文・写真=山粼友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)

こんな場所に新幹線が!? 見ると思わず頬が緩んでしまう、0系にそっくりな「鉄道ホビートレイン」


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四万十川沿いを走るたった1両の新幹線

 今年の3月に北陸新幹線の金沢〜敦賀間が開業し、今や日本の新幹線網はおよそ3,500kmにも及んでいる(山形・秋田新幹線を含む)。北は北海道から南は九州までをつなぎ、言わずと知れた交通の大動脈であるのだが、唯一新幹線が走っていない地方がまだ残っている。それが四国。ところが四国のローカル線を旅していると、なんと走っているはずのない新幹線に出会えることがある。しかも初代新幹線の0系に! これはいったいどういうことなのだろうか?

 四国と新幹線とはまったく関係がないようで、実は密接なつながりがある。第4代国鉄総裁として東海道新幹線の建設を実現し、“新幹線の父”と称される十河信二氏の生まれ故郷が愛媛県西条市なのだ。同市の第2代市長も務め、名誉市民でもある氏の功績を称え、市内には十河信二記念館が建てられている。

 そんな縁から、高知県の窪川と愛媛県の北宇和島を結ぶ予土線の全線開通40周年と宇和島〜近永間開通100周年を記念して製作されたのが、冒頭で紹介した0系そっくりのディーゼルカー。「鉄道ホビートレイン」という愛称で見る人を釘付けにして離さない。

 予土線といえば日本最後の清流とも呼ばれている四万十川沿いを走る風光明媚な路線である。大自然に囲まれた場所をたった1両の新幹線がトコトコ走行しているようすは、とても可愛くもありユーモラスいっぱいで、思わず笑みがこぼれてしまう。

警笛も0系で使用されていたものを使用。当時と同じ音を聴くことができる


 気になるのはやはり0系に似せたその外観である。もともとは国鉄時代に製造されたキハ32形を改造したのだが、特徴である団子鼻を立体的にデザインし、スカートや前照灯、カラーリングや装備品に至るまでこだわって再現した究極の1両だ。ところで団子鼻は視界の確保や空気抵抗を減らすためメッシュ加工となっているが、見る角度などによっては気づかない。

車内はまさに「走る模型博物館」

 ホビートレインという名のとおり、鉄道模型と走るアミューズメントトレインというコンセプトのため、外観だけでなく車内も魅力にあふれている。基本的にはロングシートが並んでいるが、鉄道模型が展示されたショーケースが3つもあり、歴代新幹線の先頭車両や四国で活躍した車両などが展示され、まさに走る模型博物館。床にはJR四国のルーツとなる讃岐鉄道が開業時に投入したドイツ製A1形タンク機関車の形式図が青焼きのイメージで描かれており、その上を歩くのにはちょっと躊躇してしまうほど。

シートやカーテンには走る列車や四国をイメージした柄が採用されている


 なかでもイチオシは、かつて0系で実際に使用されていた転換シートが2脚設置されていること。ここに座っているとかつての新幹線の雰囲気を味わえるが、流れる車窓とのギャップがまた面白い。

車内に設置された0系の転換シート。通路側の肘掛けからはテーブルも引き出せ、懐かしさが味わえる


 こんなに楽しい車両なのに特別料金は不要で普通運賃だけで乗車できるところも、JR四国の太っ腹さを感じてしまう。どの列車に使用されているのかはホームページで確認できる。

四万十川沿いを進む列車。宇和島側の先頭部は流線形ではなく、団子鼻などは立体的に描かれている。立体的な先頭部を撮影したいなら窪川方面から狙うと良い


 予土線にはほかにも「しまんトロッコ」や「カッパうようよ号」、「おさんぽなんよ号」など、車内や外観などに特徴ある車両が6種類走っており、Yodosen Fun Fun Trainsを形成して地域や路線の盛り上げに一役買っている。

 ただ硬い話をすれば、「鉄道ホビートレイン」が本物の0系に忠実かというと、“そっくり”は言い過ぎかもしれない。でもボクはこの心意気だけで十分満足だし、なにせ愛嬌ある姿を見ているとほっこりした幸せな気持ちになれるので、よくぞ造ってくれたと関係する方々に感謝の意を伝えるとともに、列車の運行をこれからも応援し続けたい。

 ちなみに西条市の十河信二記念館のそばには四国鉄道文化館があり、そこには本物の初代新幹線0系が展示されている。両施設は観光交流センターとともに鉄道歴史パーク in SAIJOとなっており、四国の鉄道や西条市の魅力についても学ぶことができる。もし時間があれば、まさかの四国で0系のハシゴ旅も良いのでは?

筆者:山粼 友也