シニアカーと原付バイクの中間的な存在感を示す4輪の特定小型原付

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シニアカーと原付バイクの中間的なスタイルを採用する(筆者撮影)

和歌山市のglafit(グラフィット)といえば、原付(道路交通法での一般原動機付自転車)から自転車、あるいはその逆に「モビチェン」可能な機構を開発しただけでなく、法律上でも車両区分の変化を可能にするなど、発想力と実行力を兼ね備えた乗り物ベンチャーとして注目の企業だ。

そのglafitが、またも新しいモビリティのプロトタイプを発表した。今回は、4輪のひとり乗り電動車両で、特定小型原付登録となる。

驚きはないが気になる存在

特定小型原付は、2023年7月1日の道路交通法改正によって新設された車両区分だ。電動キックボードがこれに該当するが、車輪数についての規定はないうえに、規定される車体寸法は全長190cm×全幅60cm以内と、電動キックボードよりも余裕がある。

個人的には、電動キックボードのような都市内のマイクロモビリティだけでなく、運転免許返納後の高齢者の足も視野に入っていると思われる。


ジャパンモビリティショーで会場に並べられた各社のマイクロモビリティ(筆者撮影)

すでに昨年秋に開催されたジャパンモビリティショーでは、複数の自動車メーカーが、このカテゴリーを想定したコンセプトビークルを出展していた。今回の車両が、初の4輪特定小型原付の提案ではなく、その面での驚きはなかった。

しかしながら、ニュースリリースにはトヨタグループのTier1サプライヤーとして知られるアイシンとの共同開発として紹介されており、2輪車のようにコーナーで車体を内側に傾けて曲がることが紹介されていた。

気になった筆者は、東京都内で実証実験が行われたので現地に足を運び、試乗をさせてもらうとともに、代表取締役CEOの鳴海禎造氏に話を聞いた。

【写真】glafitの「新しいモビリティ」の姿を見る

話を聞いてまず知ったのは、glafitは特定小型原付の草案を国に提出するなど、カテゴリーの創設に主体的に関わってきたということだ。途中で電動キックボードのシェアリングでおなじみのLUUPなどが加わり、昨年7月の施行に結びついたという。

ただ、同社では電動キックボードは考えに入っていなかったようで、最初にこのカテゴリーに参入したのは、モビチェン車両に近い自転車タイプだった。そして、第2弾がここで紹介する4輪車になる。


時速6kmで走る「歩行者モード」では点滅するグリーンのランプがつく(筆者撮影)

アイシンの「リーンステア制御」に注目

アイシンとの関係は、glafitがトヨタ未来創世ファンドからの出資を受けていたことに端を発し、協業マッチングの場で、アイシンが持っている「リーンステア制御を使えないか」と相談がきたのがきっかけだったという。

glafitは、運転免許返納後の高齢者が、気軽に外出できる生活を持続するためには、最高速度が6km/hのシニアカーでは役不足であり、当時はまだ検討段階だった特定小型原付こそふさわしいと考えていた。

しかし、車幅が限られているため、スピードを出してコーナーを曲がるときの安定性が課題になる。これを解決できるのがリーンステア制御であり、アイシンと共同開発契約を締結することで開発がスタートしたという。


走りの要となるリーンステア制御機構(筆者撮影)

車両はまだプロトタイプであるが、デザインはキャラクター性がありながら、マットなダークカラーのおかげでクールだ。「自分が乗りたくなるものを目指した」とのことだった。

一方で操作系については、後期高齢者となった鳴海氏のご両親をはじめ、高齢者の意見も参考にしたとのこと。シニアカーでは一般的になっている丸ハンドルが良いという人もおり、ハンドルの重さは人によって好みが異なることを教えられたという。

現状では荷物を載せるスペースはないものの、シートは前後方向に長く、シート下にも余裕があるので、このあたりを活用して用意するとのことだった。スクリーンと一体のルーフも設計しているから、多少の雨でも不満なく乗れるだろう。

