3月に『もう明日が待っている』(文藝春秋刊)を上梓した、鈴木おさむさん。放送作家として19歳でデビューして以降、32年間第一線で活躍してきた鈴木さんですが、今年の3月31日をもって引退。そこで今回は新たな仕事に臨む気持ちや家族への思いについてお話を伺いました。

新たなことへの挑戦は「可能性」を広げていけると思ったから

――19歳にデビューした放送作家を3月末で卒業し、数か月経ちましたが、今の生活はいかがですか?

鈴木おさむさん(以下、鈴木):7月から次の仕事が本格的に動き出すので、準備がめちゃめちゃ忙しいですね。生活面では、映像を“つくり手”目線で見なくなっていたり、原稿のしめ切りに追われることがなくなったり…というのは大きな変化として感じています。

――「トキワ荘」のような空間をつくりたくて、若者を応援するファンドを始めたと伺いましたが、なにかきっかけはあったのでしょうか?

鈴木:6年前にシェアオフィスをつくったことをきっかけに、僕の経歴や、やってきた仕事を知らない、そしてSMAPのこともあまり知らないような若い子や起業家とたくさん会う機会がありました。その体験から、ファンドへの挑戦を通じて、32年間やってきた仕事の器を変えて、自分の可能性を広げていけると思ったんです。

僕の経歴を知らない人との会議では、そこの場で「いいことを言えたか」がすべてじゃないですか。それってめちゃくちゃフェアだなって。経歴とか名前が通じない、そういう新しい関係を、テレビ以外の人と意図的につくっていきたいなと思いました。

そのまま業界にしがみついているよりも、外に出て自分の経験を生かして、そこで結果を出したら、テレビをつくっている人たちってやっぱりすごかったんだと思ってもらえるし、なにより自分がおもしろい! そういう意味で、新しい仕事は僕にとって、「新しい地図」ですね。

絶対ファンドも当てに行って、大企業をつくりたい、全力でバットを振っていきたいです。その本気のトライがないと、放送作家やめた意味もないですよね。

ピンチを一緒に楽しめる家族の幸せ

――仕事を含め、大きな決断には家族の理解も必要だと思います。鈴木家の家庭円満の秘訣はありますか?

鈴木:この前、家族でニューヨークに行く予定が笑福(鈴木さんの長男)のエスタ(観光ビザ)が通らなくて、行けなくなっちゃったんです。申請を待っているときに、もうこれ無理だなと確信して(笑)。

でも、ガッツリ取っていた休みをムダにしたくはないなと、その場で石垣島のホテル調べてみたらあき枠があったんですよ。航空会社の人に航空券を聞いたら、これも家族の分の枠が奇跡的に1枠あって…急きょ行き先を変更しました。

――そのやりとりを聞いて、奥さまの大島さんはなんとおっしゃってましたか?

鈴木:大島さんは横で「おもしろくなってきたじゃねえか」って爆笑。その爆笑で、「あぁ、やっぱり夫婦だな」って、23年目ですけど同じ感覚をもっているなって改めて思いました。ある意味ピンチだけど、「最高におもしろいじゃん」って。

そういうときの気持ちのきり替えの早さ、高まりが夫婦で共有できている、息子にもそういう姿を見せられてよかったと思います。実際、石垣島の旅行は現地の人がニューヨークに負けない思い出を! って協力してくれたり、インスタで情報集まったりして、最高の体験でした。

質問の答えになっているかは分からないし、夫婦によって違いはあると思うんですけど、僕らの生き方にとってはアドレナリンが出る瞬間とか、おもしろく生きようと決めている価値観が一緒っていうのが、とても大事ですね。

だから、たとえば大島さんが妊活するって言ったときも誇らしかったし、それに対してなにか返さなくてもいいのかなって思って、僕は育休をとりました。このままじゃ、生きていておもしろくないということを理由に放送作家を辞めるときも、大島さんはなにも言わなかったです。それは、大事にしている生き方を、夫婦で共有できているからだなって思っています。

子どもの「好き」を見つけるまで待ちたい

――長男の笑福さんも9歳になりましたが、お子さんの教育で気をつけていることはありますか?

鈴木:自分の好きが見つかるまで強要しないってことですかね。選択肢は与えるけど、無理矢理やらせない。僕なりに、いろんなエンターテインメントとか、物語を見せるのは大事だと思っていますが、単に子ども向けだからという映画ではなく、僕も見たい映画を一緒に見たり、そういう時間はたくさんつくっています。

――「好きが見つかるまで待つ」。すごくいい言葉ですね。では、勉強に関してはいかがですか?

鈴木:大島さんとも、無理にお受験させたくないとか、そういう価値観は合っています。今の時代、自分で調べようと思ったら、ネットでもSNSでもいろいろ調べられるじゃないですか。いずれ計算とか覚えることは、“ChatGPT”がやってくれるようになるかもしれないし。

だからこそ、なにが正しいんだろうと自分で模索していかなきゃ行けないと思っていて。自分から興味が出れば勉強もするし、努力もすると思う。だから、なにか強要してやらせることはしたくないですね。

自分しかいない!って思い込みをやめることでラクに

――家族のあり方から、仕事の辞め方も鈴木さんの本や行動を参考にする人が増えているかと思います。考え方を聞いて、ラクになったという人もいれば、なかなか踏みきれない人もいると思いますが、迷っている人にアドバイスはありますか?

鈴木:仕事に関しては、「職場には俺が絶対必要だ!」って勝手にみんな追い込んじゃっている所があると思っていて。芸能界でもスターが辞めたときに「大変だ」「辞めないで」って大騒ぎになる。

だけど、その穴って新たなスターが出たり、周りの人の結束が高まったり、いろんな形でちゃんと埋まって行くんですよ。それは、どの仕事もそうなのかなって僕は思います。自分の存在意義を保つために、みんな無理矢理自分に言い聞かせているところがあると思うので、その考えはやめた方がラクになると思いますね。

――たしかにどこかでそういう風に思ってしまうところはあるかもしれませんね…。

鈴木:あと、「50歳」という節目は、動けるチャンスだと思ってるんです。60歳になったら、いろいろ体の痛いところもあるだろうけど、50歳ならまだ全然動けますから。40代って会社員なら出世レースとか、フリーランスでも若手扱いされなくなってしんどい年代ではありますよね。

僕は放送作家として仕事をしながら、50代をどうおもしろく生きるか、人生は1回なんでいろいろ考えていました。過去のものにこだわるよりも、そのスペースをあけて新しいものをつくり、挑戦していく方が楽しい! と僕は思っています。