(写真撮影/桑田瑞穂)

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リクルートが2024年6月に発表した住まいトレンドは「断熱新時代」。いま、住まい探しをする際に、SUUMOで「ZEH( Net Zero Energy Houseの略)」「省エネ」といった言葉を含む検索や問い合わせが増加している。そこで、今回は、高気密・高断熱住宅に住んでいる方に、「本当に夏涼しくて冬は暖かいのか」「どれだけ省エネ効果があるのか」など、実際の住み心地を聞いてみた。取材したのは、夫がカナダ出身で、神奈川県横浜市にお住まいのEさん一家。

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省エネルギー性能は最高ランク★5つの木造住宅

1年前に高気密・高断熱住宅を建てたEさん夫妻(神奈川県横浜市磯子区)。土地を買って建てた家は「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」の最高ランクの「星5」を取得している。

※UA値…外皮平均熱貫流率。住宅の熱の出入りのしやすさを表す。値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性、省エネ性が高い
※C値…相当隙間面積。値が小さいほど隙間が少ないことを表す
※Q値…熱損失係数。値が小さいほど熱が逃げにくいことを表す

(画像作成/鳥取県「とっとり健康省エネ住宅」を参照してSUUMOジャーナル編集部で作成)
※HEAT20…「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」のこと。住宅外皮水準のレベル別にG1〜G3と設定し、提案している

1年間、真夏も真冬も経験したわけだが、住み心地を尋ねると「快適すぎる」と明言。
2階建ての4LDKにも関わらず、エアコンはすべてマルチエアコンで、1階に1基(14畳タイプ)、2階は夫が書斎を使う時用に1基(6畳タイプ)と、残りの3部屋・廊下・書斎・水回りには1基(16畳タイプ)を設置、それにも関わらず、家中どの空間でも快適で、詳細は後述するが、なんと家中1台だけの稼働でも大丈夫だそう。
「高い断熱性で外気の影響を受けないので、夏でも外の気温が30度未満ならエアコンをつけない日もあります。特に年末年始の帰省で長期留守にしていた後に帰宅したら、外温度は2〜3℃だったのに、エアコン稼働ナシで室内温度が14℃程度だったときには、特に断熱効果を実感しました」(夫)

Eさん夫妻。8歳の子どものいる40代ファミリー。夫はカナダのトロント出身(写真撮影/桑田瑞穂)

断熱性の基準「HEAT20」はG2グレード(断熱等級6相当)で、UA値0.4〜0.46相当。気密性はC値0.4cm2/m2とかなりの高スペック(写真撮影/桑田瑞穂)

1階のエアコンはリビング21畳に対し、14畳タイプの1基のみ。エアコンの設定温度は、夏は27〜28℃、冬は20〜21℃と、省エネ設定(写真撮影/桑田瑞穂)

窓はペアガラス。「もっと高性能な断熱等級7にするためにトリプルガラスという選択もありましたが、コストが高い。そのため、遮熱&遮光のハニカムシェードという空気層のあるタイプをダブルで使えば、それより低コストで同じ程度の効果が得られます」(夫)。引き違い式ではなく、ドアのように開けるタイプの窓を選んだのは、密着度が高いぶん断熱効果が高いため(写真撮影/桑田瑞穂)

「ハチの巣」を表す「ハニカム」シェード。この六角形の構造が空気の層をつくり、夏は断熱、冬は保温で快適な室温をキープしてくれる(写真撮影/桑田瑞穂)

強い日差しを遮るため屋根の庇は140cmと長め。横壁も幅をもたせている(写真撮影/桑田瑞穂)

省エネ効果を実感するのが光熱費。以前の賃貸住宅暮らし時代から部屋が50m2弱広くなったにも関わらず、電気代は1万6000円から6000円と1万円もダウンしている。しかも屋根には太陽光パネルを付け、電気を売っている。「月々1万円以上、多い時には2万円以上で売電できているため、光熱費は実質タダです」(夫)

売電収入実績。「思っていた以上に売れるので驚きました」(写真撮影/桑田瑞穂)

自然のエネルギーを活かした「パッシブデザイン」に惹かれたことが契機

とはいえ、当初から「高断熱住宅を建てよう」と思っていたわけではなかったというご夫妻。子どもが大きくなるにつれ、当時住んでいた賃貸住宅が手狭になり、より広い家への住み替えを決意。建築関係の仕事に就く友人の話を聞いたり、家について情報収集したりしているうちに「土地を買って家を建てる」という夢が広がった。
「当時の賃貸の住まいは風通しが悪く、カビにアレルギーがある僕は、悩まされてきました。“風通しがいい家がいいな”という想いがスタート地点で、建築の動画などを見ているうちに、自然を活かした家づくり “パッシブデザイン”という考え方に強くひかれたんです」(夫)
パッシブデザインとは、太陽光や風といった自然のエネルギーを最大限使って、部屋を快適にし、地球に負担をかけない家づくりの手法のこと。「そのためには住宅が高気密で高断熱であることが当然必要な性能だと考えました」

