「太陽の寿命と巨大化、それに伴う地球の運命」について解説します(写真:releon8211/PIXTA)

「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。

知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。

そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、会話形式でやさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座だ。

その井筒氏が「太陽の寿命と巨大化、それに伴う地球の運命」について解説する。

太陽はいずれ死ぬ? 地球は大丈夫?

私たちの生活に欠かせない存在「太陽」。

そもそもどうしてあんなに明るく、あたたかいのでしょうか。エネルギーは切れたりしないのでしょうか?


じつは、太陽が寿命を迎える過程で、地球が飲み込まれてしまう可能性が危惧されています。

いったい、どういうことなのでしょうか?

「太陽の終わりに何が起きるのか」を知るためには、まわりにある惑星や太陽の輝きのしくみについて知っていく必要があります。さっそく見ていきましょう。

太陽と、太陽の重力に影響を受けて動く天体をひっくるめて「太陽系」といいます。そのなかにある大きくて丸い天体を「惑星」といいます。

太陽系の惑星は全部で8個。

小学生のころ、呪文のように「スイ・キン・チ・カ・モク……」と唱えていた人も多いのではないでしょうか。

この呪文は、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星のことで、ご存じの通り、8個の惑星の頭文字を太陽から近い順番に並べたものです。

「惑星」は、それぞれマイペースで太陽のまわりを回ります。


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夜空のなかでふらふらと「惑う」ように位置が変わるので、「惑星」と呼ばれています。

一方、一般的に多くの人がイメージする夜空にキラキラと輝く星を、「恒星」といいます。

なんだか硬い表現ですが、意味はごく単純。夜空のなかで、恒に位置関係が変わらないから「恒星」です。

お互いの位置が固定されているので、星と星をつないで「星座」をつくることができます。

太陽もその「恒星」にあたります。

太陽系の「べスポジ」を陣取る地球

地球は水星、金星につづいて太陽から3番目に近い惑星で、太陽から約1億5000万キロ離れています。

数値で言われてもピンとこないかもしれませんが、この距離が非常に絶妙なんです。

太陽から近すぎもせず、遠すぎもしないので、地球は海を保てています。もっと太陽に近ければ海は蒸発してしまうし、遠ければ凍ってしまうから。


地球は太陽系の中でも「一等地」に位置する(イラスト:村上テツヤ)

太陽系はとてつもなく広いですが、水がないと生きられない生命にとって、地球はこれ以上ない絶好の場所にあるといえるのです。つまり、地球は太陽系の一等地にあるということ。

それを知っただけでも得した気分になりませんか? 

もしも太陽がなくなったら…

言うまでもなく、「太陽」は地球にとって大切な星です。

太陽から届く「熱」は、大地や海、私たちの体をぽかぽかとあたためてくれます。

太陽から届く「光」は、地上を明るく照らすだけでなく、植物が光合成をするためにも欠かせません。

もしも太陽がなくなったら、地球は真っ暗な宇宙を漂う冷たい岩石のかたまりになってしまいます……考えただけでも恐ろしいですよね。

では、なぜ太陽をはじめ、恒星は輝くのでしょうか。

まず、太陽の正体から見ていきましょう。

その実態は、なんと「ガスのかたまり」です! 「ガス」と聞くと「ふわふわ」したイメージを抱くかもしれませんが、太陽は大量のガスが凝縮してできていて、とてつもなく重たいのです。

太陽系の他の天体をすべて集めても、太陽の重さの1%にも及びません。

こんなにも重たいので太陽の中心部には強烈な力がかかり、そこで「特殊な反応」が起きています。

わざわざ特殊というくらいなので、単にガスに火がついてメラメラ燃えているわけではありません。

では、一体どんなものなのでしょうか?

「焚き火」と「恒星」を比べて考えてみましょう。

太陽と恒星の「輝きの秘密」とは?

焚き火の場合、集めた木を火で熱しているとガスが出てきます。このガスが空気中の酸素と激しく結びつくと、エネルギーが生まれ光(炎)と熱になります。いわゆる、燃焼という「化学反応」です。

一方、恒星の場合、星の中心部で水素と水素が融合して別の元素に変身する「核融合反応」という反応が起きています。

水素を材料にしてヘリウムという元素をつくりながら、同時にエネルギーを生み出します。それが恒星の光と熱になっているのです。

この、新しい元素をつくり出しながら、光り輝く反応は、モノが燃える反応よりもはるかに効率がよいのです。具体的にいうと、核融合反応は、化学反応の1000万倍を超える効率で燃料をエネルギーに変えています。

どうしてこんな桁違いの反応が起きるのでしょうか。恒星の中心部は、理系の言葉でいうと「高温・高密度」、感覚的にいえば「アツアツでギュウギュウ」な極めて特殊な環境なので、核融合反応という特別な反応が起きているのです。 

「焚き火」と「恒星」の違い


木から出るガスと空気中の酸素が結びついて光と熱が生まれる(イラスト:村上テツヤ)


水素同士が融合してヘリウムになり光と熱が生まれる(イラスト:村上テツヤ)

現在、この「核融合炉」や「核融合発電」を地上で起こす研究が進められています。いわば、「地上に太陽をつくろうとしている」わけです。

太陽の中心部は、1600万度、2400億気圧。「核融合炉」では、このような圧力を実現することはできませんが、温度を1億度以上にすることで核融合反応を起こそうと試みています。

二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物を出さず、ほんの少しの燃料で莫大なエネルギーが得られるため、次世代のエネルギー技術として注目されています。

ふだん当たり前に浴びていた太陽の光は、じつは人類が憧れるようなものすごい仕組みによって生み出されていたということ。焚き火とはまるで異なる特別なものだったのです。

巨大化した太陽は地球を飲み込むのか?

次に押さえておくべきは、「恒星にも一生がある」ということです。つまり、星も人間のように「生まれて」「一人前になって」「老いて」、「死」を迎えます。

天文学的には、恒星の中心部で水素の核融合反応が起こり、安定して光り輝いている期間を「寿命」と呼んでいます。

恒星は「中心部にある水素」を使い果たすと、ぶくぶくと膨らんでいって巨大化します。これがいわゆる恒星の老年期です。

どうして巨大化するのかというと、恒星の「外側にある水素」が核融合反応を起こすようになり、ガスが熱を帯びて膨張するからです。

膨らむと表面温度が低くなり、赤くなります。この年老いた恒星を専門用語で「赤色巨星」や「赤色超巨星」といいます。文字通り、赤くて大きな星です。

「老人の星」の中心部には、水素からつくられたヘリウムが蓄積し、これを燃料にした新たな核融合反応が起きはじめ、炭素や酸素がつくられます。

太陽の寿命は約100億年で、現在46億歳。人間界では「人生100年時代」といいますから、現在の太陽は人にたとえると46歳くらいでしょうか。いまから約50〜60億年後には、太陽は赤色巨星になります。

じつは太陽が老いて、ぐんぐん膨ふくれあがる過程で、水星と金星を丸飲みしてしまうことがわかっています。地球も飲み込まれるのか、なんとか逃げられるのかは、見解が分かれるところです。

太陽はやがて地球を飲み込めるほど大きくなりますが、膨らみながら少しずつ軽くなることで地球を引っ張る力が弱まります。うまくいけば地球は逃げ切れるかもしれません。

ただ、飲み込まれそうになるよりももっと早い段階で、地球の海は蒸発してしまうでしょう。生命が生き延びようと思ったら、火星に脱出しておかなければなりません。

それが現実になるのか、どうか――。

驚くべき「火星移住」の現実については、次回詳しくお話ししますね。

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))