このほど、GoogleはChromeブラウザからサードパーティCookieを排除する計画の白紙撤回を発表した。驚きではあるが衝撃には至らないこのニュースを咀嚼するのに、大小のメディアエージェンシーは1週間を費やしたが、相変わらずCookieがなくなるという前提で物事を進める選択をしているようだ。どのみち、ある種の脱Cookieはすでに進行している。

この180度の方針転換を受けて、メディアエージェンシー各社がクライアントに発したメッセージの主旨は、「プライバシー問題を背景に、サードパーティCookieは今後ますます役に立たなくなるため、法令に則り、高品質で使用に適したファーストパーティデータの生成に注力すべし」というものだ。

電通、オムニコム(Omnicom)、IPG、スタグウェル(Stagwell)を含むいくつかの大手エージェンシーおよび独立系メディアエージェンシーを対象に行った調査では、Googleのプライバシーサンドボックスに対する警戒感とともに、今後の進路としてさまざまな案が示された。この調査を見る限り、多くのエージェンシーはこれまでどおり識別子関連の代替技術を提案するようだ。

Cookieの廃止が撤回されたとて



コンサルティング会社のスラローム(Slalom)で広告およびマーケティングトランスフォーメーションの責任者を務めるリオ・ロングエーカー氏は、「いまやプライバシーはごく基本的な権利と見なされ、企業は消費者データの移動を制限または禁止したり、消費者の同意を取得したりするなど、個人を識別できる情報(PII)の安全確保を急いでいる」と述べている。「先のGoogleの発表によって、この動きが減速することも逆転することもないだろう」。

スタグウェルのアセンブリーグローバル(Assembly Global)でGoogle関連業務の責任者を務めるフェミ・タイウォ氏は、「再度の延期はともかく、白紙撤回があるとは思わなかった。そこは意外だった」と話し、「とはいえ、これは常に、なんというか作りかけの罠のようなものだった」と続けた。

一方、この報に接して、オムニコムはより具体的な影響について考察しているが、そこにはいくばくかの安堵感もうかがえる。オムニコムメディアグループが米DIGIDAYに提供した意見書にはこう書かれている。「Cookieの廃止が撤回されても、オプトアウトによってサードパーティCookieの可用性は低下するものと予想されるが、その影響はデジタルチャネル全体の累積的な影響として見積もられた当初の26%よりもはるかに小さな数字となるだろう」。

この意見書によると、Googleのプライバシーサンドボックスに関しては、その改良と本格的な提供がより広範囲に及ぶまで、オムニコムメディアグループは「いかなるテスト運用も控えることを推奨する」としている。さらに、「当面、ブランド各社に対しては、ファーストパーティデータとUID2.0やRampIDのような代替識別子に投資すること、ターゲティングと効果測定を維持するためにGA4などのGoogleのテクノロジーを実装すること、Googleメディアへの投資に関しては専門の知見を持つTRKKNと協力すること」を勧めている。

同様に、電通もクライアントに代わって代替技術を推進する計画のようだ。この問題に関する電通のリリースにはこう書かれている。「個人情報を保護するための法整備が進むなか、代替IDソリューションは死活的に重要となる。また、決定論的データ、AI、Cookieを使わないメディア戦術への注力、さらにはリッチで信頼性の高いファーストパーティデータとセカンドパーティデータへの依存は今後ますます強まるものと思われる」。

将来的には衰退する



Googleの決断はCookieが長期的に残存することを必ずしも意味しない。ノーヴァス(Novus)でデジタル担当バイスプレジデントを務めるポール・ディジャルナット氏は、「Cookieの終わりが近づいていることに変わりはない」と述べている。今後も続くと思われるのは、Cookieから脱し、確立された「良い習慣」をベースとしてそれをさらに発展させる努力だと、ディジャルナット氏は話す。具体的には、デバイスグラフやオプトインのような別の形のターゲティングを模索すること、あるいはファーストパーティデータの使い方を改善することなどが含まれるという。

ディジャルナット氏は、「いまではCTVやストリーミングオーディオのようにターゲティングや効果測定をCookieに依存しないデジタルチャネルも存在する。Cookieの長期的な展望としては、断片化の進むマルチチャネルの市場で衰退に向かう未来しか見えない」とも述べている。

また、デジタルエージェンシーのクラウド(Croud)で戦略的アナリティクス担当バイスプレジデントを務めるコンラッド・コプチンスキー氏によると、同エージェンシーではGoogleの方針転換の詳細についてクライアントと密にコミュニケーションを取り、ファーストパーティデータの使用の継続を確認しているという。「とは言っても、データに関する我々のアプローチは基本的には何も変わらない」と同氏は言い添えた。

