が新フレーバーの味や企画、テーマを検討しプレゼンを行う。「自身らがこうして商品を企画し、実際に自らの手で販売するというのが大切」とJR-PLUS列車サービス運営部の杉本幸俊部長が話す。このことが仕事のやりがいにつながり、減少傾向が続く本業界における人材確保につなげたい思いもある。

同社間でも初対面というメンバーもいるほか、7人の周囲には各部署を統括する上司もいる状況で、会議室は一抹の緊張感に包まれる。そんな緊張感を和らげてくれたのも、これまたアイスクリームである。この会議の数日後に新発売された、東海道新幹線60周年を記念した「メロンアイス」が、発売に先んじて会議室に登場。文字通り“アイスブレイク”となった。

いよいよプレゼンの開始だ。最初はJ-Creation東京列車営業支店の千々岩清香さんと、盛岡列車営業支店の南舘あかりさんの2人。新幹線のほか、千々岩さんはツアー専用臨時列車として活躍する寝台特急「カシオペア」にも乗務し、南舘さんは同社新幹線の最上位クラス「グランクラス」にも乗務する。2人は全社員に向けたアンケートから、西日本にゆかりのあるものをピックアップし、提案を行った。中には「列車酔いしにくいさっぱりとしたフレーバーとして、瀬戸内レモンなどもよいのでは」とアイスクリームの販売最前線にいるからこそ感じる視点もあり、印象的だ。

そのほか、自ら販売することを鑑み、「アテンダントのおすすめのしやすさ」「インバウンドへの訴求力」なども検討し、フルーツ大国岡山に注目した桃やシャインマスカットなどにも注目。さらにJR西日本と共同運行を行う北陸新幹線にも乗務する経験から、北陸を意識した加賀ほうじ茶や五郎島金時などもピックアップした。


プレゼンは北から南へ行われ、トップバッターはJ-Creationの南舘あかりさん(左)と千々岩清香さん(右)。JR西日本エリアにも直通する、北陸新幹線に乗務している支店の経験も元にしたフレーバー案も発表(写真:村上悠太)

地域性だけでなく話題性も意識

続いては、JR-PLUS東京列車営業支店の郄橋怜奈さん。「自身たちが味の選定から携われることにやりがいと責任感を感じます」と意気込みを口にする。東京、大阪2拠点のアイデアを1人でプレゼンした。東京列車営業支店ではJ-Creation同様に岡山の桃を提案。しかし、シンプルに果汁を使用するのではなく、ピューレを使用することで、果実感と濃厚さを狙う。桃フレーバーはかつてFSNも発売していたが、「濃厚さで差別化したい」と力説。一方、大阪列車営業支店では同じく岡山名物でも「きびだんご」に注目。ほかにももみじ饅頭など、地域性を意識した斬新なアイデアが光った。

最後に登壇したのはFSNの角屋早紀さん、小嶋笑美子さん、松田泉美さん、寺沢春奈さん。それぞれ大阪・岡山・広島と今回最遠となる博多の拠点に所属する。まず提案されたのは昨年、阪神タイガースの優勝とともに話題となった、「パインアメ」とのコラボ。「黄色つながりでパッケージに“ドクターイエロー”を描き、さらなる話題性を狙いたい」とプレゼンした。

続いて、岡山のマスカット・オブ・アレキサンドリアの果汁と、果粒を使用したフルーツフレーバーや、グリーン車で販売する際によりプレミアム感を演出できる丹波大納言小豆、福岡県産あまおうを使ったフレーバーなどをプレゼンした。西日本エリアに拠点を置く会社とあって、具体的な銘柄をピックアップし、その活用方法も細部までこだわった。「N700系の形をしたチョコを載せてアクセントにするだけでなく、SNS映えを狙う。まれにドクターイエローを交ぜることでエンターテインメント性を出したい」といった多角的なコンセプトもインパクトがある。

各プレゼン後は、質疑応答が行われた。フルーツフレーバーについては、「レモン、桃といったさわやかさと新幹線アイスクリームが持つ濃厚さの両立はどうするのか」と質問が挙がり、それに対してパーサーたちは「ずんだなどの濃厚さに重きを置いた商品と異なる、さっぱり系のニーズもあるのでは」と回答した。

また、「関東圏の人からすると桃、マスカットと聞いて岡山を産地として想像するか」とご当地感についても質問が挙がったが、「確かに関東に住んでいると山梨を想像することもあるが、岡山も思い浮かぶ」と率直な感覚で答える。そんなやりとりに、「商品開発にはストーリーが大切だが各プレゼンにはストーリーがしっかりあり、感動した」とJR-PLUS杉本氏が本会議の感覚を話す。「私たちもストーリーを大切にしてきたので、伝わったのがうれしかった」と7人も少し安堵の表情を見せた。

最後に会場内全員で推したいフレーバーとともに感想を記入して、次回の会議に向けてアイデアが実現可能か、製造元のスジャータめいらくとの調整が行われる。そして試作試食を経て、来年には3社共同の新フレーバーアイスクリームの販売を目指す。


会議を終えてほっと笑顔の7人のパーサー・アテンダント。3社3様の制服が揃うのはこのプロジェクトならでは。新幹線の旅を特別なものにしてくれる、大切な存在だ(写真:村上悠太)

「さらに多くの鉄道会社とコラボしたい」

緊張のプレゼンを終えた7人のパーサー・アテンダントについて、シンカンセンスゴイカタイアイスについて尋ねてみると、みな、いち商品としての感覚以上のものがあるようで、「必需品」「列車旅のパートナー」と思いを語る。また、ある参加者が「その硬さからふだんは、少し時間を置いてからお召し上がりくださいとお声がけしますが、スジャータめいらく以外のアイスの中には製品上そこまで硬くないものもあり、その際はお早めにお召し上がりくださいと逆のお声がけをします」と話すと、会場内が笑い声に包まれた。

東海道・山陽新幹線では新形式での販売様式となったが、「これまでは列車の広範囲を回らなくてはいけず、(ワゴンの)降車駅間際でかなり焦ることもあったが、今ではゆとりが生まれ、乗務しやすいだけでなく、その分お客さまへのサービスに時間をかけることができるようになった」と話す。また、「アイスというつながりで、新幹線に限らず、さらに多くの鉄道会社とコラボしていければ」という夢も広がっている。

様々な思いを乗せて、日本中を走り続けるシンカンセンスゴイカタイアイス。3社共同での新フレーバープロジェクトの今後に注目したい。

(村上 悠太 : 鉄道写真家)