筆者がglafitの車両に乗るのは2回目だ。最初は2輪の特定小型原付登録の車両で、今年初めに自転車シェアリングの「HELLO CYCLING」を展開しているOpenStreetに導入されたもの。


試乗する筆者。パイロンを立ててのコーナリングなどを体験した(関係者撮影)

自転車に近い車体だったので、最初は足の位置が左右同じであることに戸惑ったものの、数秒後には自転車との近さがもたらす安定感や安心感が伝わってきた。加減速の制御も絶妙で、日本のメーカーならではの信頼感がありがたかった。

では4輪はどうか。乗車姿勢は、シートが高めで、背筋を伸ばした姿勢で座る。安全運転のためには好ましい。足元は広くないが、足を置くことには不自由はなかった。コーナーでは、リーン(傾斜)するのでタイヤは10インチのスクーター用だ。

走りに「不安」は感じない

ハンドルまわりは“まだ開発中”といった風情で、スロットルレバーは小さな金属製だったので扱いにくい。樹脂で大きめのパーツに替えれば、タッチを含めて違和感はなくなるだろう。


プロトタイプ然とした操作系は製品化に向けてより良いものになるだろう(筆者撮影)

発進から加速に移っていくまでの動きはスムーズ。減速時は、回生ブレーキが唐突ではないが強めに感じた。左手側にハンドブレーキもあるが、電動車いすと同じように、アクセラレーターを離すと停止する仕組みなので、慣れればブレーキに頼らず減速できた。

アイシンが開発した旋回制御はとにかく自然で、ハンドルを切るとそれに応じてスムーズにリーンしていき、安定して曲がることができる。旋回中にアクセラレーターを離すと、スピードが低いのでほぼその場で停止するが、そのときも不安はなかった。

特定小型原付の中には、スイッチ操作で最高速度が6km/hに制御され、緑色の最高速度表示灯を点滅させることなどにより、普通自転車(特定小型原付と同じ全長190cm×全幅60cm以内で4輪以下などの規定に収まる自転車)が通行可能な歩道を走れる、特例特定小型原付というジャンルがある。


今回の試乗にあたってはポータブル電源から充電を行った(筆者撮影)

個人的には自転車を含めて、多くの外国と同じように「歩道の通行は原則禁止」としたほうがいいと思うが、今回の車両は高齢者を対象としていることから、歩道通行以外でも、運転者や家族が速度を抑えた運転を望む場合がありそうだ。

その場合は、回生ブレーキを控えめにしたり、コーナーでのリーンをなくしたりという制御があってもいいのではないかと思った。

実社会で「役立つ存在」となる可能性

価格については、「60万〜100万円あたりを目指す」とのこと。既存の特定小型原付よりも高価なのは、凝った機構を搭載していることが関係しているだろう。

電動車いすは介護保険の利用が可能だが、後期高齢者にもそのような制度を用意して、安価な出費でこのようなモビリティを使えるようになれば、運転免許返納がスムーズになる人も出てくるのではないか。

もうひとつ気になるのは、やはり道路環境だ。特定小型原付は、自転車とほぼ同じルールで乗ることになるが、日本は自転車道や自転車レーンの整備が遅れているので、安全性に不安を抱く人もいるはず。


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ただし、同じ特定小型原付でも、若者の利用率が多い電動キックボードとは違い、今回の車両は交通弱者である高齢者の利用を想定している。そういう乗り物を邪魔者扱いしていいのか、という気持ちはある。インフラだけでなく、道路を移動する一人ひとりのマインドの改革も重要になるだろう。

一方のハードウェアについては、現状でも満足できる出来だったが、今回を含めた3カ所で実施した実証実験での評価や感想をフィードバックしていくとのこと。さらに完成度を高めた姿で市販される日を楽しみに待ちたい。

【写真】形も新しい!glafitの新型車プロトタイプを見る

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)