クラウドはクライアントのファーストパーティデータの収集能力を、同意やコンバージョンなど、各種のツールで強化することに注力している。たとえば、同意に基づく効果測定は、分析や広告に利用できるデータを消費者自らが選択できるようにすることで、ユーザーのプライバシーを保護しようという試みだ。

同様に、コード3(Code3)のメディア担当バイスプレジデントであるイヴォンヌ・ウィリアムズ氏も、「Cookie廃止の撤回は代替技術の活用をやめてよい理由にはならない。クライアントに対しては、ファーストパーティデータの活用を継続し、プラットフォーム横断的にオーディエンス拡張をテストすべきだと助言している」と語った。

「要するに、サードパーティCookieは唐突に終わりを迎えたわけではなく、生命維持装置につながれた状態にあるということだ」とウィリアムズ氏は続け、「したがって、アドレサブルな広告在庫が潜在的に不足する状況やそのほかの未知数に対応し、収益減やパフォーマンスの低下を軽減するための戦略を、先を見越して準備しておくことが重要だ」と言い添えた。

エージェンシーのメディアプラス(Media+)でシニアデジタルスペシャリストの肩書きを持つジェイソン・アルフレッド氏も、「Cookieに関するプライバシー上の懸念が払拭されず、消費者のオプトアウトが続けば、サードパーティCookieからのシグナルが大幅に減少する」と指摘している。「広告主に対しては、ファーストパーティデータとコンテンツの文脈的な関連性を軸に、有望なソリューションのテストや構築を継続すべきとアドバイスしている」。

プライバシーサンドボックスでは心許ない



Googleのプライバシーサンドボックスそのものに関しては、そのメリットに対するメディアエージェンシーの反応は総じて鈍い。オムニコムの意見書には次のように書かれている。「Cookieに関する発表と同時に、プライバシーサンドボックスの内部テストの結果も発表された。このテストにより、サードパーティCookie不在の損失をサンドボックスである程度回復できることが示されたが、そもそも広告主のインプットや詳細な方法論を欠いており、2025年のキャンペーンパフォーマンスを予測するにはあまりに心許ない」。

IPGのパフォーマンスマーケティングエージェンシーであるキネッソ(Kinesso)でプラットフォームとインテリジェンスのグローバル責任者を務めるクリス・シムカット氏は、「キネッソは独自の不干渉主義を取っている」と話し、次のように続ける。

「プライバシーサンドボックスの登場以来、議論は二転三転した。当初は、これはすべてのクライアントに実装する必要があるものだと認識していた。ところが実際には、物事が進むに伴い、これらはむしろアドプラットフォーム自身が利用すべきAPIであり、テクノロジーであることが分かってきた。そして、プラットフォーム内で広告を実行したり購入したりする人々にこうした機能を提供するのも彼らプラットフォーマーだ」。

実は変革のチャンスをつかみそこねたのか……?



しかし結局のところ、Googleの方針転換によって、より大きなチャンスを逃してしまったという痛恨の念もある。というのも、この決断が現在ある形のトラッキングを積極的に排除するものではなく、意思決定の責任を消費者に負わせるものであるからだ。

ニューエンゲン(New Engen)でアドバンストアナリティクスと効果測定担当のシニアバイスプレジデントを務めるアンドリュー・リチャードソン氏は、「エージェンシーは気を抜いている場合ではない」と警告する。消費者によるChromeでのオプトアウト設定だけでも、「シグナルはすでに失われつつある」とリチャードソン氏は指摘する。多くのユーザーがCookieをブロックするブラウザを使用しているうえ、AppleのSafariブラウザでも広告ブロックを使われる可能性はある。

「業界として、もはや不可避となったシグナルの減少を避けようとするよりも、消費者のプライバシー保護を優先し、Cookieなき世界に適応する必要がある」とリチャードソン氏は述べている。

過去6年間にGDPRがやってきたことは、消費者に(訪問するすべてのWebサイトでCookieの許可もしくは拒否を迫るという)当初の意図とは違う結果をもたらした。同じことが再び起きない保証はどこにもない。

「少なくともこの分岐点では、良くも悪くもインターネットを改革する機会を逸してしまったように思う」とアセンブリーのタイウォ氏は言い、「意味ある方法でイノベーションを起こすチャンスはつかみそこねたと感じている」と付け加えた。

[原文:Media Buying Briefing: Media agencies forge on with other ID solutions regardless of Google’s curtail of third-party cookie deprecation]

Michael Bürgi and Antoinette Siu(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)