軍人は紛争や戦争で命を落とすことがありますが、アメリカの現役・退役軍人は戦闘よりも圧倒的に多くの人数が自殺で亡くなっているとのこと。一体なぜ軍人は自殺率が高いのか、どうすれば軍人の自殺を減らすことができるのかについて、アメリカのオーバーン大学で心理学准教授を務めるエイプリル・スミス氏が解説しています。

A longitudinal network analysis of suicide risk factors among service members and veterans sampled for suicidal ideation or attempt | Psychological Medicine | Cambridge Core

https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/longitudinal-network-analysis-of-suicide-risk-factors-among-service-members-and-veterans-sampled-for-suicidal-ideation-or-attempt/6F6AAFA8A0080E67DD385F1F1856EF45



More military veterans and active duty service members are dying by suicide than in battle - understanding why can help with prevention

https://theconversation.com/more-military-veterans-and-active-duty-service-members-are-dying-by-suicide-than-in-battle-understanding-why-can-help-with-prevention-229876

アメリカでは軍人の自殺が大きな問題となっており、2021年の調査によると2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに関連する軍事作戦で死亡した軍人は7057人ですが、同じ作戦に従事した現役および退役軍人の自殺者数は3万177人と推定されているとのこと。つまり、軍事作戦の約4倍もの人数が、自殺で死亡しているというわけです。

アメリカ軍全体で自殺を予防する取り組みが進められているにもかかわらず、依然として軍人の自殺率は高く、特に現役陸軍人ではその他の現役軍人の約2倍、一般人の約2.5倍に達するとのこと。さらに、退役軍人の自殺率はさらに高く、2021年には毎日17人以上の退役軍人が自殺で亡くなっていると(PDFファイル)推定されています。



スミス氏は、軍人を含む特定のグループにおいてなぜ自殺率が高くなるのかを研究しています。スミス氏によると、現役軍人の自殺に関連する要因には「孤独」「人間関係の問題」「職務の難しさ」「トラウマ」「生活リズムの乱れ」「ストレスの増加」「睡眠不足」「ケガ」「慢性的な痛み」などがあるとのこと。退役軍人の場合はこれらの要因に加え、「通常の市民生活への移行」に苦戦することが自殺の原因になるケースがあるそうです。

また、軍人にはその他の一般人よりも自殺を実行しやすい条件も整っています。命の危険がある職務に就いている軍人は、死への恐怖が薄く、痛みへの耐性が高く、銃器など致死性の高い武器や手段の扱いに慣れているケースが多いため、自殺を完了する可能性が高いとスミス氏は指摘しています。

さらにスミス氏は2024年の研究で、軍人の自殺念慮を引き起こす要因をリアルタイムで追跡する調査を行いました。この研究では92人の退役軍人を対象に、スマートフォンへ調査アプリをインストールしてもらい、簡単なアンケートへ1日4回、1カ月間続けて記入してもらいました。

アンケート結果をネットワーク分析という統計的手法で分析したところ、「無力感」「自分が誰かの負担になっているという感覚」「帰属意識の低さ」「他者からの疎外感」「精神的な動揺」といった要因が、軍人の短期的および長期的な自殺念慮の強いリスクであることがわかったとスミス氏は述べています。



一連の調査結果から、軍人の自殺リスクを高める慣行や状況について検討することができます。たとえば、テクノロジーの発達によって軍人同士のつながりが薄れれば、帰属意識の低下や疎外感の増加につながって自殺念慮が高まる可能性があります。また、あまりにも多忙なスケジュールは自身の仕事を振り返る余裕をなくし、無力感を増加させてしまう危険があるとのこと。

スミス氏は、軍の指導部が個人の業績よりもグループレベルの成果を優先的に評価することで、帰属意識の向上や無力感の低下を促すことができると主張。また、マッサージなどのリラクゼーション法を取り入れることで精神的な動揺を軽減し、自殺リスクを低下させられるかもしれないと述べました。