「高気密・高断熱の住宅を建てたドイツ人の友人の家を訪れたら、その快適さに驚きました。僕のカナダの実家は築90年以上なので高機能ではありませんが、カナダでは新しく家を建てる場合は、高気密・高断熱がマストのようです」(夫)(写真撮影/桑田瑞穂)

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2階の寝室にエアコンはなし。空調システムで温度差なし

Eさん宅2階の2つの寝室と1つの居室にはエアコンはない。エアコンがあるのは、廊下に面した洗面台の位置で、かなりオープンな場所。というのも廊下にあるエアコンで冷やされた(暖められた)空気が、「エアパスファン」という空調アシストファンを通して、各部屋に冷暖房の風を行き渡らせる空調システムを採用しているのだ。「エアコンを稼働させたら熱を無駄にしないように!」という固定観念を覆させられ、各部屋や廊下の温度差がなくなり、常に快適な室温がキープされている。
換気システムについては、ダクトレス全熱交換型換気システムを採用しており、温度交換効率92%。室内でつくられた熱をそのまま外部に捨てずに室内に戻して再利用し、外気からの給気は、蓄熱された熱により、高性能セラミックにより熱交換をして室内へ新鮮な空気を給気する、というものだ。

2階にあるエアコンは洗面台のある廊下に設置。「エアパスファンは基本つけっぱなしで、冷暖房を稼働しないときも、弱設定の送風にしています」(夫)(写真撮影/桑田瑞穂)

寝室にはエアコンはないが、外壁側に設置してあるファンを通じて冷暖房された空気が届く。24時間稼働するダクトレス全熱交換型換気システムでは、約70秒ごとに給気と排気が入れ替わり、温度も湿度も熱交換される仕組み(写真撮影/桑田瑞穂)

吹き抜けになっている階段部分には大型のサーキュレーターを設置。夏場は暑くなりがちな2階の熱を1階に逃がし、冬場は暖房で温められた空気を2階に持ち上げ、1階と2階の温度差を無くしている(写真撮影/桑田瑞穂)

3カ所に温度計を設置。「この家に住んで常に温度を気にするようになりました」(夫)(写真撮影/桑田瑞穂)

コストは高くなるものの、税制優遇や補助金もアリ

メリットばかりの高断熱住宅だが、当然、建築費コストは高い。とはいえ、Eさん宅は長期優良住宅の認定、を受けているため、住宅ローン控除の控除限度額をはじめ、さまざまな控除・減税などのメリットがあった。それに加え、地域型住宅グリーン化事業として、高性能な木造住宅に与えられる140万円の補助金も受けられた。
「オール電化なのでガス代はなし。太陽光発電で売電をしているので電気代は実質タダ、と光熱費はダウンしました。それに高気密・高断熱住宅って、家がダメになる原因の結露やカビを防ぐ家なんですよね。人生100年時代に、長持ちする家への投資は決して高いとは思いません」(夫)。耐震等級3にするための構造計算によって地震保険が安くなった、というメリットもあるようだ。

コストがかかったものの妥協できなかったのが高機能のオーブンをビルトインした広いキッチン。「ガスを使うと室内がすぐ熱くなるのでオール電化にしました」(写真撮影/桑田瑞穂)

「高気密ではあるけれど、閉じこもるような家にしたくなくて、窓も広く採りました。冷暖房が必要でない季節は、窓を開けて、自然な風通しを体感しています」(妻)(写真撮影/桑田瑞穂)

コストをかけたのが玄関。「外気温に直接触れているうえに、空気が最も入ってしまうのが玄関部分なので、断熱性・気密性ともに高いタイプの木質のドアを選びました」(写真撮影/桑田瑞穂)

使用した木材の8割以上が国産。輸入木材は運搬のため石油エネルギーがかかり、適度な伐採は森林の環境保全にもつながっている点から国産木材の利用が推奨されている(写真撮影/桑田瑞穂)

高気密・高断熱住宅で「とにかく快適になった」という夫。
「暑い部屋や寒い部屋がなくなったのが良かったです。空気が常に循環しているので、結露やカビが発生しにくい。以前はカビのアレルギーでくしゃみが止まらなかったり、鼻が詰まったりしていたので、この新居では、身体の調子が各段に良くなりました」

人の体にも、地球にも、家にもやさしい高気密・高断熱住宅。今後ますます増加していくだろう。

●取材協力
カーサ総研


(長谷井 涼子)