渋谷「三井住友銀行+スタバ」は異空間だった
西武渋谷店B館1階の旧三井住友銀行渋谷支店を改装して誕生した、銀行であり、カフェであり、シェアオフィスでもある「Olive LOUNGE 渋谷店」(編集部撮影)
キャッシュレス決済が推進され、現金の取り扱いが少なくなっている中、三井住友銀行が銀行とスターバックスを融合させるという新たな取り組みを始めた。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との共同企画で、銀行であり、カフェであり、シェアオフィスでもある個人客向けの新たなコンセプトの店舗「Olive LOUNGE(オリーブ ラウンジ)渋谷店」を2024年5月27日に開設して約2カ月が経ったが、どのような成果が出たのか。
銀行スペースを開放し、カフェに
Olive LOUNGE 渋谷店は、JR渋谷駅前の公園通り沿いの旧三井住友銀行渋谷支店を改装。1階に銀行の窓口とATMを設置し、敷居などを設けないオープンなスペースの中に、スターバックスが併設されている。
筆者が訪れた平日の昼間は、スターバックスはほぼ満席。銀行の商談スペースもカフェとして活用され、銀行で口座開設等の各種手続きや資産運用等の相談などを行うすぐ横に、カフェ利用のくつろいだ人がいるなど、従来の銀行のイメージからは考えられない開放的な雰囲気だった。スターバックスの営業時間が7〜22時なのに対して、銀行窓口の営業時間は平日10〜16時。銀行の営業時間外には商談スペースは広くカフェとして開放される。
入り口を入るとカフェが広がり、左手奥に三井住友銀行がある(画像:三井住友銀行)
【画像】営業時間外にはカフェスペースになる銀行の商談エリア、60分1650円から利用できるコワーキングスペース、「Olive」会員なら無料で利用することができるソファや個室など(10枚)
三井住友銀行の商談スペース。カフェスペースにもなる(画像:三井住友銀行)
上/コワーキングスペースの「SHARE LOUNGE」下/集中力が高まるブース席もある(画像:三井住友銀行)
そして2階にはCCCが運営するコワーキングスペース「SHARE LOUNGE」があり、座席数125席を用意。カウンターやテーブル、ブース席、個室など、自由に選ぶことができる。営業時間は7〜22時で、ドロップイン(一時利用)は60分1650円から。月額利用は5万5000円から利用することができる。
高速Wi-Fiや電源などはもちろん、ナッツなどのスナックやソフトドリンクもフリー。仕事帰りや週末などには、ビールやハイボールなど、アルコールフリーのプランもあり、60分2200円から利用できる。
特別なスペースを使用できる会員サービス
多くのクレジットカード会社が、テーマパークや空港、駅などに無料で利用できるラウンジを用意し、カード会員向けのサービスとして提供している。このOlive LOUNGE 渋谷店にも同様のサービスがあり、地下1階にある銀行の相談ブースを、「Olive」会員なら無料で利用することができる。ここは本来なら立ち入ることができない特別なスペースで、プライバシーに配慮した個室や、実際に利用されていた貸金庫をリノベーションした個室もある。
カフェの奥にある階段を降りると「Olive」会員が無料で利用できるスペースに行ける(編集部撮影)
利用したい場合は銀行を訪れ、Oliveのカードやアプリを提示する。銀行の営業時間外にもスタッフは常駐しているので、10〜22時(最終受付21時)の時間帯ならいつでも時間制限なく利用できる(混雑時は除く)。最大1名まで同伴でき、スタバの飲み物なども持ち込みできる。渋谷にいつでも利用できるカフェスペースを確保できるイメージだ。
そもそも「Olive」とは、三井住友銀行と三井住友カードが提供する個人向けの総合金融サービス。2023年3月より提供を開始し、現在のアカウント開設数は約300万アカウント。これほどアカウント数が急増した理由のひとつが、コンビニやファストフード、ファミレスなどのVポイント提携先で、Oliveのタッチ決済をすることで、基本7%のVポイントが貯まることだ。Vポイント提携先にはセブン-イレブン、ローソン、マクドナルド、モスバーガー、ガスト、すき家、ドトールコーヒー、エクセルシオールカフェなどがあり、対象店舗は拡大中だ。
