シーズン序盤戦の好調が嘘のように、苦しい戦いが続いている直近3戦。それらを経て、3週連続開催の最後となるシルバーストン(第12戦イギリスGP)にやって来た角田裕毅は、強い風に吹かれて寒そうにしていた。

「今日はすごく寒いですけど、ここのファンの雰囲気は特別です。サーキットのレイアウト自体もマゴッツ〜ベケッツの高速S字は鈴鹿のセクター1みたいで、走っていて楽しくてすごく好きです。走るのが楽しみです」

 かつては、ここにほど近いミルトンキーンズで暮らしていただけに、馴染みのある土地だ。F1以外のマシンでも走り込んだサーキットでもある。


角田裕毅にとってシルバーストンは馴染みのある土地 photo by BOOZY

 2戦前のスペインGPに投入したアップグレードがうまくいかず、1週間後のオーストリアGPでは2台で仕様を分けて検証作業をすることになってしまった。旧型仕様で走った角田は苦戦を強いられ、それでも入賞目前までいきながらも戦略がうまく噛み合わず、無得点に終わった。

 しかし、チームとしてはダニエル・リカルドが9位入賞を果たし、2台別々の仕様で走ってデータ収集に努めた甲斐もあって、その後のデータ分析は順調に進んだという。

「チームとしては、いいデータを採れて多くのことを学びました。何が問題を引き起こしていて、なぜパフォーマンスを発揮できなかったのかもきちんと理解できましたし、どういった形でクルマを走らせるかも固まりました」

 結局、アップグレードパッケージのうち問題のあった部分を究明し、そのパーツは取り外してそれ以外の部分を生かす、という結論に達した。

「結論としては、今週末はスペインGPとオーストリアGPのハイブリッドパッケージを使います。今週末は少なくとも、バルセロナの時よりもうまく機能すると自信を持っています。そこからひとつずつビルドアップしていき、いい結果につなげられればと思っています」

 シルバーストンは時速200kmを超える高速コーナーが5つもあり、ダウンフォース量を要求する。しかし、同時に長いストレートが4本あり、空気抵抗は少しでも削り取らなければならない。

 相反するそのふたつのファクターを、どのレベルでバランスさせられるか──という勝負。それが、シルバーストンというサーキットだ。

【RBが得意な低速域のコーナーもあるが...】

 バルセロナやモナコのように、とにかく中速コーナーでダウンフォースがたくさんあれば速く走れるというサーキットではなく、ダウンフォースがあっても空力抵抗が大きければ遅い。逆に、いくら空気抵抗が小さくストレートが速くても、十分なダウンフォース量がなければ高速コーナーで大きくロスしてしまう。そしてタイヤも傷めてしまう。

 端的に言えば、最大ダウンフォース量よりも、空力効率の高さが重要になるサーキットだ。

 中団グループのなかで言えば、その筆頭はハースだ。ダウンフォース量は決して多いわけではないが、空気抵抗が小さく、ストレートが抜群に速い。

 もともとは決して狙って作り上げたものではなく、ダウンフォースが十分に確保できない結果として空気抵抗も小さいマシンになったという。だが、着実にアップグレードを重ねることでダウンフォース量も改善し、バルセロナではそれまで課題としていた高速コーナーも大きく改良してきた。

 そして今回のイギリスGPにも、さらなるアップグレードを投入してくる。

 RBとしても、コンストラクターズランキング6位を争うハースの動向には目を光らせ、意識している。前戦のオーストリアではダブル入賞、しかも6位・8位という大量得点を許してしまった。

「ハースも今週末はアップグレードを持ち込むと聞いているので、彼らにも目を向けておかなければいけません。彼らは空力効率がすごくいいマシンなので、高速サーキットでは速いです。今週末も速いだろうと予想しています。

 僕らの強みは低速域で、彼らとはむしろ真逆の方向。なので、ラクな戦いにはならないと思います。ものすごくタイトな争いのなかで、僕らはもう中団トップのマシンとは言えないので、開発に集中していく必要があると思っています」

 RBは、高速コーナーをそれほど得意としているわけではない。シルバーストンは得意な低速域のコーナーも3つほどあるが、苦手とみられる長く回り込む高速コーナーも多い。

【わずか0.3秒差で最下位になる超接戦】

 そのなかでマシンパッケージの潜在能力を最大限に引き出し、ドライバーもチームもミスのない完璧なレース週末にすることが必要不可欠になる。0.1秒でポジションがいくつも変わり、0.3秒で中団トップから最下位まで入れ替わってしまう。それが今の超接戦のF1中団グループだ。

 カナダのブレーキングミスに始まり、スペインのアップグレード失敗で失った流れを、ここでしっかりと取り戻したい。

「アップグレードを失敗したことで多くのことを学べたことは、失敗がなければ学べなかったことでもあるので、今後に向けていい収穫だったと思っています」

 失敗を受け入れ、向き合い、そこから学んで成長につなげる。オーストリアGPはその飛躍のための代償だった。

 今週末こそ、その成長を見せるべき時だ。