年収300万円の50歳ひとりっ子〈住宅ローンと子の教育費〉でドン詰まりだが…年金月12万円で遠方に一人住まう、80代母からのカネの無心に「どうしようもない」【FPの助言】
もしも親が老後の生活に困窮し、現役真っ只中、住宅ローンや子の教育費に追われる我が子しか頼るアテがない場合、どうすればよいのでしょうか。今回は、佳代子さん(仮名)の事例とともに高齢者への支援制度について解説します。
受け取れる年金額は月額12万円
佳代子さん(80歳)は、5年前に40年以上寄り添ってきた夫を亡くし、50歳になる一人娘も結婚して遠方に住んでいるため、現在は一人暮らし。貯金はほとんどありませんが、年金を受け取れるので生活の不安はないと考えていました。しかし、実際には受け取れる年金額は生活費に満たない水準だと知り、驚きを隠せません。厚生労働省の調査によると、令和3年度の老齢基礎年金の平均受給額は5万6,621円という結果です。
[図表1]老齢基礎年金(25年以上) 受給者状況の推移 出所:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和3年度)」※1
また、佳代子さんの夫はサラリーマンだったため、「遺族厚生年金」も受け取れます。夫は60歳まで40年間勤め上げ、生涯の給与を平均すると月額30万円程度でした。佳代子さんの場合、受け取れる遺族年金の金額は月額で6万4,125円となります。老齢基礎年金、および老齢厚生年金を合わせると、受け取れる年金額は毎月12万746円となります。果たして、老後の生活は維持できるのでしょうか。
老後の平均的な支出は単身世帯でも15万円オーバー
夫に先立たれ、一人暮らしでそこまで生活費もかからないと考えていた佳代子さん。しかし、総務省統計局の調査によると、一人暮らしの女性でも毎月平均で15万5,959円もの出費が生じることが明らかになっています。
[図表2]高齢単身世帯の男女別1か月平均消費支出(全世帯) 出所:総務省統計局「3 高齢単身世帯の家計収支の状況」※2
受け取れる年金額を考えると毎月3万円以上の赤字になり、今後10年間生きると仮定すると360万円以上も余分にお金が必要になります。上記はあくまで平均の支出です。そうはいっても人並みに暮らし、贅沢しなければなんとかやっていけることがわかり、佳代子さんはひと安心しました。
階段からの転倒により介護が必要になる
佳代子さんはスーパーへの道すがら、階段を降りた際に転倒して腰を強く打ち、介護が必要な状態となりました。はじめは忙しい一人娘へ迷惑を掛けたくないと在宅のホームヘルパーを週3回で利用しようとするも、毎月5万円以上もの出費が生じることがわかりました。結局、悩みに悩んだ結果、年金だけではどうやっても工面できないと、涙ながらに娘さんを頼り、連絡を入れました。
もちろん娘さん側で金銭的な援助ができればよいのですが、共働きで家事に子どもの世話に住宅ローンの返済にと一生懸命な娘夫婦には、母を援助する余力はほとんどない状態です。
年金が足りない場合に使える公的制度
金銭的な援助はできず、子育てやパートで忙しい一人娘ができることはあるのでしょうか?
どうしようもないと嘆くには時期尚早でしょう。援助のひとつとして、高齢者に向けた制度を探し、本人に代わり検討してあげることがあげられます。日本では、生活の苦しい高齢者のために「年金生活者支援給付金」「高齢者向け給付金(年金生活者等支援臨時福祉給付金)」などの制度も用意されています。
とはいえ、いずれも所得・資産面での制約もあり、それなりの年金収入を得ている佳代子さんが利用するのは難しそうです。公的制度以外では、リバースモーゲージという選択肢もあります。リバースモーゲージでは、生きているあいだだけ自宅を担保にしてお金を借りられます。相続でのトラブルなどが指摘される制度ですが、子どもに負債が残らないようにすることも可能です。
母の死後、娘夫婦が移り住む予定がないのであれば検討の余地があるでしょう。日本では、少子高齢化により年金の受給額は減少していくと予想されます。さらに、近年の日本はデフレからの脱却をはじめているため、物価が上昇すれば受け取れる年金の実質的価値はさらに目減りしてしまうでしょう。生活が苦しい親がいる場合、金銭的な援助ができなくても、なんらかの制度を紹介することで支えになる可能性があります。
<参考>
※1:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和3年度)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001027360.pdf
※2:総務省統計局「3 高齢単身世帯の家計収支の状況」
https://www.stat.go.jp/data/zensho/2004/tansin/gaiyo7.html
北川 和哉