「Olive」会員が無料で利用できる地下1階のソファや個室。個室は共用利用のため、ドアを開け放して利用するルール(画像:三井住友銀行)
貸金庫として使われていたスペースも利用できる(画像:三井住友銀行)
アプリ上で銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能が利用可能。発行される1枚のカードにはキャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイント払いなどさまざまな決済方法を搭載し、アプリで自由に切り替えできるのが特徴だ。
Olive LOUNGEは、このOliveをモチーフに、会員が特典を感じられるスペースとして開設された。地下1階の銀行スペースを無料で利用できることは前述したが、Olive LOUNGE渋谷店のスターバックスや、SHARE LOUNGEの支払いをOliveのアプリでタッチ決済することで、決済額の10%相当のVポイントが還元される特典も用意する。実質、スターバックスのドリンクを10%割引で飲めるようなものなので、お得さが感じられることだろう。
「Olive」を軸とした次世代型店舗の在り方
キャッシュレス決済が推進され、現金の取り扱いが少なくなっている中、Olive LOUNGEの取り組みは、これからの銀行の店舗の在り方として、1つの方向性を示したとも言える。その狙いについて三井住友銀行チャネル戦略部長の泉純氏は、「Olive LOUNGEは2つのチャネルを組み合わせたハイブリッド戦略の取り組み」だと言う。
三井住友銀行チャネル戦略部長の泉純氏(筆者撮影)
キャッシュレス決済の普及もあり、今ではインターネットやスマホアプリでの金融取引が進む。そのニーズへの対応としてSMBCグループ(三井住友フィナンシャルグループ)ではOliveを提供。とはいえ、すべての顧客ニーズがアプリ上で解決できるわけではなく、迷った時や困った時などは専門家に相談したいというニーズはなくならない。
そのため店舗は必要なのだが、「従来型の300坪、400坪という大きな店舗は見直す価値があると思い、今回、Olive LOUNGEの取り組みを行いました」(泉氏)
SMBCグループでは顧客の生活動線の中に銀行が入り込むリテール向けの新型店舗「ストア」を、イオンモールやららぽーとなどのショッピングモール内に展開。16時以降の時間や土日などもオンラインや特別スタッフなどの対応で営業し、顧客との接点を拡大する取り組みを行う。現在、関東と関西を中心に、39店舗を出店。2025年度までに三井住友銀行全400店舗の6割にあたる250店舗超をストアに転換する考えだ。
渋谷の目立つ場所にあるからか、平日昼間でもカフェは満席だった(編集部撮影)
「Olive LOUNGEもこれと同じ考え方で開設しました。銀行に用事がない人も気軽に立ち寄ってもらって、銀行のサービスに触れていただきたい。そうすればもっとお客様の役に立てることがたくさんあると思います」(泉氏)
銀行のスペースを顧客が日常的に使う
例えば、スターバックスでくつろいでいる人が銀行を目にして資産運用の相談をしたいと思ったり、SHARE LOUNGEで働く人が空き時間を活用して住宅ローンの相談に訪れることもあるだろう。銀行が他のテナントと共存したオープンなスペースになることで、顧客ニーズに応えられる機会も増え、親和性は高いと判断したという。
入り口は2つあり、こちらはスタバのカウンターに近いほう(筆者撮影)
「今後、従来型の銀行だけの大型店舗は不要だと思います。中身を変えていかなくてはいけない」(泉氏)。その方法のひとつがストアで、銀行が商業施設に入っていくこと。もうひとつが銀行のスペースを顧客が日常的に使う場所に変えていくこと。後者のカタチがOlive LOUNGEということだ。
旧渋谷支店と対比すると、銀行窓口を利用する顧客の数は2倍に。Olive LOUNGEのホームページはオープンして約2カ月で約15万人の人が閲覧していると言う。これによってOliveを検討したり、実際に申し込んだ顧客もいるだろう。宣伝効果という意味でも大きな影響力がある。
次のOlive LOUNGEは、東京都渋谷区の下高井戸支店を改装し、2024年10月にオープン予定。駅前の立地が良い場所にある従来型店舗を、今後、Olive LOUNGEとして展開していく。
(綿谷 禎子 : ライター)