店舗の床がぬれていたことが原因で客が転倒し、けがをした場合の法的責任は?(画像はイメージ)

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 雨の日は、スーパーやコンビニなどの店舗の床がぬれていることが多く、滑りやすくなっていることがあります。店内を歩くときは十分に注意をする必要があります。

 ところで、店舗によっては、床がひどくぬれたまま放置されていることがあります。このことが原因で客が転倒し、けがを負った場合、店舗側に損害賠償を請求することは可能なのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

2000万円以上の賠償を命じられたケースも

Q.スーパーやコンビニなどでは、傘から垂れる雨水や冷蔵ショーケースからの水漏れなどが原因で床がぬれていることがあります。店舗側がこうした状態を放置したことにより、客が転倒し、けがをした場合、店舗側に損害賠償を請求することは可能なのでしょうか。

牧野さん「可能です。土地の工作物(店舗建物)の設置・保存に瑕疵(かし。通常有すべき安全性を欠いていること)があることによって、他人に損害を与えた場合、工作物の占有者は、原則として、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法717条)。

また、建物所有者や管理者は、建物の安全性に配慮すべき義務、いわゆる『安全配慮義務』を負っているため、安全配慮義務違反により第三者に損害が生じた場合、民法709条の不法行為に該当し、損害賠償責任を負うことになります。

例えば、傘から垂れる雨水や冷蔵ショーケースの水漏れなどで床がぬれて滑りやすく、転倒しやすいことが予見できるにもかかわらず、放置した場合、先述の店舗建物の瑕疵や安全配慮義務違反が認められ、店舗側が責任を負う可能性があるでしょう。

さらに、店舗と利用客の間で販売契約などの契約関係がある場合には、店舗側は利用客に対し、店舗についての安全配慮義務を負います。そのため、安全配慮義務違反により利用客に損害が生じたときは、債務不履行として損害賠償責任を負うことになります(民法415条1項)」

Q.店舗によっては、「雨で床が滑りやすくなっているため、ご注意ください」と館内放送でアナウンスしていることがあります。この場合、利用者がぬれた床で転倒し、けがを負っても、店舗側が賠償責任を免れる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「館内放送でアナウンスしたり、注意喚起の張り紙を掲示したりしても、全ての客に床がぬれていることを知らせることは難しいです。安全予防措置としては十分とは言えないでしょう。

転倒を防ぐために、ぬれている場所に『スリップ注意』と書かれた黄色い標識を床に立てたり、雨天時にぬれた傘を店内に持ち込ませないよう、店舗入り口に傘用のビニール袋を設置し、傘を袋に入れさせてから入店させる措置を取ったりするなど、より具体的に十分な予防措置を取っていれば、利用者側の過失相殺により、損害額が減額される可能性があるでしょう」

Q.店舗の床がぬれていたことで客が転倒し、けがを負った件に関する判例はありますか。

牧野さん「スーパーでの買い物中、レタスから垂れた水滴によってぬれた野菜売り場の床で転倒し、左肘を骨折したとして、男性が、店舗の運営会社に約1億225万円の損害賠償を求め、訴訟を起こしたケースがあります。

東京地裁は、『サニーレタスから垂れた水滴がたまり、転倒を招いた』として、店側の床の清掃などの安全配慮義務違反を認め、店舗の運営会社に約2180万円の賠償を命じる判決を下しました。当時、男性はけがにより、自身が経営していた会社の休業を余儀なくされ、休業損害などを請求していたということです」