攻撃的な行動を特徴とする行為障害の青少年の脳をスキャンした研究により、この障害に関連する新たな脳の領域が同定されました。

Cortical structure and subcortical volumes in conduct disorder: a coordinated analysis of 15 international cohorts from the ENIGMA-Antisocial Behavior Working Group - The Lancet Psychiatry

https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(24)00187-1/fulltext

Youth with conduct disorder show widespread differences in brain structure | National Institutes of Health (NIH)

https://www.nih.gov/news-events/news-releases/youth-conduct-disorder-show-widespread-differences-brain-structure

行為障害は、「社会的な規範に対する反復的かつ複数の分野にわたる問題行動によって規定される疾患概念」と定義される精神疾患で、普通の子どものいたずらや青少年の反抗より重篤な反社会的行動が繰り返されるのが特徴です。

アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)のダニエル・パイン氏は「行為障害は、青少年の精神障害の中で最も重い負担となっていますが、研究は進んでおらず、治療も十分には行われていません。行為障害に関する脳の違いを理解することで、診断と治療をより効果的に行うアプローチの開発が一歩前進し、最終的には子どもとその家族の長期的な転帰を改善することにつながります」と話しました。



脳神経学的な見地から行為障害の理解を深めるべく、バーミンガム大学のイディアン・ガオ氏とバース大学のマーリーン・スタギヌス氏、およびNIMHを含む多数の医療機関や学術機関で組織されるENIGMA反社会的行為ワーキンググループから成る研究チームは、世界中の15の研究に参加した7〜21歳までの青少年のMRIデータを分析しました。

分析では、行為障害と診断された青少年1185人と、そうではない青少年1253人の大脳皮質の表面積と厚さ、皮質下深部の脳領域の容積が比較されたほか、皮質と皮質下の脳領域のデータが男子か女子、症状が発現した年齢が少年期か青年期か、共感性などの向社会的特性のレベルが高いか低いかとで比較されました。

その結果、行為障害を持つ青少年は皮質全体および皮質の34領域中26の領域で総表面積が小さく、そのうち2つの領域では皮質の厚さにも有意な違いがあることがわかりました。最も顕著だったのは、大脳皮質と呼ばれる脳の外側の層で、行動や認知、感情などの制御で重要な領域が小さくなっている点でした。



また、行為障害がある青少年は扁桃体、海馬、視床などの皮質下の領域も体積が小さかったとのこと。これらの領域は、行為障害にみられる問題行動の制御に中心的な役割を果たしている領域です。これまでも、いくつかの研究で行為障害と関連のある脳の領域が見つかっていましたが、今回の研究で初めて関連性が判明した領域もありました。

ほかにも、行為障害と脳の構造との関連性は男女間で差がなかった一方で、発症年齢と向社会的特性のレベルに基づく行為障害のサブグループ全体で関連性が見られることなどもわかりました。脳の違いは特に、共感性、罪悪感、自責の念の低さにを特徴とする、より重篤な行為障害の兆候を示す青少年に顕著だったとのことです。

行為障害に関する、これまでで最大かつ最も広範な今回の研究により、この障害が脳の構造に根ざしていることが裏付けられたほか、脳の違いがこれまでわかっていたより広範囲に及んでいるという新たな知見ももたらされました。これらの知見は、脳の構造の違いと行為障害の症状との因果関係を明らかにしたり、脳の特定の領域に注目して診断方法や治療法を改善させたりする取り組みに役立つと期待されています。

パイン氏は「次なる重要なステップは、この研究で見られた脳の構造の違いが行為障害の原因なのか、それとも行為障害とともに生きた結果なのかを明らかにするべく、長期的な追跡調査を実施することです」と話しました。