どん底の状況で喘いでいる現場に再び火をつけ、現場力を再興させることができるのか(写真:kou/PIXTA)

経営コンサルタントとして50社を超える経営に関与し、300を超える現場を訪ね歩いてきた遠藤功氏。

36刷17万部のロングセラー『現場力を鍛える』は、「現場力」という言葉を日本に定着させ、「現場力こそが、日本企業の競争力の源泉」という考えを広めるきっかけとなった。

しかし、現在、大企業でも不正・不祥事が相次ぐなど、ほとんどすべての日本企業から「現場力」は消え失せようとしている。

「なぜ現場力は死んでしまったのか?」「どうすればもう一度、強い組織・チームを作れるのか?」を解説した新刊『新しい現場力 最強の現場力にアップデートする実践的方法論』を、遠藤氏が書き下ろした。

その遠藤氏が、「日本企業が世界で『存在感』を失ってしまった2大理由」について解説する。

20年で日本企業の「世界での立ち位置」が大きく下落

私は過去30年以上にわたり、日本企業の現場を訪ね歩いてきた。その数は300を超える。いまも経営顧問先の現場やコンサルティングを行う企業の現場を訪ね歩き、現場の人たちと直接的な触れ合いを大事にしている。


「現場力」こそが、日本企業の競争力の源泉であると信じてきた

私が『現場力を鍛える』を出版したのは、20年前の2004年である。「十年一昔」とよく言われるが、それになぞらえれば「ふた昔」も前のことである。

その間に、世界は大きく変わり、日本経済、日本企業の立ち位置も大きく変わっている

近年の日本および日本企業の世界での立ち位置を数字で確認すると、この20年で「その地位」が大きく下落していることにあらためて愕然とする。

なぜ、日本企業はこれほどまでに、世界と差がついてしまったのだろうか

【事実】「世界の企業トップ50」から日本企業が消えた

世界の時価総額ランキングトップ20を見ると、35年前の1989年にはなんと14もの日本企業がランクインしていた。バブル経済の絶頂期であり、「Made in Japan」がもてはやされた時期だった。

しかし、そこを頂点に、日本企業の存在感は下降の一途を辿る。

20年前の2004年にランクインした日本企業は、すでにトヨタ自動車(15位)のみという状況だった。

そして、2023年にはトップ20から日本企業の名前は消えた。日本経済を牽引してきたトヨタ自動車でさえ52位である。

米国は「トップ20に入る企業」が増えつづけている

驚くのは、アメリカ企業の圧倒的存在感である。1989年にはわずか5社だったが、2004年には13社が、そして2023年には16社がランクインしている。

2023年の上位にはアップル(1位)、アルファベット(4位)、アマゾン・ドット・コム(5位)、テスラ(7位)、エヌビディア(8位)と躍進目覚ましいフレッシュな企業が名を連ねるが、じつは本当の驚きはそこではない。

ランクインした16社のうち、なんと6社は「2004年にもランクイン」しているのだ。

その名を挙げると、

マイクロソフト(3位)

エクソンモービル(10位)

JPモルガン・チェース(15位)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(17位)

ウォルマート(18位)

プロクター・アンド・ギャンブル(20位)


といった老舗のエクセレントカンパニーだ。

企業の入れ替わりが激しいなかで、こうした老舗企業群はしたたかに、そして、たくましくビジネスモデルを変えながら、エクセレントでありつづけている

なぜ日本企業はこの20年、ずるずると後退を続けたのか

さまざまな理由が考えられるが、致命的な理由が2つある。

【理由1】「マイナーチェンジ」ばかりで「延命」することだけに必死だった

ひとつめの理由は、経営陣が新しいことに本気でチャレンジしたり、覚悟を持って生まれ変わったりしようとせず、「延命」することだけに汲々としてきたからにほかならない。

「うちの会社だって、新規事業へのチャレンジや構造改革に取り組んでいる」という声が聞こえてきそうだが、私が知る限り、本気で会社を「変身」させようとしてきた日本企業はほんのわずかにすぎない。

マイクロソフトも大胆な「フルモデルチェンジ」に挑戦

2004年の時価総額ランキング3位だったマイクロソフトが、2023年においても3位にランクインしているのは「偶然」ではない。

この20年、マイクロソフトはけっして順風満帆だったわけではない。時代のモバイル化、クラウド化に後れをとり、一時期は危機的な状況に陥った。

しかし、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏が、過去の成功体験にあぐらをかいていた組織を一変させた

自社のOSにこだわり、OSと一緒にソフトを売るという従来の戦略を大転換し、ライバル会社のOSでも自社製品を使えるように方針を大転換した。また、サブスクリプションをいち早く導入した。

マイクロソフトは、大胆な「フルモデルチェンジ」に果敢に挑戦したことによって、エクセレントカンパニーでありつづけている

日本企業においても高い評価を受けている企業は、ソニーグループ、日立製作所、リクルートなどの「フルモデルチェンジ」に挑戦している企業だ。

しかし、大半の日本企業は「マイナーチェンジ」程度の改革でお茶を濁し、過去の経営戦略やビジネスモデルを引きずったまま、「延命」させることばかりに必死だった

2つめの理由は「『延命』の大きなツケが『現場』に押し寄せた」ことだ。

【理由2】「延命」「身を削るコストダウン」の大きなツケが「現場」に押し寄せた

言うまでもなく「延命」をいくら続けたところで「再生」は果たせない

事業の大胆な入れ替えを行わず、設備投資や人材教育投資を先送りにし、人件費や経費は極力カットし、現場に我慢と忍耐だけを強いてきた

いまだに多くの日本企業には封建的な主従関係がある。そのため、上からの「圧」がきわめて強く、我慢と忍耐のなかで現場に深刻な問題が起きても、それを上に上げることができない。上に上げようとしても、真正面から向き合ってくれない。現場は問題を抱え込み、孤立する。


その結果、「延命措置」が限界に達した

日本を代表する大手企業で品質不正、検査不正、不祥事が続発した。これは、長年声を上げることができなかった「現場の断末魔の悲鳴」である。

さらに、「生産現場で改善を繰り返す」「極限まで無駄を省く」「効率性を高める」という地道な努力の積層によって成長を遂げてきた「自分たちを犠牲にするような身を削るコストダウン経営」も限界を迎えている

人手不足どころか人手枯渇で人件費は高騰し、未来を担う若手従業員の確保もままならない。エネルギーコストや原材料費も高止まりが続いている。

現場の「知恵」と「努力」だけで成り立っていたビジネスモデルそのものが終焉を迎えているのだ。

「現場力を再生できるか」が日本企業最大の課題

表向きの業績が多少回復したからといって、手放しで喜ぶわけにはいかない。逆に、これで大胆な改革が先延ばしになることを私は心底危惧する。表向きの数字がよくなると、根深い本当の問題は隠れてしまう

なにより大事なことは、「日本企業にとっての生命線である現場力は死んでしまった」という「強い危機感」を持ちつづけることだ。

どん底の状況で喘いでいる現場に再び火をつけ、現場力を再興させることができるのか。

これこそが、いまの日本企業に突きつけられた最大の経営課題である。

(遠藤 功 : シナ・コーポレーション代表取締役)